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彼らの青春(イマ)は終わらない

作者: 東郷 義人

「それにしても、恭介さんがいなくなるなんてまだ想像できないよね~」

 小毬が言う。

「まあな。俺だって自分が一人であくせく働いてる所なんて想像できないぜ」

 恭介が答える。

「・・・まあ、恭介が真面目に働くか、というところが不安だが・・・」

「たしかにな。この馬鹿兄貴がきちんと働くとこなんて考えられん」

「いやいやいや、恭介だってやる時はやるでしょ」

 謙吾と鈴を理樹がなだめる。

 恭介の卒業も近いある日、リトルバスターズは部室の大掃除を行い、そのまま雑談していた。

「・・・ところで、恭介さんはどこに就職されたのですか?」

 美魚が聞く。

「保育園だ。嗜好と実益が両立する、まさに理想の職場だったのだろう。仕事をする傍ら、青い果実を見つめてハァハァする予定だな」

 来ヶ谷が答える。

「そうか・・・恭介はついに自分がロリだと受けいれたのか・・・本当に、遠い世界にいっちまったんだな・・・」

「へえ、恭介さんてロリだったんだ。意外ですネ」

「違ぇ!そもそも俺はロリじゃねえぇぇぇぇっ!!」

 深刻そうに言う真人とそれに乗る葉留佳を前に、恭介の絶叫が響きわたった。

「恭介さん、ロリってなんなのですか?」

 よく分かっていないらしいクドが尋ねる。

「俺に聞くな!それと今のやりとりは忘れろぉぉっ!!」

 恭介が再び絶叫する。

「・・・ロリとはロリータコンプレックスのことで、能美さんのような女性を好む性癖のことです」

「やめろ西園!それ以上は言うなあぁぁっ!!」

「うっさい!」

ばきぃ!

