表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園八不思議の裏側  作者: 末苗
はじまり、はじまり
4/5

高等部はすぐそこです

私は今、猛烈に説教したい。

三十分前の自分に説教したい。

過去に戻れるなら、今ここに正座させたい。


「はあ・・・はあ・・・一体ここは、はあ・・・どこ?」


入口からずーっと、目的地は見えている。

あのいかにも学校っぽい白い建物だろう。

地図に描かれている位置的にも合っているはず。


が、しかし。

「なんで辿り着けないの・・・?」

誰か偉大な魔法使いが時空を歪めてるんじゃないだろうか。

実は私がこれから行く学校は魔法学校で、これは学校の入学試験とか。


「ははは・・・馬鹿か。」

自分の妄想に思わず自分でつっこんでまった。


だって、そう思わずにはいられない。

三十分前から何度も同じ景色を見ている気がする。



確かに、水町(みずまち)先生は「道が複雑だ」と言った。

確かに、学校の説明でも「森を越える」と言われた。

確かに、高等部は遠いから、という理由で編入試験は別会場で行われた。



が、しかし。

「地図を簡略化させすぎなんじゃ・・・」

私はもう一度地図に目を落とす。

そこには入口から学校まで、まっすぐな一本の道が描かれていた。

「あぶりだし?あぶりだしなの?実は隠された道が・・・」



「ありゃ~?迷い子がいる~。」


地図を見ることに必死になっていた私は、すぐ近くに人がいるのに気付かなかった。

声の方を向くと、制服を来た金髪男子が立っていた。


不良だ。


「あ~、不良だって思ったでしょ~。違うんだって~。間違ったの~。間違ってこんな色に。」

抑揚のない声でそう言うと、金髪男子は自分の頭を指差した。

まるでピストルをむけているようだ。

その親指はなんだ。立てる必要があるのだろうか。


・・・と、いうか!心読まれた!


不良じゃないとすると・・・・・・チャラ男か。

髪ふわふわだし。



「今度はチャラ男って思ったでしょ~。だから~間違ったんだってば~。」

「あの」

「俺天パなの。天パにチャラ男はいないよ~。」


人の話を聞かず、めちゃくちゃな理屈を淡々と述べているこの金髪男子は、

ここの生徒だろうか?


制服を見るに間違いないと思うけど・・・。

髪を金色にしちゃうぐらいだから二年生か三年生だな。


「あの、高等部に行きたいんですが、迷ってしまって・・・こちらの生徒さんですか?」

「そうなんだ~。俺は、河戸川(かどかわ) 真優(まひろ)。」

「よろしくおね」

「あ、河戸川(かどかわ)は書店じゃなくて、かわ二つの河戸川(かどかわ)ね~。よろしく~。」


あれ。

会話が成り立たない。

上に、こちらの受け答え関係なく話してくる。

上に、質問の答えが返ってこない。


どうしたもんか。

これはもう一度聞いてみて様子を見るしかないかな・・・。


「あの、こちらの生徒さんですか?」

「あ~。そうそう。三年生だよ~。三年一組~。」


良かった。

会話は成り立たないけど、人の話は理解できる人だ。

話はちゃんと聞いてくれる人だ。


解決。

ただのマイペースさんだ。



「迷っちゃったんだっけ~。あ~、え~っと・・・名前は~?」

「あ!はい!すみません!私、佐倉(さくら) 神音(かのん)と申します。」

神音(かのん)ちゃんね~。神音(かのん)ちゃん“好かれそう”だもん。遊ばれてるんだね~」


好かれそう?

誰に?

遊ばれてる?

誰に?

