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俺様日記~魔界行~  作者: 清野詠一
18/27

ロング・アフター・ミッドナイト



「何でまどかがここにいるんだ?」

と、思いっきり嫌そうな顔の真咲姐さん。

そして

「何で姉さんまでいるのよぅ」

訝しげな表情のまどか。

「あやややや……セレスしゃんまで来てるんでしゅ」

ラピスが不機嫌な顔でそう言えば、セレスはセレスで

「_洸一さんに、どうせだから来い、とまるでオマケ扱い的に言われましたもので」

気が付けば、何時の間にやら11人もいるっ!?大所帯の夕飯の席。

僕チャンはまどかに殴られ真っ赤に腫上がった頬で、真咲姐さんと穂波が作った鳥の唐揚げを、鼻をクスンクスンと啜りながら貪り食っていた。


とほほ……なんでいつも、こんな事になっちゃうのかなぁ?

いつも同じ面子で……しかも仲が良いのか悪いのか分からんし……

そして何故かいつも俺は巻き込まれるし。

何かこう、特別な縁みたいなモンでもあるのかな?


ふと、『チリーン…』と、風鈴のような何か金属的なモノが擦り合う、そんな不思議な音が耳に響いたような気がした。



夕飯の後はお片付け。

そして勉強の再開だ。

我が家のユニットバスは大きさからして二人ずつしか入れないので、今は穂波と智香が入っている。

残りの皆は勉強、と言うことなのだが……


「……ぬぅ」

俺は美佳心チンが用意してくれたテキストから顔を上げ、居間に置いてあるテレビを見つめる。

画面には、何やら格闘系のゲーム画面が映し出されていた。

プレイしているのは、まどかとセレスだ。

「……おい、まどか」


「ん?なによぅ」

と、ゲーム画面を見つめたままでまどか。

気だるそうな口調とは裏腹に、物凄い速度と的確さで、コントローラーを操っている。

プロかコイツは?

「お前も来週はテストなんだろ?良いのか遊んでて?少しは勉強をした方が…」


「言わなかった?学校のテストなんて、私にとっては余裕だもん。遊んでいても、TOP10ぐらいには軽く入れるから平気なの」


「……あらそう」

生れ付き出来る子はエエですねぇ……楽で。

「セレスは勉強しなくて良いのか?って、まぁ余裕だわな」


「_当然です」

セレスも画面を見つめながら答えた。

「_学校における勉強と言うものは、あくまでも暗記が主体です。私達AIは、無から何かを創造することは出来ませんが、暗記、即ち記憶するという一点においては、遥かに生身の人間のそれを上回っております。現に私のAIは、現時点における最高レベルの学問を全てインプットしてありますので、今更テスト勉強等というのは……有体に言ってしまえば、ちゃんちゃらおかしい、と言うことです」


「だけどラピスは必死になってやっておるぞよ?」

目の前に視線を移すと、ラピスが数学の参考書を前に、「あぅあぅ」言いながら必死に問題を解いている所だった。

何かこう、残念にも程がある、と言うような絵面だ。


「_……AIにも、出来不出来があります。特にラピスさんに至っては、恐らく基幹システムに致命的なバグでもあるのでしょう」


それは世間的には不良品って言わないか?

「さすがにそこまでの事は無いと思うけど……おい、ラピス。勉強は捗っておるかね?」


「はややややややや……しゅ、数学は苦手なんでしゅよぅ」

ラピスは既に半べそだった。

「物理も苦手でしゅ。ラピス、数字の出てくる教科は弱いんでしゅ。蕁麻疹が出るでしゅよ」


「そ、そうか」

AIなのに数字が苦手とは……

ラピスのシステムは、日本語ベーシックで動いているんじゃなかろうか?

ってか、蕁麻疹って……


「で?そーゆー洸一はどーなのよぅ」

コントローラを放り投げ、まどかはにじり寄って来るや、俺の手元からテキストを引っ手繰った。

そしてザッと解答を眺め、心底呆れたように、

「なによぅ。殆ど間違ってるじゃない」


「そ、そうかなぁ?」

ま、合ってる方が驚きだがな。


「そーよ。ったく、どーゆー脳みそしてんだか……一度カチ割って、中身を見てみたいわ」


ぐぬぅ、こ奴なら本当にやりかねないな。

「い、良いんだよ。俺の最終目標は赤点回避だからな。自慢じゃないが志は低いんだよ」

言って俺は、再びテキストに取り掛かる。

と、お風呂場方面からトテトテと足音が響き、

「お風呂お先にぃ♪」

穂波と智香が戻って来た。


ほほぅ……

智香はシンプルな、青を基調としたパジャマを着ていた。

穂波は……ピンクが主体の、所狭しとやたら可愛げの無いクマ公のイラストが描かれたパジャマを装着している。

なんだかなぁ、と言う感じだが、お風呂上がりの彼女達は、ちょっとだけ色っぽく見えた。

艶やかに濡れた髪などは、年頃純情青年である俺としては、グッと来るものがある。

例えそれが、キ○ガイと馬鹿でもだ。


「お次は誰が入るぅ?」

と、髪にタオルを巻きながら穂波。

「あ、私は勉強もしてないし……先に入って良いかな?」

まどかが席を立った。

そしてボォーッとしながらも、恐ろしいぐらい高速で問題集を埋めて行くのどかさんに、

「姉さん、久し振りに一緒に入ろうか?」

「……」(コクン)

魔女様も席を立つ。


うむぅ、美人姉妹の入浴ですか……

ちょいとドキドキしますのぅ。

入浴シーンを想像し、思わず鼻の下がモンキー並に広がってしまう。

うむぅ、湯上りの先輩も、さぞかし色っぺぇに違いない。

そしてまどかも……ん? 

