悪魔の本③~佳奈~
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翌日、朝方の私は自分できっちり毎日同じ時間に起きてるから、今回もそうだった。スマホの時計を見ると朝の六時。目覚ましかけなくてもだいたいこの時間で起きるんだよね私。
「あーよく寝た」
下の階で物音少し聞こえるし、おばさんはもう起きているみたい。そりゃそうだよね。宿屋のおかみさんなんだし。小腹も空いてきたし、顔を洗ったら火石持って下に降りよう。報酬もらったらさっそく旅の準備しなくちゃ。金貨三枚でどのくらい買えるのかも聞いておかないとね。
と。
「その前に」
あの本は今日も真っ白なのかな。何か手がかりみたいなの載ってたら助かるんだけど。
私は枕元に置いていた本をぱらぱらを捲る。すると、ちょうど中間あたりで黒い文字が見えた。
「あった、何でこの位置?」
色々疑問はあったけど、さっそく読んでみることに。えーと、なになに。
「主人公は朝いつもどおりの時間に起床すると、枕元に置いてあった形見の本を開く。そこには、ページの中ほどに魔法一覧が載っていた。主人公は驚いた……って、え! 魔法一覧。第一章・生活に使える魔法? なにこれすごい!」
その第一章を読んでみると、料理洗濯等の家事に使えるもの、移動等に便利な魔法がずらりとあった。しかも使い方も書いてあって、そこには。
「魔力のある人間で、魔法使いになれるほどの人間の方、魔力を練りこみながら行えば、当然のごとく使えるでしょう」
うわあ。やっぱり魔法使いって思い込みだったんだ。なんか、微妙な感じがしてきたけど、これなら私でも簡単に使えるだろうね。問題は、どうやら私は魔法使いになれるほどの人間らしいけど、その総量はどのくらいかってことかな。その辺も実際に魔法使って調べないといけないかも。どの辺りから使えなくなるのかとかさ。
うーん、そうしたら今日もここで一泊させてもらったほうがいいのかな。もし道中で魔力切れて身動き取れなくなったら困るし。よし、そうしよう。よくわからない世界にいきなりきたら、まずは情報収集と身の安全の確保が大事だよね! それに、何が起きるか分からないんだし慎重にいかないと。
「じゃあ、火石渡して報酬もらったら朝食もらおう」
さっき第一章は一通り見たからと本を閉じて下の階に降りることにする。
落ち込んだこともあったけど、今は魔法を使えることや、この世界のどこかに帰れるかもしれない手がかりがきっとある。そう思えるようになったら元気が少し出てきた。最初は空元気でもいいよね。笑う門には福来るっていうし、笑ってればプラスなことが舞い込んで、きっといいことも起こるよ。うん。頑張ろう。
「おはようございます」
「ああ、魔法使いの穣ちゃん。おはようさん! 朝食ならもうすぐ出来るから奥の部屋で待っていておくれ」
「わかりました。あ、でもその前にこれいいですか。火石なんですけど」
降りていくと忙しそうにおばさんがフロアを行き来していた。今話しかけるのまずいかな。でも、挨拶と火石のこと話すくらいならいいよね。私は出来上がった火石の数々を入れた箱をおばさんに差し出した。もちろん、あの出来の良過ぎたような気がしてならない火石も入っている。
「できたのかい。なら、さっそく出来栄えをみさせてもらおうかね……って、これは」
「やっぱりこれじゃ駄目ですか。少し良く出来過ぎたような気がしてたんですけど」
「いやいや、本当に大助かりだよ! これなら一粒で一週間はもつ。借りて多分返してもおつりがありすぎるくらいだよ。こっちのだと一日で使い切っちまうからね」
そうなんだ。使えるんならよかった。でもやっぱりこっちのくすんだほうはそのくらいなんだ。綺麗なほう、一週間だって。本当に助かったって、なんか嬉しくなってきちゃった。
「ちょっと待ってておくれ――はい、これ報酬の金貨二五枚だよ」
「え、多くないですか。昨日は三枚って」
「なに言ってるんだい。三〇個が一日で、残りは数日分が一三個に、一〇個が一週間じゃこのくらいが妥当だよ。あんた、どっかのお嬢様かなんかだろう。物の価値も知らないようじゃ弟子としても他に遅れちまうよ」
「物の価値……あの、それなんですが、私もそろそろやばいかなって思ってて。この金貨二五枚でどのくらいのものが買えるのか教えていただけませんか。時間がないようでしたら、宿のお手伝いします。それで空いた時間を私に下さい。お願いします」
丁寧にお辞儀をしてお願いをした私に、おばさんは急にあたふたしだした。
「ああいや、いいんだよそんなに畏まらなくて。あたしゃただの街の宿屋のおかみなんだから。嬢ちゃんのほうが身分も上だろうに。世間も知らないようじゃ、なんだか心配になってきちまったよ。ああわかった。嬢ちゃんに朝食後に色々教えるから、食べ終わったらそこで待っていておくれ」
「有難う御座います! でも、いいんですか。何か手伝わなくても」
「いいんだよ。いつも回ってくる火石は一日一粒の粗悪品なんだ。それをこんな良い火石を作ってくれたんだ。これだけあれば五ヶ月はもつよ。こっちは本当に助かってるんだ、気にしないでおくれ」
「わかりました。ご好意に感謝します」
「嬢ちゃん、それはこっちの台詞なんだよ。ほんとにおかしな譲ちゃんだ」
楽しそうに笑いながら二五枚の金貨を私に握らせてフロントの奥へと火石をしまいに行ったおばさんを見送ると、そんなに物を知らないかな私。と思いながらも言われた奥に行くことに。でもそっか、やっぱり私の世界とこっちの世界とじゃ全然違うんだね。これからはあまり無知そうなとこ見せないほうがいいかも。
で。
話を聞いた私は、その後聞きかじりの知識で街の中を巡り、色々を旅の準備を整えたら、残金が十五金に。
おばさんに聞いた話じゃ、平民なら一ヶ月の自給自足で六金あれば普通の生活ができるらしい。下流貴族だとだいたい二〇金から。それ以上は身分も全然違うし、雲の上の話らしくて知らないって言われた。
でも、そうだとすると、一五金あるから大分余裕で旅ができるかな。おばさんには悪いけど、時々ここを拠点に仕事を請け負ってもいいかも。火石以外にも水石、風石なんてのもあるみたいで需要あるようだし。その他にも無石からつくれるのが色々あるみたいだけど、聞いたら魔法使いの弟子の譲ちゃんのほうが詳しいだろうにって笑われちゃった。
うーん、おばさんは大丈夫だと思うけど、また無知を曝け出しちゃったな。店覗いたり図書館とかの本読んだりして、少しずつ探っていくしかないか。あ、でもあの本! あの本にまた何か新しいのが載っているかもしれないし、またそのうち見てみよう。
ここまで読んでくださった方、本当に有難うございました。