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膝枕はどちらかと言えばもも枕だと思う件

 ああ、一緒に帰ってきている時もめっちゃ距離あった。

 半分は自業自得なんだけどね。

 まさかあの会話を聞かれるとは。


 なんとも言えない空気の中、自宅へ着く。

 親はまだ仕事。

 鍵を開けて家に入る。


 玄関の鍵を閉めたところで玲衣(れい)がもじもじして顔を真っ赤にしながら耳元で囁いてきた。


「………にい、…膝枕、する?」


「えっ?いや、別に」


 突然の提案に頭がショートして中途半端な返事になる。


「私の膝枕嫌なの?」


 うるうるとした上目遣いで逃げ道を狭められる。


 これはどっちに転んでもあかん奴だ。「私、太ったよね?」と一緒だ。多分。「全然太ってないよ」と言っても「本当の事言って」、素直に言ったら怒られる。そんなパターン。こういう時の最善策は・・・


「玲衣の気持ちだけ貰っておくよ」


 気持ちを尊重しつつやんわり否定する!

 これはいったか!?


「こんなに可愛い妹の膝枕、この機会を逃したら無いよ」


 ぐっ。お主、中々にやりおる!

 こう言われると強く否定しなくてはならない。


 思考をフル回転させているとイタズラっぽい笑みを浮かべながら追い討ちをかけてきた。


「それに太ももに埋まりたいんでしょ?」


 グハッ!ここに来て切り札!「切り札とは勝利を確信した時にダメ押しで使うべき」って玲衣と一緒に観たなんかのアニメで言ってた。


「にいに彼女が出来た時の練習にもなるし。・・・無駄だと思うけど」


 おいそこ、ちゃんと聞いてたぞ。今膝枕の話なのに俺の心を直接攻撃してきたよな。

 義母(かあ)さんと父さんには「言葉は傷つける道具では無い」って教えられてたよな。俺と一緒に。

 しかし、顔を真っ赤にしながらここまで後押ししてくれた玲衣の気持ちを無碍にしていいのか?義兄(あに)の勝手な気持ちで義妹(いもうと)の頑張りを無駄にして良いのか?否、良いはずがない。

 うん、ここは義兄(あに)として義妹(いもうと)を立てよう。決して欲望は無い。義兄(あに)として。


「玲衣がそこまで言うなら」






―――――――――――――――――――――






 ジャンパーを脱ぐ。

 玲衣はタイツも脱いだ上で丁寧にスカートを捲り、太ももを見せてソファに座った。

 初めて見る位の真っ赤な顔で玲衣に誘われる。


「良いよ」


 ゆっくりと太ももに玲衣と同じ向きで頭を下ろす。


 直前まで外にいた為、少々ひんやりとした感触。

 女の子の香りが鼻腔をくすぐる。

 適度に沈みつつも備わっている筋肉の土台で沈みきらない。まるで顔に吸い付くような感覚。

 視界の一部ながら見えているもの全てを支配する太もも。

 片耳が塞がっているからか自分の鼓動が頭の中を響き渡る。


「どお?」


 玲衣の震える声。見えないがさっきよりも更に赤くなっている事は想像に容易い。

 ここで、どう答えれば良いか問題が発生した。

 めちゃくちゃ困る。今何も考えられない。

 使えない頭をなんとか絞るも思考の99%以上を太ももに支配されて「良い」しか出ない。


 考えに考えていると左の頬にくすぐったく、温かい感触を得る。


 細く綺麗でスベスベの手。

 多少の冷たさを吹き飛ばすような温もり。

 段々と瞼が重くなる。


 心臓の音もいつの間にか聞こえなくなる。

 瞼が閉じる事に抗えない。

 やがて完全に太もものなかに沈んだ。

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