 叫びまくる恭介の脇腹に、鈴のキックが深々と突き刺さった。

「かはぁっ!り、り・・・ん・・・」

「うわぁ・・・」

 恭介は口をぱくぱくさせるだけで声にならない。

「・・・美魚ってなんだかそういうのにやけに詳しいよね・・・なんで?」

 理樹が尋ねる。

「・・・・・・!い、いえ、一般教養です。この事についてはそれ以上のことは知りませんし」

 美魚は慌てて弁明する。

「はっはっは。少年には絶対に知られたくないのだな。まあ、少年が感づくのが先か、キミがそれを卒業するのが先か・・・」

 来ヶ谷が楽しそうに言う。

「・・・どういうこと?」

 今度は来ヶ谷に尋ねる。

「本人が嫌がっていることは言えんな。・・・ところで少年、腐女子という言葉を知っているか?」

「来ヶ谷さんみたいな人のことでしょ。同性愛がどうとか・・・僕にはよく分からない世界だよ」

「少年はそう言うのは苦手か・・・美魚君、嫌われたくなければ早めに卒業する事だ」

「・・・無念ですが、さすがに理樹さんを対価にはできません・・・」

「・・・僕に理解させるつもりないよね」

 理樹がぼやく。実際知らない方が幸せだが。

「あの、私のようなとはどういうことなのでしょうか?」

 放置されているクドが言う。

「んーと、つまりね、クド公みたいなちっこいひんぬーわんこって事だよ」

「ガーン!?」

 葉留佳の返答にヘコむクド。

「でも、クーちゃんみたいな子が大好きって人がたくさんいるって事だよね。それっていいことじゃないかなあ?」

 小毬の能天気な答え。

「でも・・・小毬さんはおっぱい大きいですから」

 クドが暗く答える。

「確かにな。バストサイズは私に次いで83といったところか」

 来ヶ谷が答える。

「・・・ってゆいちゃん、なんで知ってるの~!?」

「目測だ。それとゆいちゃんと呼ばないといい」

 来ヶ谷が事も無げに答える。

「目測って・・・」

 げっそりとした顔で理樹が言う。

「修練しだいで身に付けられるだろうが・・・少年も訓練するか?」

「そんな技術身につけて、なんの役に立つって言うのさ?」

「む?それは周囲の女性のサイズを測って、誰と交際すればいいか判断材料にするのに使えるぞ?」

「だったら尚更いらないよ・・・」

「なんだ、少年は女の子のおっぱいに興味がないのか?」

 来ヶ谷が不思議そうに言う。

「そうじゃなくって・・・僕には美魚がいるから。美魚以外の女の子をそういう目で見たくないんだよ。・・・美魚だってそうして欲しいでしょ?」

 そう言って、理樹が美魚に問いかける。

「・・・・・・」

 しかし美魚は黙ってそっぽを向く。

「・・・あれ?違ったかな・・・。・・・ごめんね、ちょっと思い上がってたみたいだね・・・」

 美魚の沈黙を否定ととったのか、理樹が少ししょんぼりとして謝る。

「・・・違い、ません」

「え?」

「わたしだけを・・・見ていてほしいです。・・・わたしには、理樹さんしかいませんから」

 そこまで言うと、美魚は再び黙ってしまう。しかしその横顔は耳まで赤く染まっていた。

「美魚・・・」

 理樹はそんな美魚を後ろから抱き締める。

「・・・ごめんね。本当は嫌ってわけじゃない事は分かってたんだけど、美魚の口から直接聞きたかったから嘘ついちゃったよ」

 理樹が申し訳なさそうに言うと、抱き締める腕に力を込める。

「・・・理樹さんは、本当にずるくなりましたね。・・・こうすればわたしが怒れないと、分かってやっているのでしょう?」

 美魚が呆れたように言う。・・・普段はそっけない態度を装っていても、愛する人に抱き締められればそれだけで蕩けてしまう恋する女の子。美魚としては、決して変わってしまった自分が嫌なわけではない。しかしいつも主導権を握られているのが少ししゃくだった。

「美魚は女の子なんだから、無理に強がったりしなくていいよ。僕だって美魚の事くらいは引っ張っていけるつもりだよ?それに・・・将来はもっと多くを引っ張っていく事になるんだろうしね」

「そ、それは、まさか・・・」

 理樹の赤くなりながらの言葉に言いたいことが分かったのか、真っ赤になる美魚。

「ま、まあ、まだ何年も先の話だよ?」

「・・・わ、分かっています」

 慌てて付け加える理樹と、少しぎこちなく答える美魚。と、二人の世界に入り込んでいた二人は周囲からの生温かい視線にようやく気がついた。

「いや、今は真冬だというのに随分とこの部室は暑いのだな」

「まったくだな。ここ以上に暑い場所を俺も知らないな」

「「・・・・・・」」

 来ヶ谷と恭介の揶揄の言葉に俯く二人。

「・・・そういえば、少年は美魚君のスリーサイズを知っているのかね?」

 来ヶ谷が思い出したように聞く。

「知らないけど?」

 理樹はそれがどうしたのか、と言いたげに答える。

「・・・なるほど。では美魚君のサイズを教えようか」

「・・・・・・!」

 勝手に自分の秘密を暴露されそうになった美魚が瞬時に真っ赤になる。

「・・・教えなくていいよ」

 しかし、理樹はそっけなく答える。

「そもそもこの場で言ったらみんなにも聞こえちゃうしね。・・・美魚のそんな事を知ってるのは、僕一人で十分だよ」

「ふむ。少年らしくもない独占欲か。・・・それだけ美魚君が愛されているというわけだな」

 からかうように言う。

「ちぇ・・・つまんないの」

 葉留佳は不満そうだ。

「葉留佳君のはバスト・・・」

「うわああごめんなさい!許して姉御ぉ~!」

 慌てて謝る葉留佳。

「・・・というか本来のわたしの質問の答えが出ていないのですが」

 矛先が自分から離れたところを見計らって、美魚が話を戻す。

「それが、恭介が教えてくれないんだよ」

 理樹が答える。

「本当ですか?」

「ああ。せっかく恭介の同僚も加えればマッスルセレモニーが開けると思ったのによ・・・」

 真人が残念そうに言う。

「マッスルセレモニー・・・そんな祭典を思いつくのは地球上に真人だけだと思うよ」

 理樹が苦笑しながら言う。

「ありがとよ」

「こいつばかだ!」

 鈴が真人を宇宙生物のように指差して言う。

「・・・で、本当に教えないつもりか?恭介」

 謙吾が仕切りなおしをするように言う。

「まあな。来年の二月か三月くらいには教えてやってもいい」

 恭介が答える。

「なにか意味があるのですか?」

 クドが尋ねる。

「その頃にはお前らの進路も確定しているだろうしな。・・・ところで、お前ら進路は決まってるのか?」

 恭介が逆に聞いてくる。

「進路って、何のことだ?」

 鈴が不思議そうに言う。分かってないとまずいだろうに。

「だから、高校を卒業した後進学か就職か、それとどこに行くかって事だよ」

 理樹が解説する。

「ふーん。・・・理樹はどうなんだ?」

「僕は進学かな。法律について勉強したいんだけど、とりあえず地元の国立大学の法学部を考えているよ」

「真人は」

「筋肉だ!!」

「謙吾は」

 スルーした!

