参
佐助が少女の監視を外して二週間後。
任務に出向いた部下が毎日のように『夢幻の華』に遭遇した。皆、攻撃はされなかったが、『猿飛佐助』について聞かれた。声は何故か覚えていないそうだ。
(俺に用でもあるんすかねぇ。)
部下は一人も殺されていない。敵では無いのだろう。だが、味方でも無い。
彼女は一体何がしたいのか。
そんなことを、考える。もう夜は白みはじめている。考え始めたのは夕方、かなりの時間が経過している。
ガタン。
「!?」
何の音か確かめに行くと…、あの少女が洗濯桶を派手に転がしていた。
確か、名前は百合。愛という妹がいる。少女のようだが、年は佐助の予想と反して十九だった。なかなか仕事は出来るようで、重宝されているらしい。
「また、落としちゃいました。」
百合は、洗濯桶を拾おうとして、動きをとめた。
「!?誰ですか!」
百合の真後ろにいた佐助の顔目掛けて、回し蹴りが飛んでくる。
(おお、やるねぇ。)
避けようとしてから、やめる。
百合の足は、佐助の顔紙一重のところで止まっていたからだ。
「あれぇ?なんで蹴らないの?俺不審者じゃん。」
明らかに動揺した百合は、
「わ、私はか弱い乙女でございます、お、男の方に立ち向かうなど、できませぬ。」
と言って顔を伏せる。さっきの回し蹴りなら、戦場でもやっていけそうだが。
「か弱い…?」
百合は沈黙している。無視された。
「あの、あなたは一体…」
「名も無き忍者です。」
「まあ。」
流された。
「反応薄っ!ちょっと傷つくんだけど?」
「さよなら、また、あの、会いましょう。でっ、では。」
なぜか物凄く慌てたまま、走っていく。
「(かーわいーなー。最近美少女と縁があるような・・。ラッキーー。)」
百合は去った。
佐助は、百合のいた空間をじっと見ていた。
「(『夢幻の華』も美少女だったりして。)」
くだらないことを考えていた。