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第47話 【王の魚鱗、祭り囃子に揺らぐ】

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 王都を出立する朝、、。

 大地を揺らす角笛と太鼓の音が、まだ眠りから醒めきらぬ町並みに轟いた。


 門を押し開き、ずらりと並ぶは数千の兵。鉄の甲冑は朝日に煌き、旗指物は風を裂くように翻る。その先頭にあって白馬を駆る男こそ、ラインハルト国王であった。


「お前たちっ!!聞けぇぇぇ!! 我こそはラインハルト国の王なり! 湯ノ花なる小村一つを叩き潰すなど、我が覇の前では取るに足らぬ!」


 その声に兵たちが「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」と鬨の声を上げる。鼓動のように軍太鼓がドドン、ドドンと鳴り響き、街道を埋め尽くす黒き波が進みだした。


 大地が鳴動する。砂煙が空へと昇り、村々の農民たちは畑から逃げ出し、牛や鶏までもが驚いて鳴いた。


「湯ノ花など一日で陥落よ!簡単な仕事だ」

「まさか城まで築いたと聞くが、寄せ集めの連中が守れるものか」

「所詮小さな村。兵糧も尽きれば鼠のごとく這い出すだろう」


 兵士たちは口々に嘲笑い、列の中で肩を揺らす。だがその背には、荷馬車を並べた補給隊、木材を担ぐ工兵の姿もあった。相手の籠城を見越した持久戦、、。国王がただの猪武者ではないことを示していた。


 やがて、山を越え谷を渡り、遠くに石壁を巡らせた湯ノ花の影が見えはじめる。


 国王は馬上からそれを見下ろし、口端を吊り上げた。

「ほぉ?本当に城を建ててるでは無いか…!この俺に許可も得ずにか……!!馬鹿にしおって! 面白い。では、あの薄壁の前に魚鱗を敷くぞ!!」


 手を挙げる。瞬間、号令が響いた。


 兵たちは流れるように動き、三角を描くように前後左右に展開してゆく。隊列は幾重にも重なり、まるで巨大な槍先が地を割って進むかのごとし。


 角笛が長く鳴り、軍太鼓が大地を叩く。

 魚鱗の陣、、。その完成は、湯ノ花の城壁にいる者たちにとって、地平が巨大な怪物の鱗で埋まったかのような圧迫感を与えるものだった。


 国王は馬上で胸を張り、黒々とした陣を眺める。

「ぐっはははっ!!見よ! この陣形を崩せる者など、どこにもおらぬ!」


 兵士たちは槍を掲げ、甲冑を鳴らし、勝利の雄叫びをあげる。


 だが、その魚鱗の陣の中で、兵たちは息を呑んで立ち尽くしていた。槍の列は壮観だが、並ぶだけでも骨が折れる。暑さと緊張で額に汗を浮かべる兵士に、王の怒声が飛ぶ。


「おいっ!!そこの貴様ッ!槍が揃っておらんではないか! その歪み一つが陣を崩すのだぞ!崩されたら貴様のせいだからなぁぁっ!!」

 近習が慌てて並び直させるが、今度は別の列に目をつける。

「おいそこの痩せたガリガリ兵! 顔が青いぞ! 倒れる暇があれば死ぬまで槍を突け! 戦場には病で休んでる暇など無いわ!」


 兵たちは震え上がり、声を殺して必死に槍を構え直した。だが王の怒りは止まらない。

「聞け、愚物ども! 湯ノ花の里など、我が眼前にあれば塵芥に等しい! もしお前らが小娘の築いた石の小山一つに怯えてみろ、俺が首を刎ねてやる!恥を知れ! この陣こそ我が威光、魚鱗の如き鉄壁の矛だ! 我に従えば勝利し、背けば処刑あるのみ!」


 その言葉に兵士たちは思わず背筋を伸ばす。恐怖と屈辱で表情は固まっていたが、王は満足げに鼻を鳴らした。


 、、その様子を、さらに高台から見下ろす二つの影があった。


 岩陰に腰を下ろしたリュウコクは、風に髪を揺らしながら微笑む。

「ははは、相変わらず兵に厳しいな、、だが……見事なものだな。古典をなぞるだけの凡庸と思いきや、威を示すには十分だ」


 隣のカリオスは顎で軍勢を指す。

「へっ! 俺が組む魚鱗に比べれば所詮酒場の酔っ払いピラミッド芸と変わらねぇな。誰か一人、目が回って崩れりゃ全部ガラガラドーンだ!」


 リュウコクは喉の奥で笑い、片眉を上げる。

「くっくっく!しかし侮るな。あの魚鱗は正面突破にはめっぽう強い。三角の尖りが矛先となり、突き崩せば後続が雪崩れ込む。……真正面からはまず打ち破れまい」


 カリオスは肩を竦め、歯を見せるように笑った。

「なら横から茶化すか? あるいは笑わせて崩すかだな。俺なら兵の腰元に酒瓶でも放り込んでやるぜ」


 「ふふ……。だが、湯ノ花の連中なら、本当に笑わせて崩すかもしれんな」

 リュウコクの声は愉快そうでありながら、どこか真剣でもあった。


 二人の視線の先で、国王が高笑いする。

「はーはっはっ!!この陣を破れる者などいない!湯ノ花の反逆者共!!さっさと降伏しろっ!!」


 その言葉をかき消すように、風が逆巻き、、

 遠く湯ノ花の城壁から、ミサトとリリィの会話とにぎやかな太鼓と笑い声が響いてきた。


 城壁の上から魚鱗の陣を見下ろし、ミサトは思わず口を開いた。

「うわぁ……リリィ?なんか、めっちゃ強そう…。魚のウロコみたいに綺麗に並んでるよぉ…」

『はい。ミサト。正しくは“魚鱗の陣”です。突撃力に特化した編制で、正面衝突すれば突破は困難です』

「ヤバっ……!ちょっとカッコよすぎじゃない? ……でもあれ、もし焼き魚だったら美味しそうだよね〜☆」

『はい。ミサト。発想が平和的すぎます』


 そんな緊張感ゼロの会話の中、心地よい太鼓のドンドコという音に合わせ、村人たちが掛け声を上げて踊り回る。酒樽が開かれ、子どもたちは紙飾りを振り回して走り回り、屋台では焼いた温泉饅頭の香ばしい匂いが漂ってくる。

「さぁさぁ、今日は“籠城祭り”だよっ!」誰かが声を張り上げると、歓声が広場を包む。

 城壁に控える兵がわざと笑い声を張り上げるたび、外に陣を敷く国王軍の兵たちは顔を見合わせた。「……な、なんで国に攻められ、籠城中なのに祭りなんだ??気でも狂ったのか……??」

 そのざわめきが、魚鱗の陣に小さな波紋を走らせていた。


 どんちゃん騒ぎの音は、まるで祭り囃子。

 魚鱗の鱗を鳴らす槍の音と、奇妙に競い合うかのように響いていた、、、。



            続

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