洸一、魔界の地に立つ(泣きながら)
9月のとある日……
夜遅く、のどかさんから電話が掛かってきた。
それが俺の運命を変える、大冒険の始まり……序章であった。
いつも通り飯を食い、居間でゴロゴロと転がりながら録り溜めていたアニメを独りニヤつきながら観ていると、いきなり電話の音が鳴り響いた。
俺はリモコンでアニメを一時停止し、壁に掛けてある子機を面倒臭げに手に取って、
「はいはいもしもし、洸一様だ。名を名乗れぃ」
「……洸一さん」
いつもののんびりとしたと感じとは違い、何処か切羽詰った先輩の声。
「ま、まどかちゃんが…」
「ふにゃ?まどかがどうかしたんですか?」
まさか……
ついにあの馬鹿、勢い余って誰かを撲殺しちゃったのか?
だってアイツの軽いスキンシップは、クマの張り手と同じ威力だし……
俺も何度、死線を彷徨った事か…
「話は後です。とにかく、急いで来て下さい」
「え?来て下さいって……い、今からッスか?」
壁に掛けてある時計に目をやると、もうすぐ22時だ。
ぬぅ…
僕ちゃんこれから、思春期男子の日課的反復運動でハァハァしようかと思っていたんじゃが……
「う、うぅ~ん……既に出歩く時間じゃないですし、明日じゃダメですか?」
「……ダメです」
「とは言っても…」
「……早く来い」
のどかさんの低い声。
俺は思わずその場で姿勢を正し、
「はっ!!早急に向かうであります」
ってなワケで、何が何だかサッパリ分からんけど、俺は自転車を漕ぎ漕ぎ、夜の道を全速で喜連川邸まで駆ける。
ってか、急ぎの用なら迎えを寄越してくれればエエのにねぇ……
そんなことを考えている内に屋敷へ到着。
のどかさんの元へと急ぐ俺様なのだが……
「ぬ、ぬぅ……」
屋敷内は、さながら戦場のようであった。
慌てふためくメイドさん達に、白衣を来た医者や看護士も右往左往。
あの常に冷静沈着なセレスの姿もあったが、珍しく慌てながら辺りを走り回っている。
ちなみにラピスもいたが、こっちは状況が分かってないのか、アカン子の笑顔でボンヤリしているだけだ。
ま、何か忙しい時に下手にやる気を出されても困るから、それはそれで良いのだが……
しかし、なんだこの状況は?
よもや……まさか本当に、あの馬鹿たれ、誰かを殺っちまったんじゃなかろうな……
「_洸一さんッ」
「よぅ、セレス。この騒ぎは一体…」
「_話は後です。どうぞ此方へ…」
セレスはいきなり俺の腕を掴み、そのまま引き摺るようにしてズンズンと廊下を進んで行く。
「お、おいおいおい。本当に何がどーなってるんだ?」
何か皆が慌てていると、さすがの俺も何か段々と嫌な予感がして来るんじゃが…
「_詳しい事はのどかさんに。此方です」
廊下の突き当たりにある部屋の前に立ち、セレスは扉をノックして
「_洸一さんがお見えになりました」
そう言って振り返るや
「_では洸一さん。まどかさんをどうかお願いします」
「や、どうかって……何がだよ」
俺は首を捻り、重厚な扉を開けて
「んちゃーーーース。洸一チン、ただいま参上しましたぁ」
そこまで言って、後は絶句。
何故なら、部屋の中は俺の想像の斜め上を行っているような光景が広がっていたからだった。
★
「なッ…」
目の前…部屋の一番奥で、まどかがベッドの上に横たわっていた。
制服姿のまま、胸の上に手を合わせて眠っている。
……それは良い。
眠れる森の美女…もといアマゾネスって感じがして、何か少しドキドキだから、それは良い。
問題はだ、え~と……なんでベッドの周りに邪悪系な儀式で使うような赤くて太い蝋燭がいっぱい立ってるんじゃろう……
それに床に大きな魔法陣とか描かれているし……
取り敢えず言える事は、ここにやって来たのは失敗だったかにゃぁ…と言う事だ。
「な、なんでしょうか?これは新手のドッキリでしょうか…」
そんな事を呟きながら部屋に入ると、
「これはまどかちゃんを守るための結界…」
横合いから、のどかさんの声。
少しビックリして首を横に動かすと、部屋の片隅にのどかさんがいた。
コスプレではないガチの魔女衣装に身を包んだ彼女は椅子に腰掛け、膝の上に黒兵衛と酒井さんを乗っけている。
いつも通りだ…
がしかし、その顔は蒼褪め、どこか生気が無い。
もしかして……この魔女様、また何かやらかしちゃったのかな?
