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エピソード13 「子猫の旅立」

最初に、謝っておきます、

エゲツナイ終わり方でゴメンナサイ。

栞:「とても不思議な夕焼けだったね。」

正:「うん、…」


栞:「フローズンヨーグルト、美味しかったね。」

正:「うん、…」


栞:「子猫達、可愛かったね。」

正:「うん、…」



夜のロンドンの郊外を、とぼとぼと、フラットへの帰り道。


しおりは、旅の思い出を話し続け、私は、心ここに在らずな生返事を返し続けていた。





栞:「流石にちょっと疲れたね。」

正:「うん、…」


栞:「アテネの乗り換えは、焦ったよね。」

正:「うん、…」


栞:「お洒落なホテルだったよね。」

正:「うん、…」



とうとう辿り着いて、ドアの鍵を開け、ドアの鍵を閉めて、


栞は、振り返って私の顔をじっと見詰めて、私は、…



私は、荷物を放り出して、…床に跪いた。



正:「しおり、…私は、」

栞:「おじさん、…そんな顔しないで、折角の旅行が台無しだよ。」



正:「私は、…どうすれば、償える?」

栞:「おじさん、…起こってしまった事は、もう取り返しは付かないんだよ。」


栞は、私の前にしゃがんで、…しょぼくれた私の顔を、じっと見詰める。



栞:「おじさんに、償える事は、何も無いよ。」


子猫の様な、悪戯な瞳が、ヤレヤレ、…と言う風に、仕方無さそうに微笑んでみせる。



正:「しかし、…」


栞:「ソレに、元はと言えば、私がお願いした事だしね、百分の一位は、私にも責任があるよ。」


そう言って、彼女は、私を、優しく、抱きしめた。



栞:「苦しまないで、おじさん、…私は、これっぽっちも後悔してないんだから。」


そう言って、彼女は、私の頬に、そっと、キスをする。





栞:「おじさん、私、今回の旅行で、沢山勉強したよ。」


栞:「男の人って、普段は紳士的に振る舞っていても、スイッチが入っちゃうと途端に言葉の通じない獣になっちゃうんだね、…私、コレからは無闇に男の人を刺激する様な事はしない様に気をつけるよ。」


私は、最早俯いて返す言葉も無く赤面し、しおりは、更に低空から私の顔を覗き込んでニヤニヤ笑う。





栞:「それに、あんなに痛いと思わなかった、死ぬかと思ったよ。もう一生しなくてもいい感じ、…」


栞:「私、おじさんが相手じゃ無かったら、多分3ヶ月位は引き蘢ってたかもね。」

栞:「止めて、って言っても、全然止めてくれないんだもの、強引にも程が有るよ、…」


私は、途方に暮れて彼女の顔を見詰めて、しおりは、何故だか愛おしそうに私の顔を見詰め返して、





栞:「でも、変なの、何だかとっても満たされた気分。」


栞:「初めておじさんが、私の事を必要としてくれた、…って言うのか、初めて対等に、本当の気持ちで判り合えたって、…言うのか、」


栞:「それは、とても安心で、…本当に、生まれて来て良かったな、って…そんな気分なの。」


私は、目に焼き付く程に彼女を見詰めて、しおりは、ちょっと恥ずかしそうにはにかんで、





栞:「それから、私、ママの気持ちが、少し判った気がする。」


栞:「多分、この先どんな事が起きても、私とおじさんが結ばれるなんて事は無いと思う。 でも、それはとても愛おしい事で、…だから、」


栞:「だから、…今なら判る気がするの。 私は「生まれてくる筈の無い子供」なんかじゃ無かったんだって。 私は「どうなっても良い子」なんかじゃ無いんだって。」


栞:「だって、私は絶対にそんな風には、思えないもの。」





栞:「だから、…ありがとう。」


栞は、そう言って立ち上がり、それっきり、部屋に引き蘢った。










私は、荷物の整理も手に付かない侭、とうとう、そのまま朝を迎えて、

ノックもしないで、そっと、彼女が眠っている筈の部屋のドアを開けて、


もしも、一人で泣いていたら、どうしよう。





しおりは、…


すっかり部屋を片付けて、荷物をまとめて、まさに部屋を出て行こうとしていた。



栞:「おじさん、ノックもしないで女の子の部屋を覗くのは、どうかと思うのだけど。」


彼女は、ほんの少し憤慨した顔で、ほんの少し私の事を責めてくれた。



正:「何処か、行くのか。」


彼女は、こくりと頷いた。



正:「何処へ?」


栞:「家に帰るよ。 それから、…」


栞:「それから、パパに会いに行く。」


しおりは、恥ずかしそうに、照れた顔を背けて、



栞:「私、今迄、パパに会うのが怖かったの。 きっと嫌われてる、きっと疎まれてる、きっと同情されてる、きっと恨まれてる、…そんな風に思ってた。」


栞:「でも、もう、大丈夫。」


しおりは、ガラガラとスーツケースを引いて、あっと言う間に玄関に辿り着き、もう一度私の方に振り返る。



栞:「ねえ、おじさん。 最期に一つだけ教えてくれない、勿論、無料ただとは、言わないわ。」


彼女はそう言うと、背伸びして、私に、口付けした。



栞:「私の事、好き?」


正:「ああ、好きだよ。」



しおりは、嬉しそうに微笑んで、…

それから、今迄で一番の、甘えた声で、…



栞:「ねえ、もう一回、頭、撫ででくれない?」


私は、甘い匂いがする彼女の艶やかな髪を、鷲掴みにして、ガシガシと撫ぜてやる。

彼女は、うっとりと目を閉じたまま、なされるが侭に、私に頭を預ける。





それっきり、しおりからは何の音沙汰も無い。 多分、彼女の事だから、仮令たとえ何処に居たって、きっと上手くやっているのだろう。 今の処、彼女の私への気持ちが、エディプスコンプレックスだったのか、それとも、もっと別の感情だったのかは解らない侭だ。 結局本当の所最期迄、彼女は私にとって正体不明の女の子だった。 勿論、しおりの事を好きだったって言うのは嘘偽らざる本心だが、今となっては、彼女が実在の女の子だったのか、もしかすると私の妄想が高じた幻覚だったのか、それすら自信が持てない…


ただ今でも、彼女が使っていた部屋には、あの晩彼女が作った押絵の人形と、脱ぎっぱなしの片方の靴下と、微かに甘いしおりの髪の香りが、残されている。 もしかすると、その内にまた、ひょっこりと姿を見せるかも知れない。 …合鍵は、預けたままだ。

一週間お休みして、子猫とおじさん2始まります。

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