「俺も進学だ。恐らく、剣道で推薦を貰えるしな。理樹と同じ大学を考えている。剣道がそれなりに強いしな。・・・理樹、同じ大学なんだからたくさん遊ぼうな」

「ちょっと待てよ・・・じゃあ謙吾は理樹と一緒って事かよ」

「よくわからんが、あたしも同じとこに進学する」

 鈴も最近は小毬の影響で英語が、クドの影響で国語が上がってきているので進学も努力次第で可能な域だ。

「がぁーっ納得いかねえ!なんで理樹と鈴と謙吾が一緒なのにオレだけ別なんだよ!!」

「キミの学力では付いていくのは不可能だろう。諦めるんだな」

「うあぁぁーっ!!」

 真人が絶望する。

「心配するな真人。お前のこともちゃんと考えてある」

「・・・なんか方法があるのか、謙吾!?」

 真人がすがるような目で謙吾を見る。

「あの大学にはそこそこ名の知れたボディビル部がある・・・真人、夏までにボディビル大会で結果を大量に残せば推薦で入れるだろう」

「その方法があったか!やっぱり持つべきは筋肉だな!」

 ・・・たぶん違う。

「こうしちゃいられねえ。全国の筋肉自慢たちを圧倒するため、オレは筋肉の星になる!!」

よく分からない事を言いながら真人は部室を飛び出していった。

「・・・みんなはどうなの?」

 気を取り直して理樹が尋ねる。

「私も進学だよ~。介護師さんの資格を取って、おじいちゃんがいるような所で働きたいんだ~」

 小毬らしい返答が来た。

「わたしも一応進学ですネ。数学とか物理とか面白いしさー。それ以外ももうちょっと勉強しなさいっておねえちゃんがうるさいんだけど」

 てへへ、と笑う葉留佳。

「私もです。そもそも日本に戻ってきたのも進学のためですし」

 クドが答える。

「ふむ。おねーさんは特に将来設計などはないが、一応進学のつもりだ」

 来ヶ谷が答える。

「・・・わたしも進学します。一応それなりの資格を身につけて損はありませんし」

 美魚も答える。

「ふん。じゃあ結局お前らは全員同じとこに進学するんだな」

 恭介がやれやれ、と言う風に言う。

「ごめんね。恭介だけ仲間はずれみたいになっちゃって」

 理樹が申し訳なさそうに言う。

「いや、いいさ。むしろその方が好都合だしな」

「え?」

「なんでもない。よし、そろそろ練習を始めるか!」

「ひゃっほーう!」

 恭介が宣言すると、謙吾は部室を飛び出していった。

「・・・どうせきょーすけのことだ、ろくなことじゃないだろ」

「・・・そうだね」

 釈然としないものの、理樹は鈴になだめられて続くのだった。



「・・・こまりちゃん、ここはこうでいいのか?」

「ここは命令文だから、said toじゃなくてtold toだよ」

「・・・クドリャフカ君、ここはメネラウス・チェバの定理を利用した方がいい」

「そうですか。ありがとうございます」

「・・・暇だな、真人」

「ああ・・・まったくだぜ」

 恭介が卒業して半年。リトルバスターズの面々も推薦ですでに安全圏と思われる二人を除く全員が受験勉強に追われていた。

「ふあぁ・・・やっぱり退屈ですよネ」

「こら葉留佳。さぼらないの」

 葉留佳にくっついて女子寮長の二木佳奈多も混ざっている。

「・・・いつも思うんだけど、なんで二木さんまでいるの?」

「私はあなたたちのお目付け役。監視するのは当然でしょ」

 当然とばかりに答える佳奈多。ちなみに現在のクラス分けは、ひとまとめにしたほうがいざという時監視しやすいとの佳奈多の提案によりリトルバスターズ全員が同じになっている。元風紀委員長のおまけつきだが。

