第8話:地下迷宮と太陽の試練
城塞都市グラディアの地下迷宮――
それは、かつて魔物の侵入を防ぐために築かれた防衛施設だった。
今では封鎖され、誰も近づかない場所となっていた。
「気配が濃い。魔力が渦を巻いている。これは……カードの影響だ」
ヴァルグが迷宮の入口で立ち止まり、低く唸る。
「〈太陽〉のカードね。生命と覚醒の力……」
リディアは胸元の〈月〉のカードを握りしめる。
ふたりは石造りの階段を降りていく。
空気は冷たく、重く、まるで過去の記憶が沈殿しているかのようだった。
迷宮の奥へ進むと、壁に爪痕、焼け焦げた床、そして――人間の残した痕跡。
「……誰かがここで戦った。でも、勝てなかった」
リディアは足元の剣を拾い上げる。
そのとき、暗闇の奥から唸り声が響いた。
群れを成した魔物たちが、異様な気配を放ちながら現れる。
「我が炎で道を切り開く。汝は後方から支援せよ」
ヴァルグが前に出る。
「《焔牙・カルドレア》!」
炎が迷宮を照らし、魔物たちを焼き払う。
だが、次々と現れる魔物は、まるで意思を持っているかのように連携して襲いかかってくる。
「これは……ただの魔物じゃない。〈太陽〉の力に引き寄せられてる!」
リディアは魔法陣を展開する。
「《封魔結界・アスティレア》!」
光の結界が広がり、魔物の動きを封じる。
ヴァルグが跳躍し、群れの中心へと突撃する。
「《黒爪裂破・ヴァルグロア》!」
爪が闇の刃となり、魔物を切り裂く。
だが、最奥から現れたのは、異形の魔物――
巨大な獣の姿に、太陽の紋章が刻まれていた。
「……あれが、〈太陽〉の力を宿した魔物」
リディアは息を呑む。
「我が力だけでは足りぬ。汝の魔法を解放せよ」
ヴァルグが言う。
リディアは〈月〉〈節制〉のカードを手に取り、詠唱を始める。
「我が契約に応じよ、古の力よ――《封印術式・ルミナ・グラヴィス》!」
光の鎖が魔物を縛り、ヴァルグが最後の一撃を放つ。
「《終焉牙・ノクティス》!」
激しい戦いの末、魔物は崩れ落ちた。
その体から、黄金のカードがゆっくりと浮かび上がる。
――〈太陽〉。希望と覚醒を象徴する一枚。
リディアは震える手でカードを受け取る。
指先が触れた瞬間、体の奥に温かな魔力が流れ込む。
「これが……〈太陽〉の力。すべてを照らす、真実の光」
「汝は今、生命と浄化の魔法を得た。だが、光は影を生む。使い方を誤れば、焼かれるぞ」
ヴァルグの声は、静かに警告を含んでいた。
リディアはカードを胸元に収め、深く息を吐いた。
「私は、負けない。この力も、私の旅の一部だから」
迷宮の出口へ向かうふたり。
その背に、静かに光る〈太陽〉のカードが、新たな運命を告げていた。