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  作者: ちゅんちゅん
悪魔の本
5/50

悪魔の本⑤~佳奈~

誤字脱字報告、矛盾点の指摘や感想等は不要です。

 あのテントの場所からおそらく五キロメートルは歩いただろうか。傷だらけではないが、気分的には満身創意。杖ももう折れて途中で捨てて、棒になった足を叱咤し何度も転びながらも、ようやく街に着いたとき、私は生き物を殺したことと、やっと安全な街にたどり着いたことの安堵がごっちゃになって、ひどく疲れていた。

「君、臭いね」

「えっ」

 なのに、いきなり通りがかりの男子に臭いって言われた! あまりのショックにぽかんと目を見開いた。思わず辺りを見渡せば、血濡れの私を遠巻きに見ている街の人。しまった。やっぱり街に入る前に落としておけばよかった。でも、初対面に臭いって、なに。このアラブ系の黒髪男子、感じ悪い。

「あっごめんごめん。臭いってのはは血ね、血の匂い。君、冒険者でしょ。ギルドはどこか知ってる?」

 手をぶんぶんさせて軽く謝罪してきた男子は、顔も軽そうだった。いわゆるイケメンってやつ。でも私そういうの興味ないし。どっちかっていうと、渋いおじ様が好みだし。

「血臭くてすみません。ギルドは知りません。冒険者じゃないので。流れの魔法使いです」

 つい、胡乱な眼差しとつっけんどんな口調で返してしまう。どっちかっていうと、胡乱なのは私のほうだけど。

「あ、そうなんだ。そんな見た目だからてっきり冒険者かと思ったよ。じゃあ魔法使いギルドは?」

 なんか、癪に障る男子だな。確かに今は普通の男性の街人が着る服を着ているけれどさ。でもなに。魔法使いギルドって。そんなのあるんだ。興味そそられるなあ。

「くす。その顔は知らないみたいだね。場所教えてあげるよ」

 ……なんか、癪に障る男子だな。でも教えてくれるっていうんだから聞いておこう。

「知らないから教えてもらえると助かります」

「じゃあいこうか。大通りを二本外れた路地にあるんだ。迷いやすいから気をつけて付いてきて」

「わかりました」

 にこりと笑った男子が、魔法ギルドのある方向を指差しながら言った。案内してくれるんだ。よかった。魔法ギルドかあ、楽しみだ。……正直、宿屋に先に行きたかったけど。

 震えだした足をもうしばらく叱咤しつつ歩いて、やっと目的の場所に着く。その後すぐ男子はじゃあと言うと、その場から立ち去ってしまった。ああ、お礼言う機会逃した。でもまた会うこともあるかもしれないし、その時があれば今度こそお礼を言おう。追いかける気力もないよ。

「失礼しまーす」

 からんと、ドアをあけるとベルが鳴る。中は少し薄暗いけど、電気などの照明がなければこんなものかな、というくらいだ。窓が一〇畳くらいの部屋に二つだし。中に入ると右手奥にカウンターがあった。全体を見渡してみると、壁一面に本棚。そして三つテーブルと椅子が四脚ずつあった。人は誰もいない。カウンターの中のおじさん以外には。

「おや、お嬢ちゃん魔法使いかい」

「ええ、そうなんですけど」

 あれ。さっきの男子は私のこと女子だって気づいた感じはしなかったけど、このおじさんはわかるみたい。やっぱり魔法的ななにかで、なのかな。でも、男装してるんだけどな。まあ、いいか。

「ふむ、その様子じゃ登録はまだしてないみたいだね。師事は誰だい」

「えっと、師事はとくに……独学なんです」

 え、師事? してないと駄目だとか? でも作った名前言ってもばれるだろうし、正直に言ったほうがいいところは正直でいこう。

「独学。なるほど。では金貨一枚いただこうか。指輪を作るのと登録する料金だ」

「わかりました」

 へー、登録するのにお金いるんだ。でも金貨一枚って、結構かかるんだね。まだまだ余裕あるから大丈夫。私はおじさんに金貨一枚を手渡した。おじさんがそれと引き換えに指輪を出してくる。