「って、おいまどか」


「ん、なぁに?」


「お前……なんかどさくさ紛れにやって来たんだけど、パジャマとかタオルとか、用意してあるのか?」


「ちゃんとセレスに頼んで、お泊りセットを持って来てもらったわよ」

言って彼女は、小さ目のボストンバッグを掲げた。

そして「むひひ…」と、何か企んだような笑みを溢しながら、フカフカのバスタオルと何やらスケスケのパジャマを中から取り出し……って、スケスケ?


「――ぬぉいっ!?な、何だよそれはっ?」


「へ?何って……ただのルームドレスだけど?」

まどかは微笑みながら、少しピンク掛かった透け透けにも程があるぞと言わんばかりの布切れを手に取って、俺の目の前でヒラヒラとさせた。

「どう?そこはかとなく魅力的でしょ?」


「お前は有閑マダムかっ!?ってゆーか、何がルームドレスだ。世間一般では、それはネグリジェって言うんだよッ!!」


「まぁ、そうとも言うわね」


お、おやまぁ、そんなにアッサリと……

「あのなぁ。お前の羞恥心は、どこで迷子になってるんだ?女の子同士ならともかく、俺は男だぞ?見ろ、皆呆れて、ポカーンと残念な子を見る目つきになってるじゃねぇーか」


「な、なによぅ。洸一だって、ドキドキしてるでしょ?」


「お前の脳構造にドキドキしただけだ。だいたい、俺は至極真っ当な高校生だぞ?そのようなアダルツな寝間着より、ごく普通の可愛いパジャマにハッとしてグッと来るわい」

ちなみに、一番グッと来る寝間着は浴衣だ。

二番目は、男物Tシャツに男物トランクスを穿いた女の子だな。

うむ、これぞ夢なり。


「ふ~ん、そーゆーモンかぁ」

まどかは何故か感心したように何度も頷くと、

「だったら普通のパジャマにしよっと♪」


「ぬぉいっ!?お前はたった一泊なのに、まだパジャマを用意しているのかよっ!?」


「当たり前でしょ?女の子の嗜みよ」

そう言って、まどかはのどかさんと連れ立って浴室へと消えて行った。


「……ったく、何だかなぁ」

俺はポリポリと頭を掻きながら、何時の間にかセレスが持って来てくれたお茶を一啜り。

そして独りごちるように、

「たかが友達の家に泊まるぐらいで、何でパジャマを二つも用意してるんだか…」

俺なんか友達の家に行く時は手ぶらだぞ。

しかも泊まる時は、寝間着を貸せって言うぐらいの傾奇者だぞよ。


「ふ、さぁな。アイツはああ見えてもお嬢様だから、一般常識とはかけ離れているんだろ」

と、問題集を解きながら真咲姐さんは相槌を打つ。

「そもそも、寝るのにパジャマは邪道だ。格闘家足る者、何時如何なる時も有事に備え、寝る時はジャージが一番だと思わないか?」


「……それもどうかと思うぞ?」


「そ、そうか?だったら私も今日はパジャマにしよう。ふ、実はこんな事もあろうかと、ジャージ以外に二着程用意してきたしな♪」


「そんな満面の笑顔で言われると、僕としては全く突っ込めないんですけどねぇ」



俺を除く全員がお風呂に入り、居間は何だか、ポヤ~ンとした雰囲気になっていた。

若く瑞々しい肌から立ち昇る石鹸の香りに、艶やかな洗い立ての濡れ髪。

そして美少女達が着こなす、色取り取りの華やかなパジャマ。

ここはもしかして桃源郷?

現代に甦った永遠のシャングリラ?

勉学の為に脳に集結した熱き血潮が、何故か下腹部方面へと逆流しちゃいそうになるが……落ち着け、洸一。

確かに、一見するとここは若き男の夢と欲望が詰まったハーレム的ワンダーランドに見えるかもしれないが、集った女の子達は実はアマゾネスだ。

隙を見せた瞬間に、襲われるかもしれない。

汝、惑わされる事なかれ。

常に警戒を怠るな!!


「さ、さぁ~て、そろそろ僕ちゃんもお風呂に入ってこようかなぁ~っと」

テキストを閉じ、俺はゆっくりと立ち上がる。

足が少し痺れてジンジンとした。

今日はのんびりと、お風呂に浸かろうか……


と、そんな俺を見て、まどかが良からぬ事を思いついたのか、またもや「むひひ」とほくそ笑むと、

「ねぇ洸一。背中、流してあげようか?」


ば、馬鹿なことを言うにゃっ!!

と、いつもの俺様なら純情少年ばりに頬を赤らめちゃうところだが、そういつもいつも、俺様が黙ってからかわれているだけの弄られキャラだと思うなよ?

「ほほぅ、そいつは有難い。是非、流してくれぃ」


「……へ?」

まどかは瞳をパチクリとさせた。


ふっ、どうよ、まどか!!

今度は貴様がうろたえる番だぜっ!!