「結界って……どーゆー事ですか先輩?まどかは…どうしたんです?」
のどかさんは小さく頷くと、静かな声で語りだした。
それは不思議で、少し悲しい話だった。
★
今から10年以上の前の話…
ある晴れた夏の日、のどかさんは事故に遭った。
本当に偶然の事故だった。
当時、今とは違い、どこかヤンチャだった彼女は、敷地内で迷子になり……
そして、喜連川機甲師団の演習地に入り込んでしまった。
しかもその日は運悪く、総合火力演習の日。
のどかさんは爆風に巻き込まれ、大怪我を負ってしまった。
意識不明の大重体……全ての者は覚悟した。
だが、奇跡が起きた。
いつ死んでもおかしくない状態にも関わらず、彼女は僅か数日で退院する事が出来たのだ。
「でもその奇跡は、まどかちゃんが起した軌跡だったのです」
妹であるまどかは、姉が治るように一心不乱に神に祈った。
そしてその声が届いたのか、異世界の者が降臨した。
ただしそれは神ではなく、魔神だった。
……汝の大切する者を救わんとと欲するならば、汝は生まれ出時より200と8の暗き月が現れる時、此方にその魂を差し出さん……
まどかは深く考えもせずに、その契約を交わした。
結果、のどかさんは九死に一生を得た。
しかも何故か魔法が使えるようになっていた。
彼女の魂に付随した異能の力…
そしてその理由を知った時、のどかさんは愕然とした。
自分の力は、まどかが魔神と契約したからこそ得た力だと知って。
それから彼女は、魔術に傾倒した。
理由はもちろん、来るべき時に備えて……
「幼かったまどかちゃんは何も憶えていません。ですが時は確実に迫りつつあったのです……」
「それが……アレですか?」
俺はベッドに横たわるまどかを見つめる。
「……はい。結界を張り、魔神の力に対抗していますが……その魂は既に半分ほどが……」
「……そうですか」
予想外と言うか何と言うか…
いきなり、そんな重い話をされて、正直、洸一チンびっくりですよ。
のどかさんの魔法を常に見ているから、世の中は不思議顔いっぱいと言うのは分かっていたけど…
さすがにこれは、驚きですよ。
姉を救う為に魔神と契約した……か。
本当に、何だかんだ言っても、昔からまどかは姉想いなんだなぁ……
……
でもね、ここで一つ疑問が残るんだ。
や、色々とね、考える事はあるとですよ。
でもその前に、一番重要なのは……
何で俺はここに呼ばれたんだ?
はい、これ不思議ね。
や、そりゃ俺だって、まどかを助けてやりたいって思うよ。
コイツは、俺の友達だ。
ガールフレンドだ。
それに……ここだけの話だが、俺の惚れている女の子の一人なワケだし……
何とかしてやりたいって、心の底から思うよ。
でもね、俺に何が出来る?
出来るのはせいぜい、泣きながら祈る事ぐらいですよ。
「……それでのどか先輩。俺は一体……いや、俺に出来る事は……」
「……魔界」
「はい?」
「魔界に赴き、まどかちゃんと契約した魔神と、直接に話しを……」
「……」
どうしよう?
