第3話:辺境の村と魔獣狩り
辺境の村エルダンは、霧と沈黙に包まれていた。
リディアとヴァルグが村に足を踏み入れると、空気が張り詰める。
「魔獣だ!」「呪われた令嬢が来たぞ!」
村人たちは槍を構え、ふたりを囲んだ。
「待ってください!私たちは敵ではありません!」
リディアは叫ぶが、誰も耳を貸さない。
村の長老が現れ、事情を語る。
最近、森から現れる魔物が村を襲い、家畜が消え、子供が行方不明になったという。
「我の仕業ではない。だが、気配は感じる。古い魔力だ」
ヴァルグは森の奥を見つめていた。
リディアは決意する。
「私たちが調査します。もし本当に魔獣が原因なら、止めてみせます」
夜、ふたりは霧深い森へと向かった。
空気は重く、異様な気配が漂っている。
突如、木々が軋み、地面が震えた。
現れたのは、樹木のような体躯を持つ異形の魔獣――木型の魔獣だった。
「……あれが魔獣? まるで森そのものが動いてるみたい」
リディアが息を呑む。
ヴァルグは前に出て、鼻を鳴らした。
「下等種だ。我にまかせろ」
彼の瞳が赤く光り、口元に炎が灯る。
「《焔牙・カルドレア》」
咆哮とともに炎が渦を巻き、魔獣を包み込む。
木の体が燃え上がり、苦悶の声が森に響く。
その瞬間、空中に一枚のカードが浮かび上がった。
焦げた空気の中、淡い緑と赤の光を放つ――タロットカード〈節制〉。
「それを取れ、リディア」
ヴァルグが低く命じる。
リディアは震える手でカードに触れた。
指先が触れた瞬間、体の奥に何かが流れ込む。
「これは……魔力?」
「そうだ。カードには魔力がある。〈節制〉は調和と循環。お前はその力を使えるようになる」
リディアは目を閉じ、カードの力に意識を集中させた。
そして、詠唱が自然と口からこぼれる。
「――《循環の光・エラステア》!」
彼女の周囲に光の輪が広がり、炎と風が融合する。
燃え残っていた木型の魔獣が、光に包まれ、静かに崩れ落ちた。
完全なる浄化。
森は再び静けさを取り戻す。
リディアはカードを胸元に収め、ヴァルグを見上げた。
「……私、本当に魔法が使えたのね」
ヴァルグは頷く。
「これが最初の一枚だ。まだ先は長い。だが、お前ならやれる」
翌朝、村人たちはふたりに感謝を告げる。
「……疑ってすまなかった。あんたたちは、英雄だ」
リディアは微笑む。
「私は英雄なんかじゃない。ただ、旅の途中で少し手を貸しただけです」
ヴァルグは静かに言う。
「だが、お前は確かに“変わり始めている”」
ふたりは再び歩き出す。
次なる目的地は、カード〈月〉が眠るという伝承が残る遺跡――〈アステリオの石碑〉。
そして、令嬢と魔獣の旅は、さらに深く運命へと踏み込んでいく。