「ンだよぅ。背中流してくれるんだろ?」


「ふっ、仕方のないやつだ」

と、何故か真咲さんが頬を染め、立ち上がる。

それが合図だった。

穂波もラピスも美佳心チンやその他諸々も、いざ風呂場へ行かん、と言わんばかりに立ち上がり、俺を見つめる。

そして当のまどかはと言うと、

「ちょ、ちょっとッ!?洸一の背中は私が流すんですからねッ!!」

入る気満々だ。


や、やべぇ……

俺様ともあろう者が、戯言で自ら窮地を招くとは……墓穴を掘るとはまさにこの事だね。

「え、え~と……取り敢えず、落ち着け諸君」


「そーよっ!!」

と、まどか。

「洸一は私に流して欲しいと言ったんですからねッ!!」


「いや、先ずはお前が落ち着け」


「そうだぞ、まどか」

真咲姐さんが腕を組み、フンガーと鼻息も荒く、

「洸一が言ったのは、実は冗談だ」


「そ、その通りっ!!」

さすが真咲しゃん、分かってらっしゃる。


「洸一は貴様ではなく、本当は誰でも良いんだ」


「全然違うっ!?」

何も分かってねぇーよ、このひと……


「じゃあ洸一。一体誰に背中を流して欲しいのよぅ」

まどかがギンッ!!と、ビームでも出そうな瞳で俺を睨み付けて来た。

その他の面々も、嫌になるほど殺気の篭った眼差しで俺を睨んで来る。


ぬぅ……

「いや、誰と言われても困るというか何というか……」

誰を選んでも角が立ちそうだ。

即ち、ブン殴られるということだ。


「この際だから正直に言いなさいよっ!!」

まどかが詰め寄って来た。

「洸一は、この中で誰に背中を流して欲しいの?早く答えるッ!!」


「あぅぅ……ぼ、僕はその……あ、だったらジャンケンとかアミダクジはどう?知ってるかい?アミダクジは阿弥陀如来が考案したクジなんだぜ?ま、大嘘だけど」


「そんなまどろっこしい事は無しよッ!!問題は、洸一が誰を選ぶかって事なのッ!!」


はうぁっ!?

「と、突発的にそんな究極の選択を迫られても……」

カレー味のウ○コを食うか、ウ○コ味のウ○コを食うか選べって言われてる様なモンじゃないかぁ……


まどかは俺を見つめている。

皆も俺を見つめている。

そして俺は……ともかく逃げ出したいッ!!

さっきから胃が物凄く痛いし!!

どど、どうしたら良いんだ……


「……プッ」


「へ?」

突然、まどかはクスクスと笑い出した。

皆も一様に、口元を押え笑っている。

「あ、あのぅ…」


「あのねぇ。冗談に決まってるじゃないの」


「……はい?」


「一緒にお風呂に入るなんて恥ずかしいこと、出来るわけないじゃないのぅ。何を泣きそうなぐらい真剣に悩んでいるんだか……本当に馬鹿ね、アンタは」


「え?え?つまりそれは……どーゆーこと?」


「ちょっとした冗談や」

と、美佳心チンが可笑しそうに俺を見つめながら言った。

「そもそも優柔不断な洸一君が、誰かを選べるワケないやろーに」


「ま……待て待て待てーーーぃッ!!?つまり俺は……皆にからかわれていたって事?」


「そーや」

と美佳心チンが言うや、皆は一斉に頷いた。

そして俺は、

「ち……ちくしょーーーーーッ!!」

と叫び、泣きながら風呂場へ駆け込んだのであった。



うぅぅ…ちくしょぅぅ……

皆して、俺様をおもちゃ扱いにしやがって……

こうなったら俺もいつか必ず、大人のオモチャで仕返ししてやるからな!!

・・・

って、もう自分でも何を言ってるのか良く分からねぇーーッ!!


俺はグスグスと咽び泣きがなら、脱衣場でシャツを脱ぐが、

「ん?…んんん??」

そのまま暫し、固まってしまった。


脱衣場に置いてあるプラスチック製の脱衣籠。

その中に、見慣れぬ物体を発見した。

取り敢えず、何やら小さい。

色は白とピンクのストライプ。

これは一体、なんじゃろう?


ゆっくりとその物体に近づき……そして俺は仰け反った。

「こ、これはよもや……いや、まさしく……パ、パンティェッ!!?」

ドカーンと何かが心の中で炸裂する。

下腹部に鎮座している将軍様は、何故か既に半勃ち状態だ。


ぬぬぬぬぬぅぅ…

俺は食い入るように、脱衣籠に取り残されているト○ネコだって発見出来ない魅惑のアイテムを凝視する。

正直、かなり興奮していた。

ここで一言、断っておくが、俺は下着フェチではない。

そのような特殊な性癖は所持していない。

だがしかし、少しこの状況を考えれば分かるが、これは実に興奮する。

もしもこの下着が、その辺の道端に落ちていたとしたならば、俺は完璧にスルーしていた事だろう。

だがしかし、ここは俺の家の風呂場へと続く脱衣所。

即ちこれは、現在居間で屯している年頃美少女たちの忘れ物。

言わば鮮度抜群、産地直送、脱ぎたてホヤホヤの逸品。

なぁ……分かるだろ?

同級生の女の子の脱ぎたて下着が、今この、手を伸ばせば届きそうな場所に置かれているんだぜ?

お釈迦様だって思わずゴクリと唾を飲み込むさッ!!!


「う、うむぅぅ」

ま、待て待て待て……取り敢えず落ち着け洸一ッ!!

先ず考えなければならないのは……これは一体誰のだ?と言うことだッ!!