金髪男子、もとい河戸川(かどかわ)さんの言っていることがいまいち理解できない。

理解できないというか、話が見えないというか。


「あ~。ごめんごめん。うんとね~、信じるか信じないかはあなた次第ってやつ~?」


河戸川(かどかわ)さん、ごめんなさい。

益々理解できません。

恐らく彼はヒントを出してくれているのだろうけど、全くもってわからない。

でもここで「わかりません」なんて言ったら、彼を傷つけてしまうかもしれないし・・・。


一か八か答えてみるか。


「ええと・・・・おわかりいただけだろうか?的なものですかね・・・。」

「お~。正解~。このヒント通じたの神音(かのん)ちゃんが初めてだ~。」


そりゃそうだ。私が理解できたのも奇跡というか偶然というか・・・。

という言葉は飲み込んだ。

私は『世渡り上手』『八方美人』の二つ名を持っている佐倉(さくら) 神音(かのん)だ。

特技、空気を読むこと、の佐倉(さくら) 神音(かのん)だ。


思ったことはすぐに口に出さないのがモットーである。


「それは、つまり幽霊、的なものですかね・・・。」

「大正解~。俺見えるんだよね~。信じるか信じないかは」

「信じます。」

河戸川(かどかわ)さんの言葉をさえぎったことについては謝罪します。心で。

けれど、この人のペースに合わせて会話をしていたら、日が暮れてしまう。

心音(しおん)を迎えに行かなきゃならないし、人参も買って帰らなきゃいけない。

そのためにも、私は早く高等部に辿り着かなくてはならないのです、河戸川(かどかわ)さん。


「わ~うれしいな~。信じてくれたのも神音(かのん)ちゃんが初めてだよ~。」

河戸川(かどかわ)さんがびっくりするぐらい満面の笑みを浮かべるものだから、

何故かこちらが恥ずかしくなってしまって、顔を伏せた。


「あの、つまり私は幽霊さんたちによって、この森を彷徨ってる、ということですか?」

「うん。うん。」

「時空をゆがめてる、とか?」

先ほどの妄想を口に出してみる。

「そんな大層なことは『この子たち』にはできないよ。『もっと力のある悪い子たち』じゃないとね~。」


いつの間にか指にかかっていた鍵をくるくる回しながら、河戸川(かどかわ)さんは少し怖い笑みを浮かべた。


「私、同じところ何度も歩いてる気がするんですが・・・。」

「うんとね~。『この子たち』が“通せんぼ”してるんだよね~。」

「“通せんぼ”?」

神音(かのん)ちゃん、さっきから『この子たち』にぶつかって、全然“前に進んでない”んだよ~。」

「幽霊って透明で、すり抜けたりするもんじゃないんですか?」

「あれは想像上というか~。う~ん。実際そういう風に見えたりする人もいるだろうけど~。」

河戸川(かどかわ)さんは違うんですか?」

「あ~。苗字やめて~。書店みたいだから。名前で呼んで~。」


これは話がそれるフラグ。

面倒くさい問答なんてしていたら、本気の本気で日が暮れる。

今の私には河戸川(かどかわ)さん以外頼れる人がいない。

とりあえず、彼に従っておこう。


真優(まひろ)さんは違うんですか?」

「『さん』もやめて~。俺敬われるような人間じゃないから~。」


あー。

回避失敗。


「あの、でも私一年なんで・・・真優(まひろ)さん年上ですから・・・。」

「年とか関係ないよ~。やめて~。『さん』やめて~。」

しまった。

どんどん話がそれる。


「じゃ、じゃあ、『真優(まひろ)君』でどうでしょう?」

私には年上を呼び捨てにする勇気はない。


「え~。う~ん。『さん』よりは良いかな~。でも」

「これで手を打ってください。」


時間が。

時間がどんどん削られていく。


私は頭をフル回転させて、母が料理をし始めるであろう時間から、

心音(しおん)を迎えに行くためにここを出なければいけない時間を逆算する。


「わかったよ~。真優(まひろ)君でいいよ~。」


助かった!

この手の人間は、自分が納得できない事象が起きると、次の問題に手をつけてくれない。

心音(しおん)が割とこのタイプに近い人間だから、よく知っている。


真優(まひろ)君は、幽霊は透明に見えないんですか?」

この機会を逃すもんかと、すかさず話題の軌道修正を試みる。


「そうだね~。俺には普通の人間と変わらないように見えるよ~。」

やったー!

軌道修正成功しました!


「さっきから気になってはいたんですけど・・・」

「なに~?」

「『この』子たちってことは、そんなに近くにいるんですか?」

「うん。ここにいるよ~。」


そう言って真優(まひろ)君が指をさしたのは、文字通り私の目と鼻の先で。

一瞬にして背筋が凍りついた。

後ろに逃げたいが、足が固まって動かない。


「大丈夫、大丈夫~。さっきも言ったけどこの子たち、“遊んでる”だけだから~。」

私の顔色を見て、真優(まひろ)君が背中をさすってくれた。

人の体温に触れて安心したのか、足に感覚が戻ってくる。


神音(かのん)ちゃん、手かして~。」

「は、はい!」


突然、真優(まひろ)君がそう言って手を差し伸べてきたので、言われるがまま、彼に手を差し出してしまった。


私の手をぎゅっとつかむと、彼は普通に歩き出した。


何か技が出るのかと思ったけど、違うようだ。

もしくは、走って逃げるのかとも思ったけど、それも違うようだ。


「あ、あの?」

「俺ね~。見えるし、あの子たちの『思い』みたいなのはわかるんだけど~・・・。」

「けど?」

「話せないんだよね~。だから説得?とかできないの~。今も話せれば「どけて」って言えるんだけどね~。ごめんね~。」


ああ。

再度襲来。

真優(まひろ)節。


それがどうして手をつながることにつながるんだ。


「あ~。そうか~。なんで手をつないでるかってことだよね~。」

「そうです!わかってくれましたか!」

会話が成立しない人が、自分の言いたいことを汲み取ってくれることほど、嬉しいことはない。


「なんでか俺、幽霊回避能力、っていうのかな~?あの子たちのいたずらとか効かないんだよね~。だから、俺と手~つないでれば、幽霊の影響受けないんだよ~。」


幽霊回避能力・・・。

「か、」

「ん~?」

「かっこいいですね!その文字列!なんか特殊能力って感じで!」

「あはは~。そうかな~。ありがとう~。」

「お礼を言われることでは。」

「この特技ほめてくれたのも、神音(かのん)ちゃんが初めて。」


なんというか。

さっきも思ったのだけど。

この人は、本当に神々しく笑うなあ・・・。


「は~い。とうちゃ~く。」

真優(まひろ)君の笑顔に見惚れている隙に、目の前に大きな建物が現れていた。


「ここが、高等部校舎だよ~。ようこそ~。」


真優(まひろ)君が校舎に向けて手を広げる。

当たり前だが、遠くで見るよりも大きい。

迫力があるなあ・・・。


校舎を見ていると寒気がして、背中が震えた。

風が冷たいせいだ。


そう思いながら、私は真優(まひろ)君の手を離した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