壱
がんばります!から、これからよらしくしてほしいなぁ、と思います!!
佐助は走っていた。
織田信長の城、安土城から、武田領に向かって。
猿飛佐助の名は、忍の間では有名である。その能力は、手練れの忍5人を一瞬で葬り、本気で気配を消せばどんな者も気づくことはかなわないと言われる程だ。
そんな佐助には、最近気になる噂があった。
『夢幻の華』。
幻惑の香をその身にまとい、口元に残酷な笑みを刻み、一瞬の躊躇いも無く敵を闇に葬り去る。ただのくのいちと言い切るには、あまりに異質。戦場に紛れ込んだ幻のように朧。伝説に成りつつある霞のような存在。
まるで嘘のような話だが、佐助は信じていた。
何故なら、佐助自身、『夢幻の華』に出会っているからだ。
部下の一人が『夢幻の華』にやられそうになっているところを助けると、香しい花の香が届くと共に謎めいた笑みを浮かべた本人が部下を拉致して連れ去った。部下は数日後、拉致されてからの記憶が抜けた状態で帰ってきたが。
顔は薄い布のようなものに隠れて見えなかったが、確実に女であることは、高い位置で束ねた長い髪からして一目瞭然だった。そして、強い。自分でさえも、相討ち覚悟でいかなければ勝算は低い。
その『夢幻の華』が、どこの忍かはわかっていない。おかしいことだが、あれに限っては違和感が無かった。
それくらい、『夢幻の華』は異端者なのだ。
(あーあ、うちに引き込めないかなー。俺だけじゃ手がまわらない状態はやばいけど、そうなりかけてますしねー。)
正直、武田軍はきつい。越後の謙信との戦もわからない。武田には誰かいい人材が必要だ。
そんなことを考えながら、佐助は走る。
木から木へ、ひたすら走る。
ちょうど武田領に入った頃、人が倒れていた。
(うわー。行き倒れー!?…放っておこ。面倒だし。)
なにぶん、急いでいる。佐助は、人を無視して先を急いだ。
しばらく走る。すると、また人が倒れていた。さっきと同じ人物かと思い、見てみると、薄い茶色の髪の少女であった。年は十七くらいだろうか。絶世の美女とは言えないものの、整った顔立ちをしている。
(さっき見た人と同じ!?どういうことだ!?)
すぐさま術を確認するが、なにか術にかかっているわけでもなさそうだ。残る選択肢は一つ。
(人が、ついてきてる?)
佐助のスピードについてくるなど普通ではないが、それくらいしか考えられない。近づいて、頬を叩いてみる。
(反応はなし、ですか…。)
目覚める気配はない。息はしているので、気を失っているのだろう。
遠くから馬の足音が聞こえてきた。
(まずいな。大将だ。)
それは、真田幸村…佐助の主の馬の足音であった。佐助には予想できた。あの真っすぐでお人よしな幸村のとる行動が。
「やっ!」
だだだだだだだだっ!と一直線に走る馬は、手綱によってピタリと止まった。
「そこの御仁!どうされたのですか?」
幸村は馬を下り、少女に駆け寄る。
「大丈夫ですか!しっかりなさってください!」
「ん、んん…」
すると、いくら佐助が声を張り上げて呼ぼうがぴくりともしなかった少女が、身じろぎをした。また意識を失ったようだが、怪しい。
「城へ連れて帰って話を聞こう。」
やはり。という思いで佐助はため息をついた。怪しいと進言しなければ。だが、ここで助言したところで幸村が信じるだろうか。否。信じないだろう。それどころか、こちらが不利になる。佐助はすぐに、自分の中で答えを出した。
(しばらくは、様子を見ますか…。)