一番確率的に高いのが……うむ、俺の直前に入った奴だな。

って言うか、そうとしか考えられん。

となると、俺の前に入ったのは……

真咲姐さんと優チャンだッ!?

つまりこの下着は……そのどちらかが穿いていたと言うことだっ!!

ビバッ!!


「ま、真咲しゃんか優ちゃんの下着……」

口の中に大量の唾が溜まる。

よもやこのような場所で、まるで秘仏の如く普段は決して観覧する事の出来ない、見目麗しい乙女の下着様を拝見することが出来ようとは……あぁ、有難や有難や。

だが、ここで焦ってはいけない。

いきなりこのアイテムを手に取り匂いを嗅いじゃう等と言う野蛮かつ卑猥な行為は、紳士のすべきことではない。

ここは慎重且つ迅速に、これからの行動を考えてみなくてはッ!!


「と、取り敢えず……当面の選択肢は3つだな」

即ち、

①紳士故に、ここは正直に忘れ物だよと言って彼女に手渡す。

②紳士故に、ここは本能の赴くまま先ずはじっくりと観察し、そして次に色々と愛でてみる。そして最後は家宝に決定。

③紳士故に、ここはグッと我慢。僕は何も見なかった。

先ず、③は却下である。

何も見なかった、と言うのは無理がある、

何故なら、俺は既にジッと食い入るように見ているからだ。

男として、視線を外す事は出来んっ!!

それは種としての背信行為だッ!!

次に①だが……これも少し、考え物だ。

何故なら、彼女達は乙女だけど、思考回路的には非常に直線的というかバイオレンスと言うか、考える前に手足が動くタイプの人類なのだ。

だからもし、俺がこの究極のアイテムを手にしたまま、

「誰かの忘れ物だよぅ」

と尋ねた瞬間、確実に止めを刺されちゃう可能性がある。

もちろん、理由なんかそこには無い。

バーサーカーどもに理屈は通じないのだ。


「と、なると……むぅ、悲しいけどやはり選択は2番か。残念だなぁ……うひひひ」

そうじゃないかと思ってたんだよ!!

そろそろ俺にも、何かご褒美が欲しいと願っていたんだよッ!!


「で、では取り敢えず……先ずは手触りを確認させてもらおうかのぅ」

俺はゆっくりと、男に取っては金を出しても手に入れたいと願う、乙女の着用していた下着に手を伸ばすが……

「ぬ、ぬぅ」

その手がピタリと、究極の至宝まであと僅かという所で止まってしまった。


……ま、待てよ?

待てよ待てよぅ?

洸一チンよ……今暫く、冷静になってみようじゃないか。

確かに、俺の目の前には、年頃美少女着用済みの下着が鎮座ましましている。

が、このようなドリーミーなシチュエーション……果たして現実に起こり得る事であろうか?

答えは、否、である。

そのような僥倖、ただでさえ守護星のスキルが『不幸』と言う残念な俺の身の上に起る筈が無い。

つまりだ、今この目の前に置いてある魅惑の宝物ほうもつは……ズバリ、罠に違いないッ!!

ブービートラップだ。

これを触ったり被ったりした瞬間に、どこからともなく皆が顔を出し、俺様を変態扱いにして笑う気なのだ!!

ソーシャルメディアにUPすらするかも知れん!!


「さっきの事もあるし、アイツ等ならやりかねんか」

危ねぇ危ねぇ……なんて巧妙に仕組まれた罠なんだ。

だが、それに引っ掛るほど俺様は馬鹿ではないわっ!!


と言うわけで、俺はお宝には一切触れず、脱衣場から出るや居間へ舞い戻り、

「ぬぉいッ!!脱衣場に着用済みパンティーが一枚、取り残されているぞ。桃色と白のストライプの可愛いやつ」

そう正直に告げた。

その瞬間、「あっ」と声を上げて立ち上がったのは真咲さんだった。

そして顔中を真っ赤に染め上げ、

「み、見るなーッ!!」

と大絶叫。

更に僕様に対して小パンチ+小パンチ+大パンチ+サマーソルトキックが炸裂。

俺は血反吐を撒き散らし、スローモーな動きで床に崩れ落ちた。


あ……あれれれ?

真咲は「うわぁーん」と泣き声を上げながら脱衣所へ走って行く。

ひょっとして……本当に忘れていたのか?

罠じゃ…なかったのか?

俺は自らラッキーをスルーしちゃったって事なのか?

ちくしょう……深読みし過ぎた!!

こんな事なら、頬擦りしたりクンクンしたりしておけば良かった……無念、也。



風呂の中で人知れず皆に対して復讐を誓いつつ、出てからは再びお勉強の開始。

寝間着代わりのゆったりとしたスウェットに身を包み、美佳心チンの用意してくれた物理のテキストに取り掛かっていると、俺の隣に座っている、特徴的なポニテを解いて長い髪をタオルで巻いたまどかが、ちょいちょいと腕を突っ突きながら、

「ねぇねぇ、お風呂上りのデザートは?」


「……何を言うてるのだ、お前は?」


「アイスが食べたいなぁ」


アイスか……

少しだけ俺は喉を鳴らした。

確かに、風呂上りのアイスは格別だ。

それは認めよう。

しかし……冷蔵庫の中にあったっけか?


