八
あの一件から一夜明け。
「ねえ…。」
「なんだ?佐助?」
「昨日さ。」
「ああ、百合殿のこと?」
「…なんか聞いてる?」
「確か、城内に不審者…織田の者、が入り込んでいるところを、たまたま見つけた百合殿が、不審者を捕らえて下さったんだろ?信玄公も誉めてた。」
「ふうん。たまたま、ねぇ…。そーですか。なーるほど…。」
「?嫉妬かな?まぁ、誉められて羨ましいのは分かるけど」
「違うから。それ絶対的に違うから。」
「そうかあ…。」
「なんのお話ですか?」
「わっ、志…百合。」
「百合殿!如何なされました?」
「あ、いえ…すみません。あまりに楽しそうでしたので、つい…。」
「…昨日。なんでわかったの?」
「たまたま、ですよ?」
「本当に?」
「本当に。たまたま、偶然。あなただって、夜私が起きているのを見ているでしょう?」
「そうだね…。」
「そうですとも。」
「仲が良さそうで良かったよ。」
「!?そ、そう…?」
「ありがとうございます。」
全く、志乃は笑顔を崩さない。
なのに、楽しくなさそうだ。
佐助はいつも、それが不思議で。
志乃を、心から笑わせてみたいたいと、そう思うのだった。
仕事中。
「志乃ちゃん?」
「……はい?」
くるっと振り返った志乃に、返り血はついていない。
ただ。
腕が真っ赤だ。
「もう…、なんでそんなに強いのかなぁ?」
「え?」
志乃はほぼ一人で城を落としかけていた。だが、志乃は武器を落とした者や持っていない者、逃げ出した者には目もくれなかった。佐助に合図するだけだ。
それらの者は、佐助がやった。
志乃いわく、弱い者いじめしているようで不愉快だそうだ。佐助が不愉快になってもそれは別にいいらしい。ひどい奴だ。なのに。
「もうさ、反則っていうくらい強いよね。なんなの本当、大将相手に一撃で勝つってやばすぎだとおもうんだけどな。」
「そんなに強くないですよ。」
「過度の謙遜は嫌味…。はああ…、。」
落ち込む佐助を、ポンポンと撫でる志乃。戦場で、二人共余裕である。
志乃は強い。恐い程に。化け物と、呼びたくなるのも頷ける。だが、志乃はいつも綺麗で。それは、人の命を刈り取る時も同じだった。
そのことが。
裏の世界を生きてきた佐助にはどうしようもなく奇妙なものに感じるのだ。