フレンドリーファイヤー
若い夫婦の愛情の物語です。
本作は「#一言で表せない感動」に投稿した作品です。
彼女の昇進に合わせて結婚した僕たち夫婦は、新居を構えるにあたり、妻の公務員という立場で入れる昭和中期に建てられた古い官舎に入居した。
その日、僕が新居に帰宅すると、玄関の上がり端の板間に大量の雑誌が積み上げられていた。
廃品回収にでも出すのかな?と思ったが、その雑誌は紐でくくられておらず、大きさもバラバラで、その1番下の雑誌のさらに下には、大きなダクトテープの輪っかが置いてあった。
妻に見送られて家を出たときには、こんなものはなかったので、不思議に思い妻を探したが、出かけているのか、部屋には誰もいなかった。
紐に括らずに廃品回収に出すわけにはいかないため、僕は1冊ずつ大きさごとに雑誌を揃え始め、最後の1冊を取ったとき、ダクトテープの輪の中から、かなり大きな黒光したGが走り出てきた。
虫が大の苦手な僕は、あまりの衝撃に思わず声をあげ、玄関の外に出た。
そこに大きな買い物袋を抱えた妻が帰宅してきたので、僕が事情を話したところ、妻は目を見開き
「封印解いちゃったの!?」
と驚きの声をあげた。
妻によると、家で1人でいる時に大きなGが出て、僕以上に気絶するほどGが苦手な妻は、必死に頑張って、倒せないまでも封印に成功し、その間に殺虫剤を買いに走っていたとのことだった。
何か事情が書いてないと分からないよ、と抗議する僕に、妻は袋から買ってきたものを手渡して言った。
「責任論は事態収拾後に話し合いましょう。殺虫剤ほか対策用具を配ります。室内での近接戦になりますが、台所は極めて狭いため、ゴキジェットプロ使用時のフレンドリーファイヤーに気をつけてください。」
「なんでそんなに固い喋り方するの?それにフレンドリーファイヤーって何?」
「話し方が固いのは必死だから。フレンドリーファイヤーは友軍誤射のことです。」
「お互いにゴキジェットプロをかけないようにってこと?」
「そうです。ポイントマンは私、あなたはバックアップをお願いします。」
「度々申し訳ないけど、ポイントマンって何?」
「ツーマンセルでの突入の際の先行者を指します。責任論は後で、と言いましたが、確かに私が何か付記しておけば、この事態は避けられました。そのため先行は私が務めます。」
よほど怖いのだろう、ドアにかけた二等陸尉の妻の手は、目に見えて震えていた。
僕は、困難な状況下、自身の失態も加味し、公平に物事を判断して立ち向かう妻に頼もしさと強い愛情を感じた。
その後、妻にゴキジェットプロをかけられるまでは。