「真咲しゃん…」


「ん?アイスは買ってこなかったぞ」

穂波と共に買い物に行った真咲姐さんは、問題集から目を離さず、けんもほろろにそう言った。


「と、言うわけだ、まどか。諦めろ」


「え~~……だったら買って来てよぅ。近くにコンビニがあるじゃない」


「何故、俺に言う?」


「だってぇ、私パジャマだもん」

まどかは自分の着ている青地に星型マークがプリントされた、ちょいと可愛い系のパジャマを見せ付けるようにしてそう言った。

ちなみにのどかさんのパジャマは、同じく青地に三日月マークのパジャマだ(しかもとんがり三角ナイトキャップ付き)。


「あん?パジャマがどうした?コンビニぐらい、俺なんかトランクス一丁で行けるぞ?」

時々、お巡りさんに怒られるがな。


「アンタみたいな野蛮人と一緒にしないでよぅ」

と、バーバリアン並の怪力を誇るまどかがプゥ~と頬を膨らました。


全く、我侭なやっちゃなぁ。

ってゆーか、人様の家に勝手にやって来た挙句に飯食って風呂に入りあまつさえデザートを所望するなんて、ある意味尊敬しちゃうぜ……俺もそこまで無神経になりたいもんだ。

俺は苦笑いを浮かべ、頭を掻く。

するとセレスが微笑みながら、

「_あの……私が行って来ましょうか?」

さすが、メイドロボである。

だがしかし、

「いや、いいや。俺が行くわ」

俺は腰を浮かし掛けた彼女を手で制し、ゆっくりと立ち上がった。

例えメイドロボとは言え、このような夜更けに女の子を一人出歩かせたとあっては、神代洸一の男が廃るって言うもんだ。

ま、俺も何だかアイスが食べたくなったし、勉強疲れの気分転換を兼ねてちょいと行って来るか。

「それじゃあ、ちょっくらコンビニ行ってアイスか何か買ってくるわ。んで、何が良い?」


智香:「チョコ系のアイスね」

真咲:「そうだな。私は何かフルーツ的なアイスが良いな」

美佳心:「ウチは氷系のモンがエエ」

優ちゃん:「あの、私はスポーツドリンクのアイスで…」

姫乃ッチ:「……バニラが良いです」

のどか先輩:「宇治金時……好き」

まどか:「期間限定の高級アイスね。一番高い奴よ」

穂波:「熊ッ!!」


「……OKOK。取り敢えずメモを用意するから、もう一度、言ってくれぃ」



爽やかな夜風を堪能しつつ、ブラブラと鼻歌混じりに歩くこと約10分。

俺は家から一番近くのコンビニに到着した。

「いらっしゃまいませ、こんばんは」

と言う、かなり日本語的に間違ってる挨拶を受けつつ、籠を持っておもむろに雑誌のコーナーへ行こうと思ったが、止めておいた。

ただでさえ家で待っているのは血の気の多い御方達なのだ。

ちんたら立ち読みなんかしていたら、お家に帰るや

「遅いわよッ!!このパシリがッ!!」

とか何とか怒鳴られ、理不尽な暴力を受けてしまう恐れがある。

ここはさっさと買い物を済ませ、とっととお家へ帰還するのがベストな選択なのだ。


「と言うわけで、アイスでも買いますか…」

メモを見ながら、俺は指定された商品を籠の中に放り込んで行く。

ちなみに僕ちゃんは、メロンの形をした容器に入ったメロン味のアイスだ。

このチープさが、何か堪らんのだ。

ついでにお茶とかジュースの類も買っていくか……

俺はそそくさと飲料関係のコーナーへ移動するが、途中、その足が化粧品その他雑貨コーナーの前で止まった。

視線の先にあるのは、何やら可愛らしいイラストが描かれた、ちょうど俺の手の平と同じ大きさぐらいの箱。

中身は……ベストオブ避妊具、多い時も安心なコンドームだ。

そうあの、今日は産まずに今度産むからコンドームと名付けられた(もちろん嘘である)究極の避妊具。

しかもこれは、超薄型だ。

何が薄いのか全くの未知だが、何か凄そうだ。


ぬ、ぬぅ……

暫し立ち止まって、思案の俺。

どうしようか?

こんな物は必要無い、と言う事は、十二分に理解している。

理解しているのだが……何が起こるか分からないのが、俺の人生だ。

今現在、俺様の家には10人もの戦乙女達が駐屯……もとい、武装占領している。

ひょんな事から、そんな彼女達ととってもファンタスティックな一夜を過す可能性も無きにしも有らず。

例えそれが億万分の一の確率としても、いざと言う時の為にこー言った特殊アイテムを用意しておくのが、紳士の嗜みではなかろうか?

これが無くて後々責任問題に発展したら、それこそヤバイ事になってしまうのではなかろうか?

