ブラコンの義妹が告白してきた件
「良義兄、好き」
「俺も好きだよ玲衣」
「そうじゃなくて異性として好き」
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「ううっ、さむっ!」
渋々とベッドの布団から出て、階段を降りる。
俺は雪蔵良泰、一部を除いてごく普通の高校1年生。
「義兄、遅いよ!早く準備して」
唯一の普通じゃないことは義妹がいること。
肩に着くまで伸ばした手入れされた黒い髪。
贔屓目抜きに見ても整っている容姿。
彼女の名は雪蔵玲衣。義妹と言っても2ヶ月だけ俺の方が早く生まれた同学年。
5歳の頃、父の再婚相手の連れ子で今は義妹である。
そしてめちゃくちゃブラコンである。
今も準備を急かしてくるクセにまとわりついている。
正直鬱陶しい時も無くはないが今は特に急いでないので頭を撫でると顔が緩む。
世間から見れば俺も十分シスコンだろう。
しかし、断言しよう。玲衣のブラコン度は俺のシスコン度よりもずば抜けている。
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「寒いね、義兄。手袋忘れちゃった」
玲衣が手袋をした俺に羨望の眼差しで話しかけてくる。
ポケットを漁って目的のものを出す。
「はい、義母さんに感謝するんだな」
朝の準備を終えた俺達は以前から約束していた遊びに出た。
目的地まで徒歩45分。幸いな事に天気は良いが、新潟の12月は寒いし風が超冷たい。しかも此処は海が近い為、風の冷たさは跳ね上がる。
玲衣は手袋を受け取ったもののムスッて感じで思っていたのと違う。
「にいの馬鹿」
俺なんかしちゃった?玲衣も年頃なのかな?
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やって来たは『ラウンズ・ツー』。
ボウリングやスポーツが色々できる施設。
「にい、今日勝負しよう」
1時間弱前の不機嫌はどこへ行ったのか、闘志が交じった満面の笑みで勝負を仕掛けられる。
因みにこういう施設で勝負するのはいつもの事だ。
玲衣は結構負けず嫌いである。
「負けた時の言い訳を準備しておいた方が良いよ」
俺はそこまで負けず嫌いでは無いが、勝負事には本気で勝ちに行く。更に玲衣に釣られて闘志が激しく燃え上がる。
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「いや〜、ボウリングは私の圧勝だね。流石『新潟の散弾銃』『腰撃ち狙撃手』と言われるだけあるねw」
※腰撃ちはFPS等のゲームで銃を構えず(?)に撃つこと。18mの距離でもスナイパーが当たれば奇跡。
玲衣が揶揄ってくる。玲衣のお陰で悔しさが何倍にも膨れ上がる。
まず初めのボウリングは56VS138でボロ負けした。
最後にストライクを取れば特殊勝利の情けまでかけられたが、結果はガーター。悔しさで居ても立っても居られない。
それから色々な種目をした。
サッカー版的当て 経験者の実力を見せつけて勝利。
アーチェリー 遠くの的に当たるはずもなく敗北。
卓球 激戦の末敗北。
ダーツ 距離が3m弱の為散弾銃全て命中で勝利。
ゴーカート ギリギリ逃げ切り勝利。
バスケ1on1 『新潟の散弾銃』を見せるも身体能力の差でギリギリ勝利。
ストラックアウト 結果は言うまでも無い。というか言わせるな!敗北。
「にい、期間限定150kmだって!やろうやろう!」
目に星が見えるくらい玲衣の目がキラキラしている。
俺達はバッティングゾーンに来ていた。
「20球中何本強い当たりが出たかで勝負しよう。ホームランは10点で」
「後攻の方が若干有利だよね」
150kmの球を見れる。何より目標ができることが大きい。
「同じ本数だったら私の勝ちで良いね」
「なんで?」
「レディファースト!」
同じ本数ならば先攻の勝ちというのは同意できる。
しかし、しかしなぁ
「レディ?誰が?」
「フルスイング当てるよ」
「ごめんなさい」
目がマジだった。怖い。
玲衣の結果は8点。
玲衣めちゃくちゃやばくね?
「ふふーん、どうよ」
ドヤ顔をしてくる玲衣。
対抗心が燃えるも同時に可愛さも感じる。
「俺が勝つけどね」
と言ったもののどうしようか。
幸いな事に後ろに誰も待っていない為、入念にイメトレと素振りをする。
「よし」
意を決してまずはコンタクト重視の左打席に立つ。
腰と膝を少しだけ曲げてグリップは左耳の上。バットを地面と平行に近い角度で揺らしてタイミングを取る。
映像と共に球が発射された。
肘を胸の前まで下ろして身を少し屈める。足は完全には上げず、踵を浮かす程度。
そして球に合わせて体全体で………無理無理無理無理。振り始めの時点で球が体の前通ったぞ!
えっ…玲衣どうやってヒット性の打球打ったの?(ドン引き)
あっという間に10球が終わった。
バットに当てても力の無い打球。
残り10球で9本のヒット性は現実的では無い。
そこでホームラン狙いのパワーがある右打席に立つ。
久しぶりの集中。
しかし、簡単にホームランが出るはずも無い。
残り3球。更に集中力を高める。
球の発射に合わせて体全体で振る。
完璧な感触。気持ち良いフォロースルー。
打つ際に浮いた右足が着地する。
打球はホームランの的に一直線に突き刺さる。
『ホームラン!!!!』
アナウンスが鳴り響き、周りの視線が集まる。
『勝った』
達成感と安堵の声を心の中で溢す。
何故か分からないがバットフリップが自然と出る。(*絶対に辞めましょう)
そして思わず2歩歩く。
ベース上で敗北が確定した玲衣の顔をドヤ顔で見た。
どんな顔しているか。
悔しそう。勝って良かった。
「ゔっ」
勝利の愉悦に浸りながら義妹の顔を見ていたら、腰のあたりに凄まじい痛みが走った。
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「にい馬鹿だね。バッティングセンターで確信歩きして怪我するなんて」
「うるせぇ」
俺達はあの後、ラウンズ・ツーの下にある遊んだら割引されるラーメン屋に来ている。
因みにあの後、係員に呆れつつ笑いを堪えた声で注意された。恥ずかしい。
少し小突くと嬉しそうに笑っている。
先程の負けの悔しさは消えたようで何より。
玲衣は暫く引き摺るタイプだから。
「お待たせしました。コッテリチャーシュー麺大盛りとコッテリメンマ麺大盛りネギ抜きです」
義兄妹のじゃれあいをしていると注文が届いた。
「にい、メンマ半分頂戴」
「なんでだよ。俺、メンマ好きなのに」
「義兄は義妹の機嫌を取るべき」
前言撤回。めちゃくちゃ引き摺ってた。
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ラーメンを食べ、家の近くまで戻って来た。
2人で手を繋いで歩いていると玲衣が立ち止まる。
それに気が付いた俺も少し戻って玲衣の横で止まる。
「良義兄、好き」
いつも「好き好き」言ってるけどこういう風に畏って言われると照れるな。
「俺も好きだよ玲衣」
俺も義妹は好きだ。そこは天地がひっくり返っても変わらない。
「そうじゃなくて異性として好き」
………えっ?
ここまでお読み下さり有難うございます。
これから隔日投稿していく予定です。
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