予想以上の答えが出て来ちゃいましたよ。
……
ボク、もう帰っても良いかなぁ…
★
「え~と……すんません。話が良く見えないんですが……」
「魔界に行って来て下さい」
「あ~~…」
俺はのどかさんを見つめ、次にベッドに横たわるまどかに視線を送る。
……何でこの姉妹は、いつも俺にトラブルばかり持ち込むんじゃろう……
「本当に逝く…もとい、行くんですか、俺?」
「です」
のどかさんは大きく頷き、膝に乗っている酒井さんが
「キーーーーっ!!」
と腕を振り上げ吼えた。
多分、『まどかちゃんとオカルトの為よ』とか何とか言っているに違いない。
ちなみに黒兵衛は大きく欠伸をしながら
「ブニャブニャ」
と呑気な声で鳴いた。
「……分かりました。でもその前に、幾つか質問があります」
「なんでしょうか?」
「先ず、魔界にどうやって行くんです?」
当たり前だが、電車やバスが通っているとは思えないが……
いや、まさかボクの知らない魔列車的な存在があったりして……
「それは私が送り届けます」
「のどか先輩が?」
「特殊な魔法陣を描き、空間に魔界へ通じる穴を開けます。そこから行けば安全です」
魔界って時点で安全じゃなかろうに……
「マジっすか?本当に大丈夫ッスか?うっかり死なないッスか俺?」
「完璧です」
完璧か…
今まで何度その言葉に騙された事やら……
「つ、次の質問ですが……俺、無事に帰って来れるんですか?命の保障はあるんですよね?」
「……交渉次第です」
「交渉?それって……まどかが契約した悪魔だか魔神だかとですよね?」
「です」
「……無理じゃないですか?だって随分と昔の話でしょ?クーリングオフの期間はとっくに過ぎてると思うんですが……」
「そこは洸一さんが女の子を口説く時のように口八丁で……」
「そこはかとなく失礼な事を言われてる気がするんですが……取り敢えず、行き当りばったりってやつですね?」
「……頑張ってください」
ぐぬぅ…
「で、最後の質問ですが……なんで俺なんです?」
ここ、一番重要なポイントね。
「そりゃね、俺だってまどかを助けてやりたいですよ。友達なわけだし……けどね、人間には出来る事と出来ない事ってのがありまして……」
「……洸一さん」
「何スか?」
「…黙って行け」
「――ぐぬぅっ!!?」
「と言うわけで、今から洸一さんを魔界へ送り届ける準備をします」
のどかさんはそう言うや、席を立ち、
「まどかちゃん。待ってて下さい。きっと洸一さんが助けてくれますから…」
「いや、あのぅ……僕チンはまだ承諾してないんですが……」
「しゃらっぷ……です」
のどかさんは相変わらずポヤ~ンとした表情をしながら、おもむろに、まるで機械のように素早く緻密な動きで床に魔法陣を描き始めた。
どうしよう?
このままだと済し崩し的に魔界とやらへ送り込まれてしまうぞ。
今の内に、こっそり逃げてやろうか……
と、扉の方を見やるが……ぬぅ……黒兵衛と酒井さんがガードしてやがる。
どうする?
どうするよ俺?
「準備出来ました」
「―――早ッ!?」
振り返ると、床には複雑怪奇な魔法陣が描かれていた。
「さぁ、洸一さん」
「や、さぁ…と言われても……取り敢えずこのままですか?このまま着の身着のままで魔界に行けと?徒手空拳で挑めと?何か武器とか食料とか……」
「洸一さんはワガママです」
「……」
何言ってんだ、この魔女?
「仕方が無いので、準備します」
言ってのどかさんは手をパンパンと叩くや、部屋の扉が開き、セレスとラピスが入って来た。
しかも手にはリュックを持っている。
既に準備は万端のようだ。
「……実に用意周到じゃないですか」
「_頑張ってください洸一さん」
と、セレス。
ラピスも鼻息を荒くしながら
「洸一しゃんなら出来るでしゅ」
「そ、そうかぁ?」
「_取り敢えず、お弁当と水筒とオヤツをリュックの中に入れてあります」
「……遠足かよ」
で、武器は?
もしかして、リュックの横にぶら下がってる十徳ナイフですか?
これで魔神に挑むんですか?