「まあ、佳奈多君は監視というより妹の楽しそうにする姿を近くで見ていたかっただけだろうが」

「なっ・・・・・・・ち、違います!私はただ姉として責任を感じているだけで・・・ってだから眠らないの、葉留佳!」

「すぴー・・・」

 佳奈多の気がそれたスキに葉留佳は居眠りを始めていた。それを慌てて起こす佳奈多。

「全く・・・普段から勉強していないからより辛く感じるのですよ」

 美魚は葉留佳のやる気のなさに呆れ気味だ。

「はぁー。私も推薦で行けたら良かったのになー」

 真人と謙吾を羨ましそうに見る。

「ふん。いざという時、筋肉を持ってるやつが有利なんだよ。なんならオレ製・マッスル・エクササイザー三号飲むか?」

「やめて井ノ原。この子、本気にするわよ」

「二木さん、真人自身が本気だからさ・・・」

 くたびれたように言う佳奈多と理樹。

「そういえば謙吾少年、古式女史はどうしている?」

 来ヶ谷が思い出したように聞く。

「ああ、あいつなら大丈夫だ。受ける短大もそれほど難しくはないしな」

 謙吾は心配する事などなにも無い、という風に答える。

「ふむ。しかし恋人と離れ離れになるというのは寂しくないのか?」

「なぁに、会いに行こうと思えば行ける距離だし、このメンバーで一緒にいるのだから寂しさなど感じんさ」

 来ヶ谷の言葉を謙吾は事も無げに流す。

「そうか。キミにとってみゆき君もその程度の存在なのか。彼女が聞いたらさぞ悲しむだろうな」

「・・・いや、そういうわけじゃない!あいつも大切だが俺にはリトルバスターズも大切なのであって・・・」

「・・・謙吾、からかわれてるだけだからさ・・・」

 理樹に指摘され、謙吾はむっとしたように黙り込む。

「そういう少年はどうだ?美魚君の事を、リトルバスターズで補えるかな?」

 来ヶ谷は今度は理樹に矛先を向ける。

「そうだね・・・」

 理樹はしばし考え込む。

「・・・難しいかな。天涯孤独の僕にとってリトルバスターズは家族みたいなものだけど、その中でも僕にとって美魚は一番大切な人だからね。もう家族の代わりをしてもらってるのに、その上愛する人の代わりまでは・・・ね」

 恥ずかしそうに締めくくる理樹。

「・・・・・・」

 そんな事を言われた美魚も真っ赤になって俯いている。

「はっはっは。やはり理樹君はS気質か。互いに意外性の強いカップルだな」

 楽しそうに笑う来ヶ谷。

「見てるこっちがはずかしかったよ~」

「わふーっ・・・ちょっと刺激が強いのです・・・」

「よくわからんが、なんかみおがうらやましいな」

「おふたりさーん、熱いですネ」

「西園は筋肉をも超えるか・・・理樹に関しては勝てねえようだな」

「理樹にこれだけ言わせる西園なら、心配ないな」

「あなたたち、幸せ自慢は他所でやってくれるかしら」

 続いて皆も騒ぐ。そうやってなんだかんだいって応援してくれているのが、理樹と美魚には心地よかった。



「どう?美魚」

「まだです・・・理樹さんもですか?」

 冬。理樹と美魚は、センター試験の後の合格発表に来ていた。

「うん・・・鈴や小毬さん、クドは合格したって連絡があったんだけど・・・」

「三枝さんと来ヶ谷さんからも合格したと連絡がありましたが・・・」

 不安そうに顔を見合わせる二人。

「大丈夫だよ。・・・あっ!」

「どうしました?・・・あっ」

 理樹の視線の先、そこには二人の受験番号があった。

「合格おめでとう、美魚」

「合格おめでとうございます、理樹さん」

 互いを祝福する二人。

「おっ、お前らも合格したようだな」

 背後の声に振り返る。

「恭介・・・なんでここに?」

 恭介が立っていた。

「なんでって、ここが俺の職場だからだが?」

「え?」

 恭介の言葉に呆然とする二人。

「だから、俺はここで事務員をやってるんだよ」

「じゃあ・・・」

 理樹がしだいに笑顔になる。

「ああ。ここでも思う存分、遊ぶとしようぜ」

 恭介が笑う。ここに新たなミッションが始まったのだった。


恭介が再び参加していくという展開に不満の方も多いでしょうが、私としては高校より自由度の高い大学での彼らのハチャメチャな日々を見てみたい・・・と思ったのでこういう展開にしました。

書き溜めていたSSの内、投稿に耐え得りそうな物はこれで最後になります。

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