神代洸一、青春真っ只中の高校二年生……今、考える時なのです。


「……取り敢えず、非常に不愉快だがゲットしておくか。出来る男は常にあらゆる事態を想定して動くモンだからな!!ガハハハハッ!!」

等と店内で一人納得し、こっそりと籠の中に入れる。

幸いなことに、可愛い箱ゆえ、外見からはそれとは判断できない。

ま、俺様も男だし、かようなアイテムの一つぐらい、常に装備しておいてもおかしくはないだろう。

「うむ。と言うわけで、飲み物と後は菓子を少し買って帰るか」



再び鼻歌混じりに来た道を舞い戻り、お家に無事帰還。

玄関を開け、靴を脱ぎ、そして気の迷いで買ってしまった例のアレをポケットに仕舞いながら居間へ向かうと、そこは何故か修羅場になっていた。


……お、おやまぁ?一体、何をしてるんでしょうか……

居間では、真咲とまどかが仁王立ちでメンチを切り合っていた。

お互いに、世紀末覇者も裸足で逃げ出すほどの殺気を溢し合いながら、今まさに、隙あらば相手を殴り倒しちゃいます的な一場面。

一触即発な状況だ。

そして何より恐ろしいのは……

そんな真咲とまどかを空気のように無視して、みんな黙々と勉強しているところだ。

いつもの事とは言え、誰か止めに入れよと言いたい。


な、なにしてんだかなぁ……

俺はポリポリと頭を掻く。

と、セレスがやおら立ち上がり、

「_お帰りなさいませ、洸一さん」


「おう、ただいま。……で、聞きたくないけど尋ねるが、あの二人は何してんだ?」


「_いつもの事です」


「いや、それは見て分かった。んで、原因は?」


「_……さぁ?」

セレスは首を傾げた。

「_最初は、真咲さんの忘れた下着の話になり、それから次に可愛いとか可愛くないとか……更に男性に見せる下着と見せられない下着の話になり、ここぞと言う時に着用する下着の話になったと思ったら、今度は魅力的プロポーションの話題になり、最後の方は洸一さんの好みはどうだろうと言うことを話し合っておられましたが……」


「……なるほど。つまり、どーでもいい話でヒートアップしたと言うことだね?」


「_はい。それもいつもの事ですし、今は夜で活動的になっておりますから、尚更に……」


まどかと真咲は夜行性の肉食獣なのか?

「やれやれ」

俺は苦笑を溢し、二人の間に割って入る。

ったく、なんでそう、血の気が多いんやら……毎日献血でもすればエエのにね。

「ぬぉい、真咲&まどか。取り敢えず、落ち着け」


「こ、洸一!!ちょっと聞いてよっ!!」

と、まどかがガバッと俺の腕を取る。

もちろん、真咲姐さんも負けじと俺の腕を取りながら、

「洸一ッ!!まどかの戯言に耳を貸すなッ!!こいつは今すぐ、私が叩きのめす!!」

「なによぅ真咲。私とやろうって言うの?上等よ!!」

「ふっ、今日こそは引導を渡してくれる!!表へ出ろまどかッ!!」


あららららら……

洸一チン、困っちゃうなぁ。

「だ、だから落ち着けって。何をそんなに猛っているんだか……」


「だってぇ……聞いてよ洸一ッ!!真咲ったら、目玉焼きに醤油って言うんだよ?」

「そうなんだ洸一。まどかの奴は、目玉焼きはソースだと言い張るんだ。おかしいと思わないか?」


――ギャフン!!

「お、おかしいのは、君達二人だ」

俺はガックリと項垂れた。

予想以上に下らない話ですぞ。

しかも何故にそれで殺気まで溢してるんだか……

「あ、あのなぁ。って、その話はまた今度ゆっくりな。ほれ、アイスが溶けちまう。それにお菓子も買ってきたから、夜食タイムにしようじゃないか……な?」


「……そうね」

「うむ。ならばお茶でも淹れるか」

まどかと真咲はお互いに頷き、テキパキと机の上を片付け始めた。

相変わらず、喧嘩する割には仲直りも物凄く早い。


ま、喧嘩の内容がいつも深刻じゃないからな……

俺の思うところ、この二人の喧嘩と言うのは、猛獣同士がただ単にじゃれ合っているのと同じなのだ。

軽くストレスを発散させているだけに過ぎないのだ。

だから後を引かない。

それはそれで良いことだけど……

猛獣同士だから、少し暴れるだけで被害が甚大、周り(主に俺)が困ってしまうだけの話なのだ。

うむ、実に傍迷惑な二人なり。


「さて、アイスとお菓子と、それにジュースもあるぞよ。ここで少し糖分を補給して、もう少し勉強しようじゃないか」

そう言いながら、コンビニで買ってきた品を取り出す。

皆さん、「うわぁーい♪」と非常に嬉しそうだ。

なんちゅうか、女の子っちゅうのは、幾つになっても甘い物が好きですねぇ。

俺なんか、最近では菓子を買うより珍味を買って一杯呑んじゃう方が好きなんじゃが……

その辺が、男と女の違いなのかねぇ?

「ところでみんな、勉強の方は捗っておるかね?」


「はいっ♪」

と、元気な返事の優チャン。

「伏原先輩や二荒先輩に、とっても判り易く教えてもらってます」


「ほぅ……それは良かった」

俺の時は、取り敢えず殴って教える、と民生委員が飛んで来そうな過激な教育方針だったんじゃが……

「姫乃ッチはどうだい?」


「……バッチリです」

と、姫乃ッチは指でOKサイン。

うむ、そう言って頂けると、この勉強会を企画した俺様も、何となくやって良かったと思えるわい。

・・・

自分自身の勉強が、限りなく進んでいないような気がするがな。

「さて、そりでは後少し、頑張ってテスト勉強をしますかねぇ」

とか何とか言いつつ、俺様はちょいと席を立ち、憚りながら、はばかり(便所)へと向かう。

アイスを食ったら少しお腹が冷えてしまったようだ。

ぬぅ……

どうも最近、あまり胃腸の調子がよろしくないなぁ。

・・・

ストレスを溜め過ぎているのかな?

・・・

ま、ストレスも溜まるわな。毎日一回は殴られているし、週に何度かは死に掛けるし……

そんな事をボォーッと考えながら用を足し、スウェットのズボンを上げる。

その時、俺は重大な事に気が付いた。

……あれれ?