「洸一さん、準備は良くて?」
のどかさんが俺を手招きする。
「本当に行くんですかぁ」
俺は涙を堪えながら魔法陣の傍に近寄る。
「今から呪文を詠唱します。魔界へ通じる回廊が開きましたら……GOです」
「……そうですか。では今の内に遺書をしたためまた方が良いですかねぇ?」
★
のどかさんが、いつもの分厚い魔導書を広げ、何やら詠唱している。
さぁ、いよいよ正念場だ。
……
この姉妹達と出会ってから、毎日何故か正念場を迎えるんじゃが……
今回は、一番の正念場だ。
何しろ魔界って……そんなアニメや漫画のような本当に世界があるのか?
存在しているのか?
……まぁ、あるんだろうねぇ。
俺はチラリと酒井さんを見やり、溜息を吐く。
生き人形が自由気侭に闊歩しているぐらいだ……魔界とやらだって、あってもおかしくはないよねぇ……
「開きます……」
のどかさんの言葉と共に、部屋がいきなり揺れた。
と同時に、部屋の隅々に置かれた蝋燭の炎が、一段と高くなる。
「……おおぅ」
魔法陣の中心に、大きな穴が穿かれていた。
生暖かい風が、そこから部屋の中に微かに吹き込んでくる。
これが……魔界へと通じる穴……
マジか?
地獄へ通じてるんじゃないか?
「さ、洸一さん。レッツゴーです」
魔女衣装に身を包んだのどかさんは、淡々した口調で言うが……
み、見間違いかなぁ?
口元の端が吊り上って、微笑んでいる様に見えるぞ。
「……何で俺様が…」
呟き、首を伸ばしてその穴を覗き込む。
中は真っ暗だ。
何も見えない。
深さも分からない。
いかん……これはマジで死ぬヤツだ。
理性が命の危険を声高に訴えている。
ちなみに本能は、死ぬ前に子孫を残すべきだとワケの分からん主張をしている。
どうするどうするどうする……
お、落ち着け……ここは一つ、冷静に思考を進めようじゃないか洸一チン。
そりゃね、俺だって出来ればのどかさんの為にまどかを救ってやりたいよ。
二人とも、俺の惚れた女の子だ……なんとかしてやりたいさ。
けどね、現実的には……彼女達は俺の恋人でも何でもない。
のどかさんは部活の先輩であり、まどかはその妹だ。
こんな事を言うのも何だが……俺様の貴重な命を懸けるには、少しばかり安い関係だと思わないか?
いや、仮に恋人同士の関係でも、かなり躊躇しますぞ。
だって死ぬ確率が高いじゃん。
今日の降水確率より高いよ……
「…のどか先輩。誠に申し訳ありませんが……」
と振り返るや、
「さっさと行って下さい」
いきなりの諸手付き。
「――ンな゛っ!!?」
俺は背中から穴の中へと落ちたのだった。
★
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」
真っ暗な穴の中を垂直に落ちて行く俺。
元いた世界の丸い穴が、高速で小さくなって行くのが見える。
イカンッ!!マジで死ぬ。死んでしまうッ!!
「…って、あれれ?」
不思議な感覚だった。
逆さになって穴に落ちている、と言う状況だとは思うのだが……重力的な物を感じない。
いや、実際には落ちているのだろう。
頭の先から足先へ流れる風を感じる。
にも関わらず、体は意外に自由に動けるし、こう、なんちゅうか……引っ張られるような感覚とかは無い。
ってか、風以外は何も感じない。
しかも周りは真っ暗で何も見えない。
うむ、違う意味で怖い。
もしかしてもしかすると、実は俺は既に死んじゃってて……
「…お?」
見上げると、何か光が見えた。
針の穴のような小さな点が、徐々に大きくなって行く。
どうやらあれが出口のようだが……
え?あれ?
感覚的には感じないけど……俺、確か落ちてるんだよね?
え?え?
このまま行くと……あれ?もしかして転落死?
いやいや、それよりこの距離で落ちているとなると……地面に激突と同時に、粉微塵になるんじゃね?
こりゃアカンっ!!
慌てて身を捩ったり空を跳べないかと精神を集中したりするが……うん、駄目だ。
だってもう、体が光に包まれて……
「アイヤーーーーッ!?悔いの残る一生だったーーーーッ!!」
―――スポーーーンッ!!
