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学園八不思議の裏側  作者: 末苗
はじまり、はじまり
2/5

引っ越し当日

「よし、と・・・こんなものかな」

部屋を見渡しながら、誰に言うでもなく呟いた。つまりはそう、独り言。


今度の部屋は今までで一番大きいかもしれない。

今はよくある勉強机とベットしか置いていないが、全身鏡やドレッサーなんかも置けそうだ。

置いてもなお、子供が寝転がれるぐらいのスペースが余る。

と、そんなことを考えはみるものの、またいつ去るかもわからないこの部屋に、荷物を増やしても無駄なことくらい、自分が一番よくわかっている。


前に住んでいた部屋では、今の家具だけで丁度良かった。

が、今回の部屋は広すぎて、なんとも殺風景に映る。


今はまだ、空の段ボールが散乱しているからそんなに気にはならないが、それらを片付けたらそれはそれはぽっかりとした空間ができあがってしまうのだろう。


クローゼットが付いているのが、なお悪い。

ほとんどの物を収納できてしまう。

いや、便利なんだけど・・・。


やっぱり前の部屋の広さが丁度良かったなあ。

広すぎる部屋はなんだか落ち着かない。


「やっぱり何か買おうかな・・・」


しかし、家具を増やしたとして、次の引っ越し先がとても狭い家だったらどうする。

一度、自分の部屋がない家に住んでいたこともあったから、ないとは言い切れない。

そうなったら、増やした家具もただ邪魔なだけ。


って、引っ越して早々なんで次の引っ越しのこと考えてるんだ私。


でも、自然と“次”を考えちゃうぐらいに引っ越しの頻度が高いわけで。



「かーのーんー!荷物片付いたー?段ボール出しちゃうから、片付いたなら早めに持ってきてー!」

階下から母の声が聞こえ、私は現実に引き戻される。

下まで聞こえるようになるべく大きな声で「はーい」と返事を返し、再び頭を片付けに切り替えた。


カッターで空の段ボールを一つずつ分解していくこの作業、量が多いと骨が折れる。

しかし、自分で言うのもなんだが、私は手際が良いため、そんなに時間はかからない。

やはり、何事も経験がものを言う。


段ボールを全てつぶし終わると同時に、階段を勢いよく駆け上がってくる音が聞こえた。

音が止むのと同時に部屋のドアが勢いよく開く。


「ねーちゃん!片付け終わった!?学校行こう!」


ドアが開く音と同じ大きさで叫ぶ弟。

昼間とはいえ近所迷惑ではなかろうか。


「しーおーん!あんまり大きな声出しちゃダメよー!近所迷惑でしょう!」

どうやら母と以心伝心していたらしく、階下から再び母の声が聞こえてきた。

しかしながら、母よ。

あなたが叫んでいるのは例外なのですか。


「ねーちゃん!早く行こうよー!」

声のボリュームは落ちたが、相変わらず叫ぶ弟に、私はふう、と一息ついて言葉を返す。


「はいはい。・・・心音(しおん)はいつも新しい学校でテンション上がるね。普通逆じゃない?」

「なんでー!?新しい友達できるんだよ!?楽しみに決まってるじゃん!」


私も割と人見知りはしない方だから、転校はそこまで苦じゃないけれど、心音(しおん)の順応性の高さは飛びぬけていると思う。

ドラマや漫画なんかだと、転校が多い子供は、親の転勤に対して恨みとか悲しみとか、マイナスの感情を抱く子が多かったような気がするけど・・・。


そんなことを考えていると、待ちきれなくなった心音(しおん)が私のもとに駆け寄り、手を引いた。

「ねーちゃん、早くー!学校終わっちゃうよー!」

「はいはい」


私はゆっくりと腰を上げた。

今日は挨拶だけなのだから、別に学校が終わろうが終わるまいが、関係はないのだが。

まあ、転校前に学年もわからない生徒に会うのも気まずいので、授業時間に行った方が良いか。


心音(しおん)は目をキラキラさせながら、階段を下りていく。

楽しみなのはわかる。わかるが。

身長差を考えてはいただけないだろうか、心音(しおん)くん。

背の高い方が低い方に手を引かれながら階段を下りるのは、相当怖いのだよ。


新しい家は階段を下りてすぐが玄関になっている。

階段を下りた途端、心音(しおん)の手が離れたかと思えば、急いで靴を履きだした。

そんなに焦らなくても靴も学校も逃げないというのに。


私も隣でローファーに足を入れる。

一応挨拶とはいえ、ちゃんとした格好で行った方が印象は良い。

ただ、新しい制服は挨拶の日にもらえるため、いつも、前の学校の制服での挨拶となる。


神音(かのん)、帰りに駅前のスーパーで人参買ってきてくれない?」

家を出ようとドアノブに手をかけたとき、母の声がかかった。


「わかったー!」

私の代わりに何故か心音(しおん)が返事をして、先に家を飛び出していく。

まったくもって、何がそんなに楽しみなんだか。


私も心音(しおん)の後をついて家を後にした。




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