そう言えばポケットに入れてあった近藤さんは、何処へ?



スウェットズボンのポケットの中には、なーんにも入っていなかった。

ありゃ?

帰って来た時、確かにポケットに仕舞った筈なんじゃが……

もしかして何処かに落としたかな?

そんな考えが頭を過ると同時に、サーッと血の気が引く。

―――マ、マズイッ!!?

俺は慌てて便所から飛び出し、そしてそのままダッシュで居間に戻り、そしてそして、卒倒しそうになった。

テーブルの上には、俺様が買ってきた何だか可愛らしい小箱(中身は可愛くないアレ)。

そしてそれを黙ってジーッと見つめている10人の美少女達。

時が止まったかのように微動だにしない。


――ンヒィィィィィッ!!?

今もしも俺の隣に、不思議な道具を出す国民的パートナーがいたとしたならば、俺はそんな彼のポケットに強引に手を突っ込み、何かしらこの状況を打開する道具を取り出していたであろう。

だが現実に、そんな頼もしき友は存在しない。

頼れるのは己のみだ。


どど、どうする俺ッ!!

こんな時、デ○ーズ閣下だったらどう対処するッ!!

・・・

って、考えてる場合じゃねぇーよッ!?

俺は素早くテーブルに駆け寄り、宙を飛ぶようにそれをダイビングキャッチで掻っ攫い、ゴロゴロと居間を転がった。

と、取り敢えず証拠品は確保!!

後は何とか誤魔化すッ!!


「よ、よぅ…」

ぎこちなく笑みを浮かべ、俺は皆を見渡した。


「ど、どうしたの洸一?」

俺様の奇行にちょっと驚き、不思議そうな顔で小首を傾げる、まどか。


――むッ!?中身に気付いていないのか?

「い、いやぁ……どうしたもこうしたも……」

俺は作り笑いを浮かべ、皆の様子を窺ってみる。

良く考えれば、封も開けてないし……

何より、外見からそれとは判断出来ないパッケージになってるから、安心だとは思うが……

「――ゲッ!?」

智香が眉を顰めていた。

セレスもだ。

二人とも情報通だから、中身はアレだとすぐに分かってしまったようじゃが……予想外なのは、のどかさんだった。

怒ってるような困ってるような、そんな不思議な表情で、ジィィィィッと俺を見つめている。

なんかちょっと怖い。


「あ、あははははは……皆、何してるのかなぁ?」

このアイテムの正体を知ってるのは、10人中3人。

何とかなるッ!!――と思う。


「何って、それはこっちの台詞よぅ」

まどかはそう言うと、更に首を傾げながら、

「洸一のポケットから可愛い箱が落ちたから、これ何だろうって話してたんだけど……」


「か、可愛い箱?何の事かサッパリですな!!ガハハハハハハハッ!!」


「……怪しいわねぇ」

まどかの目が細まった。


「な、なにがだよぅ」


「そんな漫画みたいな大きな汗掻いて、どうも怪しいわねぇ。ね、真咲もそう思うでしょ?」

「……そうだな」

真咲姐さんが重々しく頷く。

「必死になって隠すところを見ると、どうやら私達にはあまり見せたくない代物らしいな」


「そ、そんな事はねぇーよ」

別に見せるとか見せたくないとか、そーゆー事じゃなくて……

あくまでも俺は、自分のプライドとか命を守りたいだけなのだ。

だってこんなモンを買って来たことがバレたら、一体どんな勘繰りをされる事やら……

ただでさえここにいる女の子達は、どうも思考回路が捻じ曲がっているというか一般ピープルとは少々物の見方が違うので、必ず良くない結論に達してしまうのだ。

だから俺は嘘を吐いてでも、必死になってこの存在を隠さなければならないのだ。

幸いなことに、どうやらこのアイテムの存在に気付いているのは智香とセレスとのどかさんぐらいだ。

セレスは状況を察して、おそらく何も言わないから安心だ。

智香の馬鹿は……まぁ、何かしらの買収で済むだろう。

問題は、のどかさんなんじゃが……


俺はチラリと、魔女様に視線を走らせる。

年長者であり、大人しいけど絶大な権力を誇る彼女が何か言えば、それが全てを差し置いての絶対的真理となるのだ。

だからのどかさん、ここは一つ、『勉強再開です』とでも言ってこの場を収めてくれいッ!!!


「……」(コクン)

お嬢様は頷いた。

アイコンタクト成功だッ!!!

「……ゴムゴムの……」


「――って、なに口走ってるんですかーーーッ!?」

結局、例の買って来た性的なブツは皆の目の前に曝され、俺の黒歴史にまた一ページ加わってしまった。

ただ、俺は断固として口を割らなかった。

最後の最後まで、決してこれが何なのかは、言わなかった。

まどかの尋問(鉄拳付き)にも必死になって耐えたのだが……ゲロってしまったのは智香の馬鹿だった。

智香の野郎は、穂波に睨まれただけでいとも簡単に口を割ったのだ。

・・・

あの熊キ○ガイ、智香の心にどんな傷を植え付けたのだろうか?