 でも、聞いといて感想がなるほどって、それだけ? 独学なんておかしいとか、その年で? とかなにかあるのかと思ったのに。

「これに魔力を籠めながら口付けを。それでお譲ちゃん以外には使えない、魔法使いの証の出来上がりだ」

「はい……こうでしょうか」

 私はおじさんに言われるまま。魔力を籠める、魔力を籠めると呟きつつ指輪の石にキスをした。すると、透明だった石が緑色に光る。これで証ってことなのかな。すごく簡単。おじさんに聞いてみた。

「ああ、それで完了だ。で、ギルドの詳細もその指輪の中だ。あとで読んでおいてくれ」

「え? 指輪の中?」

「なんだ、お譲ちゃん知らないのか。そういや独学だったな。そこまでは勉強していないのか?」

「え、ええ。そうなんです」

 指輪の中ってなに。もしかしてこれも魔法で。あ! そうか、きっとホログラフみたいに見れるとか。わ、読んでみたい。

「わ」

 と思ったら。青い光で書かれた文字が浮かび上がった。もしかして、そういうこと。

「なんだ、できるじゃないか。そうだ、そのようにして使う。ちなみにバックパックも中に入るぞ。容量は大体この部屋一つ分ほどだ。その指輪一つで結構なことができる。金もその中に入れれば金預通に渡さなくていいからな」

 ああ、そっか。ようはバックパックと同じ。すごい! じゃあ手ぶらで旅が出来るんだ。

 そういえば。ここってなにか依頼とかないのかな。お金稼げれるんならそうしたい。旅してればいくらあっても足りないだろうし。


 で。

「やあ。終わった? なら行こうか」

「なんでまだいるんですか」

 おじさんに指輪から依頼も受けれることを聞いた。でもギルド関係のことはまたあとで思い出そう。今はこの男子のほうが問題だ。なんでまだここにいるの?

「なんでって、これからパーティ組む相手にそれはないでしょ。言い忘れてたけど、俺、冒険者のアキアース。君の名前は?」

「佳奈。アキアース。パーティって?」

「カナ、ね。よろしく! パーティは共に旅する仲間のことをいうんだ。俺は剣士だから、カナとは相性はいいはずだよ。戦闘のね」

 そうだね。戦闘の相性はいいかもしれない。戦闘の。アキアースを囮にして私が敵もろとも攻撃すればいいんでしょう。そうしたら私は無傷。いいかも。

 性格は不一致だけど。

「ふーん。そうなんだ、でもなんで私と組んでくれるの?」

「俺もまだ冒険者なりたてだからさ、二人のほうが心強いし、さっき言ったとおり戦闘の役割分担もできるし、魔法と冒険者ギルド双方の依頼も受けられる。うまくいけば取り分を二人で割っても稼げるんじゃないかと思ってさ。どう、俺と組まない?」

「組む」

 なるほど。どっちかのギルドしかそれぞれ受けられないんだ。私は魔法ギルドだけなのか。そりゃそうだよね、登録してないもの、冒険者ギルド。で、アキアースは剣士で盾になってくれて、私は冒険者ギルドの依頼も受けれるようになる。そして、ここが大事だけど、アキアースは現地人。それが一番のメリットだよね。せっかくの申し出だし、ここは受けておこう。

「よかった。じゃあこれからよろしく。カナ」

「よろしく。アキアース」

 なんだか不思議な魔法のある世界に来ちゃったけど、すごく大変な思いもしたけど、ここまできたらなかなかだよね。魔物は恐いけど、これからは二人なんだし。あとはアキアースにも帰る方法を探すの手伝ってもらえばいいわけだし。最初は癪に障る男子だって思ってたけど、そんなに嫌な男子でもないみたい?

 とにかくよかった。これで一歩前進だよね。しかも後でアキアースにきちんと手当てもしてもらって、なんだか助けてもらってばかりだな。そのうち返せるといいけど、恩。


 こうして私とアキアースの旅が始まることになった。


ここまで読んでくださった方、本当に有難うございました。

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