伍
「佐助!」
「んー?」
何気なく返事をする。
「くノ一が、挨拶にきたよ!」
「ええ!?」
さすがに幸村だとは思わなかったので、佐助は一瞬思考停止した。
まだ完全に百合を信用したわけではない。どういうことだろうか。
「なんて言ってたの?」
「うん、確か。
『私、実は忍なのでございます…。騙していたこと、深くお詫び申し上げます。ずっと、心苦しかったのですが、真実を話すことができて、嬉しいです…』
と言っていたけど?」
それは、百合の言葉だった。
佐助の知る、くノ一ではなく。
「そう?ならいいよ。」
そう言って、佐助は百合をさがした。
「あら、佐助。」
百合が、声をあげる。
「えーっと、百合、ちゃん、かな?」
「いいえ?今は素です。百合は、洗濯女としての名ですし。」
「ふーん。そうなんだ」
「何のご用ですか?私、今少し忙しいので、手短にしていただけると助かります。」
やはり、自信満々というか余裕綽々というか。
「余裕だなあー。」
「そんなことありませんよ?貴方だって、飄々として余裕綽々って、よく言われるでしょう?」
向こうもこちらと同じ印象を抱いていたらしい。
百合は悪戯っぽく笑うと、「でも…」と続けた。
「でも、貴方は、変わっています、ね。なんだかとても…歪で。」
「…百合ちゃんは、俺より変わってるよね。」
百合は最初からずっと微笑を崩さない。
(まったく、調子が狂うなー。俺、この子気に入った。)
「これが本題。幸村には関わらない方がいいよ。」
「まぁ、どうしましょう。どうでもいいですけれど。」
佐助は、にこにこと笑う彼女が、だからなんだ、それがどうしたと言っている気がした。
「名前、聞いてなかったなー。百合ちゃんのままでいいのかな?」
「ああ、そう言えば言ってませんでしたね…。」
そう言った彼女は、くるりと回って極上の笑みを浮かべた。
「私は志乃。志乃と言います。」
志乃は、最後に、
「宜しく御願いしますね。できるだけ長く。」
と付け足したのだった。