男より、女の子の方が成熟は早い。

だから思春期においては、男より女の子の方がよほどエッチで、しかも詳しかったりするものだ。

特に男が存在しない女子校なのでは、毎日かなり過激な会話が為されているらしいと言うことを、本か何かで読んだことはあったが……どうやらそれは事実のようだ。

何故なら……

今現在、机の上に置いてある避妊具を前に、皆さん、何やら尋常じゃない目つきで赤面しちゃうような話をしているからだ。

初めて見ただの、どうやって付けるんだの、匂いがどうだの、ネバネバしてるだの、どこまで伸びるだの……とまぁ、勉強そっちのけで、実に興味津々。

しかも男である俺を前にしてだ。

あ、ちなみに僕ちゃんは、居間の隅っこで何故だか正座をさせられておりますです。

足がとっても痛いのであります。


「それでは第一回、どうして洸一はこんな物を買ったのか審問会を開始しまーす」

まどかが高らかに宣言した。

被告はもちろん、俺だ。


「あ、あのなぁ…」


「さぁ洸一。ちゃんと包み隠さず、白状してもらうからね」

と、まどかはクスクスと嫌な笑みを溢す。

当然の事ながらまどか以外の皆さんも、俺様をジィーッと見つめていた。

「で、洸一。なんでこんな物を買ってくるかなぁ?」

まどかはピンクのビニールに包まれた小さなソレを指先で抓み、ズイッと正座している俺の目の前に突き出してきた。

そしてそれをペチペチと俺の頬に当てながら、

「さぁ、早く答えなさいよぅ」


「べ、別に……その……なんとなくだ」


「なんとなく?」

まどかの目が細まった。

「なんとなくで、こーゆーモノを買うかなぁ?」


買っちゃうんだから仕方がない。

それが俺様だ。


「じゃあ洸一に聞くけど、これって使ったことあるの?」


「ないですぅ」

買うのも生まれて初めてだ。

後でエレガントな付け方等をマスターしなければな!!


「じゃあ次の質問。洸一は勉強会という名目で皆を集めたけど、本当は何かエッチな事を企んでいたの?」


「と、とんでもねぇ」

そんな恐ろしいこと出来るかッ!!と叫びたい。


「ふ~ん。つまり、全員にエッチな事は考えてないけど、隙あらば誰かに使おうとは思ったわけよね?そうよね?」


「え?いや、う~ん……なんと答えて良いのやら……」


「……誰?」

まどかのトーンが急激に低くなった。

「一体、誰に使おうと思ったのよぅぅぅぅ」


「だ、誰と言われても……」


「白状しなさいよ洸一。この中に、夜這いを駆けようって思った女の子がいるんでしょ?誰?誰なのよッ!!」


「――はぅッ!?」

まどかの細くて綺麗な指が、俺の首にキリキリと喰い込む。

「く、苦ちぃよぅぅぅ」


と、そんなまどかの肩を、真咲姐さんが軽く叩いた。

「まぁ、落ち着け、まどか」

「真咲……」

「……洸一のことだ。実は既に使っているんじゃないのか?それもここにいる者以外に……」

「そうなの洸一ッ!!」


「ななななんの事ですかぁ?」

洸一チン、既に号泣中だ。

いやもぅねぇ……こーゆー展開になるんじゃないかと思ってたよ!!

だから必死になって隠していたのに……


「洸一、正直に言いなさい。言っておくけど、私は洸一が誰と付き合おうが、別に関係ないわよ。だけどね、ちゃんと説明してくれないと納得出来ないでしょ!!」


ど、どんな理屈だ???

「い、いや……だから、買ったのは本当に偶々と言うか気の迷いと言うか……男として、不測の事態に備える為には必要かなぁ~って思ったりて……」


「不測の事態ってなによぅ」


「え?それはそのぅ……」


「もしかしてアンタ、今日……この中の誰かとエッチするかも、って考えたの?」


「そ、その可能性も無きにしも有らずと言うか……」


「誰?一体、誰を攻略しようと思ったのよッ!!」

まどかの指がまた俺の首に絡まった。


うわぁぁーん、堂々巡りだよぅ……

って言うか、攻略ってどーゆー意味だ?

この中から誰かを選べってか?

……どんなクソゲーですか、それ?

「おおお、落ち着けまどか。ただ俺的には、そーゆー可能性も少しはあるかもって思っただけで……」


「お黙りッ!!この色魔ッ!!」


あぁん、何を言っても聞いてくれないよぅ……

「――っん?」


「なによぅ、不思議そうな顔して……何か文句でもあるのっ!!」


「ち、ちょっと待て、まどか」

俺は首に掛かったまどかの指に手を掛けながら、少し険しい顔。

どうも先ほどから、何か香ばしい匂いがする。

フライパンが焦げてるような……そんな匂いだ。

「な、なぁ、何か焦げ臭くないか?」


「へ?」

と、まどかは首を傾げる。

皆もキョロキョロと辺りを見渡し、鼻をひくつかす。

「そう言えば、少し焦げ臭いな」

と真咲さん。


「だろ?なんだろう……何か燃えてるのか?」


「火は誰も使ってないぞ?」


「ふむ…」

そうだな、この中にはタバコを吸っちゃう悪い子ちゃんはいないし……

飯はとっくに済んでるし……

風呂も入ったし……

「――って、いかんッ!?」

俺は慌てて立ち上がった。

うぉう、やっぱ足が痺れてるよ。

「やっべぇ……俺、風呂の給湯器点けっぱなしだった」


「そらアカンやないけ」

美佳心チンがやれやれ言った感じに言う。

「早よ消さんと、空焚きで機械が壊れてまうで?」


「そ、その通りだ」


「あぅ、ラピスが消してくるでしゅよ」

言ってラピスが、トテテテテっと、風呂場方面へと走って行った。

そしてその直後、僕らは爆音と共に白い光に包まれたのだった……。









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