召喚のご利用は計画的に
某カードローンのCMと召喚が脳内で化学反応した結果、こうなりました。
誤字修正しました。
かつて疫病が流行り、世界中の人間の半分が死んだと言う。
最果ての荒れ地であった、召喚の国として現在有名な国に住む人間は多くなかったが、それでも被害は大きかった。この国では、生き残っている人間を数えたほうが早いくらい犠牲者が出た。
生き残った召喚の国の女は国を守護する神に祈った。
神は祈りを聞き届け、女に少なくなった人間を増やす力=異世界人を召喚する力を与えた。
女はその力を使って、住む者のいなくなった国の住民を増やした。召喚の国の王族は先祖のその力を受け継いでいるという。
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召喚の力があるからといって、無闇矢鱈に使っていいものだと王族が考えなかった時代。
魔族やら理解し合えない異民族、異種族に幾つもの国が悩まされると、召喚の国は勇者を召喚するようになった。この話は一代目勇者として召喚された人物より先に召喚されながら、記録から消された人物の話である。
国王を始め、重臣や神官、魔術師たちは王城から馬で2時間ほどかかる荒れ地にいた。
彼らの着る上等な服が止むことのない風に弄ばれている。上等とはいっても、この国の庶民に比べてというレベルで、文化の進んだ国、商業の発展した国、軍事力に長けた国の裕福な人々と比べれば、質素といえる代物から見てわかるように、召喚の国は王族が異世界人を召喚する力を持っているだけで、昔同様、最果ての荒れ地に変わりはなかった。
それでも世界が危機に晒されているというのに、自国が最果てだからと傍観することを召喚の国は良しとせず、異世界人を召喚する力を使う時だと考えた。
しかし、伝説の力は伝聞でしか知られていない。
使い方も、伝説では神に最果ての国を守護する神に祈ったとしか残っていない。
国王自身、自分にその力があるということに懐疑的だった。国王の父も、祖父も、その他の親族の誰一人として召喚を試みたことがない――試みても成功しなかったのかもしれない――ので、本当にあるのかすらわからない。
失敗した場合のこともわからない。
わからないこと尽くめの実験的な召喚を多くの人が住まう王城や町で行うわけにも行かず、国王は異世界人を召喚する力が暴走した時を考えて、王城から離れたこの地で勇者召喚の儀式を行うことにした。
彼らは緊張していた。
弱小国とはいえ国王と重臣が、である。
神官は神の奇跡を目の当たりにする恩寵に期待で胸がいっぱいで、魔術師はこの国の王族しか持たない異能に興味を唆られていた。
国王は決心をすると吹きすさぶ風以外何もない場所に作られた、守護神の祭壇の前に震える足を叱咤しながら進み出で、額づいて祈りを捧げた。
するとどうしたことだろう。
国王を中心に光が生まれ、その光はだんだん眩しくなり、あたり一面を光が覆った。
誰もが目を開けていることが出来ず、気付いた時には光は嘘のようになくなっていた。
「ん? ここは?」
その声に彼らは目を開けて見た。
祭壇の後ろにいる、緑色の、腰まである長い髪を首元で結わえ、白い翼をその背に生やした男を。生成りのような色の何枚かの布を重ねたマントとゆったりした長衣に脚衣、膝下の長靴姿はこの世界でも違和感がない。
年の頃は20代前半だろうか、猛禽類に似た金の目をした男が彼らと、辺りを観察している。
「空気が違う。――異界か」
男は説明を必要としなかった。
儀式の結果に彼らが呆然としている間に、男は状況を把握したようだ。
男は溜め息を吐き、顎に手をやる。
「異界からの召喚とは厄介だな。ここの精霊は何をしているんだ?」
「ゆ、勇者様」
自らの秘めていた血の力を自覚した国王が我に返って、男に声をかける。
男はその言葉に訝しげな目で、国王を見る。
「勇者様?」
「そうだ。そなたのことだ。勇者としてこの世界を救って欲しい」
単刀直入に国王が告げた内容に、男は腰に両手を当てて答えた。
「断る。勇者なんかしている暇は無い。この世界の管理者はどこだ? 何故、異界への門を許している?」
「なっ!」
「!」
一同唖然となった。
男はどうやらただの有翼人ではないようだ。神官や魔術師にすらわからないことを口にしている。それが男の世界での常識なのか、その常識がこの世界にも適応されるのか、それすら誰にもわからない。
「人間では話にならないか。まったく・・・俺は帰るが、二度と異界からの召喚はするな。この世界を存続させたいなら」
「?!」
「世界の仕組みも知らない者が無闇に使うと、異界への門は世界に大きな負担をかける。このままでは世界が滅びに向かうのも時間の問題だぞ」
「!! そ、そなたは?」
「俺は俺の世界での仕事がある。俺という下僕がいなくては、あの不安定な世界の調和は保てないからな。それともお前たちは自分たちの世界が助かれば、他の世界が壊れ、そこに住む生命が死に絶えても構わないと考えているのか? それならこの世界を壊してから帰るが、どうする?」
男の言葉に国王たちは愕然とした。自分たちはとんでもない人物を召喚してしまったらしい。
魔族や、異民族や異種族はこの世界を壊すまではしない。壊されるのは自分たちの生活であって、世界自体を壊しかねない存在を何と呼んでいいのかわからなかった。
「・・・」
返事がないことに苛立った男は舌打ちをした。
「・・・いいか、二度と召喚するんじゃないぞ」
国王に指を突きつけてそれだけ言うと、男は後ろに一歩下がり、そのまま姿が透明になっていく。
異世界人の召喚すら眉唾物だと思っていた国王を始め、興味があった神官や魔術師さえ、男の姿が消えていくことに驚きを隠せなかった。
国王はどの異世界から召喚するのか、その選択ができない。
緑の髪の男が見知らぬ世界から、自分の世界までどうやって戻るのか知っているということは国王たちの理解を超えた。
あの男は、呼び出してはいけない存在だった。
国王たちは死に物狂いになり、自力で世界を救った。
異世界人を召喚する力は確かにあった。しかし、呼び出してはいけない物を呼び出せば、世界を壊しかねないことを知ったからだ。
やがて、この教訓は忘れられ、一代目勇者が召喚されると、このことは闇に葬られた。
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召喚の国が召喚する異世界人には常人離れした高い能力が一つあるという。
それを人はチートと呼んだ。
チートがある人物が召喚されるのか、召喚されたからチートが付くのか、それは誰にもわからない。