第9話:王の感謝と新たな旅路
迷宮から戻ったリディアとヴァルグは、城塞都市グラディアの王城へと招かれた。
〈太陽〉のカードを手に入れ、地下に巣食っていた魔物を討伐した功績は、街全体に知れ渡っていた。
玉座の間は静かだった。
石造りの壁に囲まれた空間に、重厚な空気が漂う。
「契約者リディア・ヴェルシュタイン。魔獣ヴァルグ。よくぞ街を救ってくれた」
王は威厳ある声で語りかける。
「我らはただ、カードを追っているだけだ。だが、汝らの民が危機にあるならば、見過ごすことはできぬ」
ヴァルグが一歩前に出て、低く答える。
「カード……それが、魔物の異変の原因なのか?」
王の問いに、リディアは頷いた。
「はい。タロットカードには魔力が宿っていて、封印が解けると周囲に影響を及ぼします。〈太陽〉のカードは、生命と覚醒の力を持っていました」
王はしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「ならば、君たちの旅はこの世界に必要なものだ。王都では“危険な契約者”とされているようだが、我はそうは思わぬ」
リディアは驚いた。
王都で婚約破棄され、追放された自分が、ここでは“必要とされる者”として扱われている。
「……ありがとうございます。私、少しだけ救われた気がします」
王は微笑み、地図を差し出した。
「次なるカード〈星〉は、北方の高地にある神殿に伝承が残っている。旅の安全を祈ろう」
謁見を終えたあと、リディアは城の庭でひとり空を見上げていた。
ヴァルグが静かに隣に立つ。
「汝の名は、少しずつ世界に広がっている。だが、それは同時に“狙われる者”になることを意味する」
「……わかってる。でも、逃げるだけの旅はもう終わった。私は、カードを集めて、この世界の真実を知りたい」
「ならば、我は汝の盾となろう。最後まで」
その夜、ふたりはグラディアを後にした。
城門を抜け、馬車に乗り込もうとしたその瞬間――
「待ってくれ〜!僕も連れてってくれ〜!」
リュカが荷物を抱えて走ってきた。眼鏡がずれ、巻物がばらばらと落ちていく。
「……来ると思ってたわ」
リディアは苦笑しながら手を差し伸べる。
「記録者として、君たちの旅を見届けたいんだ。それに、僕の知識もきっと役に立つはず!」
ヴァルグは無言で頷き、馬車の扉を開ける。
こうして、令嬢と魔獣、そして記録者の三人は再び旅立った。
目的地は、星の神殿――空と運命を司る〈星〉のカードが眠る場所。
空には星が瞬き、風は新たな旅の始まりを告げていた。