と漫画チックな排出音と共に、俺は何故か地面に開いた穴から外へ向かって飛び出していたのだった。
★
「何が何だか…」
俺は呟き、地面にポッカリを開いた穴を見つめる。
うぅ~む……どーゆー原理じゃろうか。
のどか先輩の部屋に開いた穴と、この異界の地の地面に開いている穴が繋がってる。
それは何となく理解できるのだが……
「ま、良いか」
俺は軽く息を吐きながら、空を見上げる。
「……わぉう」
何かスンゴクどんよりとした感じの空だ。
なんちゅうのか、某有名画家の『叫び』に描かれているような、どこか不気味な色合いの空が広がっている。
「ここが魔界……ん?でも……なんだ?」
目を凝らすと、この空は一定の範囲のみ……のようだ。
彼方に聳える山々の向こう側は、青空が広がっている。
ぐるり辺りを見渡すと、どうやら円形に一部の空域にだけ、この不気味な空が広がっているみたいだ。
「なるほど。さすが魔界……良く分からんぞ」
俺はもう一度大きく息を吐き、体中をペタペタと触りながら現状を確認。
取り敢えず、怪我はしていない。
それに呼吸も普通に出来るし、重力的にも俺の住んでいる世界とは同じ感じだ。
つまり、普通に人間でも生活できる自然環境と……
「ってか、自然は無いけど……」
辺りはゴツゴツとした岩肌剥き出しの荒涼とした風景が広がっていた。
ただし、それも空模様と同様、俺の現在いる辺りだけのようだ。
360度周りを見渡すと、彼方に見える山々には緑為す大自然が普通に広がっている。
ふむ……
さて、現在の状況は何となく理解できた。
で、これからどうしよう?
正直、泣きそうだ。
いや、既に涙が頬を伝っている。
だってそうだろ……
いきなり夜遅くに呼び出され、そして計画も何も無しに魔界へ通じる穴へ突き落とされたのだ。
現時点で恐らく、世界で一番不幸な人間と言っても過言ではない。
しかも魔界って……
これが漫画やラノベなら、例えば何かしらのチート級アイテムを装備しているとか、はたまた主人公が特殊な能力を持っているとか、はては自分の傍に女神とか天使とか萌えキャラヒロインが常駐している等、それが絶対的なお約束と言うか真理の筈なのだが……やはり現実世界は世知辛い。
今の俺には、何も無い。
そして誰もいない。
不気味な異世界に独りぼっち……
号泣どころか深刻な鬱が出そうな状況だ。
「しかも何処に行けば良いのかすら分からんとは……」
どんなクソRPGだって、最初は城の周りとか街からスタートするか、もしくはチュートリアルがあると言うのに…
「と、取り敢えず何か…」
背負っている小さなリュックを下ろし、水筒に入った水を飲みながら、中を漁る。
小さなコンパスが出て来たので、方角を確かめようとするが、
「ぬぅ…」
針がクルクルと回っているだけだ。
方角すら分からんとは……や、別に方角が分かっても意味は無いんだけど……
「ん?」
チラリと視線を、出て来た穴に走らすと……あれ?さっきより小さくなってないか?
「え?まさか閉じようとしている?」
俺のいた世界とこの世界を繋げている穴が消えそう……
そしてそれの意味する所は……
「いかーーーーんッ!!」
慌ててリュックを背負い、大ダュシュ。
のどか先輩には怒られるかも知れない。
まどかだって死ぬかも知れない。
けどね、俺の命だって今まさに風前の灯だッ!!
すまん、まどかッ!!
お前を救えない。
けど、ちゃんと墓前で線香を立てて上げるから……不甲斐ない俺を許してくれッ!!
「――とぅッ!!」
ゆっくりと、だが確実に小さくなって行く穴に向かって洸一チン、ダイビング。
がしかし…
―――キンッ!!
甲高い音を立てて俺は弾かれ、そのまま地面を転がったのだった。
書き上がり次第、順次UPして行きますよぅ。