禄
志乃は、よく働いた。洗濯女としてもだが、その忍としての能力は、佐助の想像以上に高かった。
といっても、一緒に仕事したことはないのだが、その能力はの高さは実績が物語っていた。
ある仕事を請け負った佐助は、今、『夢幻の華』と向かい合っていた。月明かりに照らされた彼女の髪は…雪のように白かった。細い腕、赤い唇、白い肌。
「猿飛佐助さん?こんにちは。」
彼女の声は、鈴のように玲瓏と鳴り響いた。
(…白い髪、か。目立つなー‥。やりにくいだろうに。キレー、だけどさ。)
「キミは?…ま、聞かなくても分かるけどね。」
「なら聞かなければいいのではないですか?」
珍しい切り返しに驚く。
「こういう挨拶って大事でしょ?」
「そうですか?」
「そうだよ。」
『夢幻の華』は、「じゃあ…」と呟きながら、
「私の名前は、『夢幻の華』です。以後、お見知りおきを。?でも、これは名前というのでしょうか?とりあえず、はい。どうぞよろしく。」
何ともおかしな自己紹介をした。
戦場で呑気にそんな会話をしていると、佐助はあることに気がついた。
(どっかで会ったことあるような…?なーんか聞き覚えのある口調。でも白い髪
の知り合いなんて居ないしなぁ…。)
ためしに聞いてみる。
「えっと、まさか会ったことあるかな?」
すると、『夢幻の華』は驚いたような声色で、
「まさか…。気づいてなかったんですか?」
と言うと、つかつかと歩みよってきた。
間近で見たその顔は。
「志・・・乃!?でも、目が…。」
志乃だった。その顔、口調、佇まいは志乃そのものだ。だが、目の色が違う。髪の色も。
志乃は…百合は、薄茶の髪に栗色の瞳だったはずだ。だが、この忍は、白い髪に。
(緑の、瞳…。)
まるで宝玉をはめ込んだようなそれに、佐助はしばし見入った。
「……佐助?」
志乃の問いかける声に我に返った佐助は、独り言のように言った。
「なんで、色、変わってんの。」
「髪も目もこっちが本物ですよ?百合のときは変幻してるんです。」
律儀に応えた志乃は、にっこり笑う。
「これが、私の本来の姿なんです。ちゃんと覚えてくださいよ?」