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第43話 【嵐の足音】

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 朝霧が晴れ、湯ノ花の里の空に陽光が差し込む。

 湯ノ花の里の広場には、すでに人だかりができていた。


「おい、こっちに温泉まんじゅう二つと卵くれ!」「こっちは串焼き追加だ!」「私は蜂蜜パンちょうだいっ!」「俺は病気が治るって噂の温泉だっ!!」

 威勢のいい声が飛び交い、香ばしい匂いが漂う。

 旅人も商人も観光客も入り混じり、朝からお祭り騒ぎのようだった。


「……いやぁ、すごいね〜。これってさぁ、日本で言うところの“戦国城下町”そのまんまじゃないの?見た事無いけど…!」

 人の波を見渡しながら、ミサトは腕を組んでぼやいた。


『はい、ミサト。歴史的にも城下町は経済活動の中心となります。ですが、やがて戦の要因になります』

「……ちょ、いきなりブラックな解説来たね?せっかくほっこりしてたのに…戦とか言うな!」

『はい。ミサト。事実です。これを“経済が戦を呼ぶ前触れ”と言います』

「うわぁぁ……また嫌なフラグ立てられたぁ!」


 彼女がわめく横で、ゴブ太郎とゴブ次郎が屋台の列を仕切っている。

「おらおら並べ!押すんじゃねぇ!」

「姫の印まんじゅうは一人六個までだ!転売禁止だぞ!」

 観光客は爆笑しながら列を整え、村の子どもたちはそれを真似して遊んでいる。


◇◇◇


 そんな喧騒をよそに、広場の隅でカイルが険しい顔をしていた。

 彼の前に、旅装の男が駆け寄る。

「カイル殿!知らせです……王都で徴兵が始まりました!」

「なにっ……?まぁ、、薄々そうなる事は勘付いてはいたが…早すぎるな…」

 カイルは思わず眉をひそめる。


 さらに別の商人も加わった。

「布告も出たそうですよ。【湯ノ花の里、国に弓引く反逆の拠点】……と」

 その言葉に、周囲の村人たちがざわめいた。


「な、なんだって!?」「反逆だと!?」「俺たちはただ畑を耕して、風呂に入ってただけじゃねぇか!」

 恐怖と怒りが入り混じった声があがる。


 ミサトは思わず顔をしかめた。

「う〜ん、やっぱ脱走しちゃったのがまずかったのかなぁ……戦う気なんてないのに。こっちには温泉とまんじゅうしか武器がないよ……」

『はい、ミサト。過去の偉人、孫子はこう言いました。“戦は始まる前に決して勝敗が決まる”。ですから相手が動く前に布石を打つことが肝要です』

「うぅ……。孫子〜。蘇って助けてくんないかなぁ??リリィ、もっと私の心を軽くするアドバイスはないの?」

『はい。ミサト“逃げるは恥だが役に立つ”という日本の名言があります』

「そっちぃぃ!? いや、ドラマ面白かったけど!確かに名言だけどぉぉぉ!いやっ!ここで逃げたらダメじゃん!!」


 やりとりを聞いていたゴブ太郎が、大声を張り上げた。

「ミサトぉぉ!オレたちに任せろ!国だろうがなんだろうが、全部ぶっ潰してやらぁ!」

 その横でゴブ次郎も拳を握る。

「そうだ!ボス。オレたち石垣も積んだ!天守も完成した!もういつ戦が来ても負けやしねぇ!」

「はい、は〜い。暴力はんた〜い。特にゴブちゃんたちは最後まで手だしちゃダメよ!また討伐対象になっちゃうから…温泉まんじゅう食べれなくなっちゃうよ〜」

 ミサトの言葉にゴブリンたちは悲鳴をあげ頭を抱えた。


 だが周囲の村人たちは意外なほど前向きだった。

「そうだ! 里もゴブリンも守るのは俺たちだ!」

「兵糧も蓄えがあるし、まんじゅうの粉も備蓄済みだ!」

「ミサトを守るぞぉぉ!」

 湯ノ花の空気は一気に熱を帯びる。


「ふぁっ??ちょ、ちょっと待ってみんな!? 私、まだ国と全面戦争するなんて一言も言ってないから!ねぇ、リリィからも止めてよ!」

『はい、ミサト。ですがこの勢いは“士気”と呼びます。下げると逆効果です』

「うわぁぁ!完全に軍師モード!……っていうか、この熱気どうすんの私!?」


 ゴブ太郎とゴブ次郎は腕を組み、にやりと笑った。

「ミサト、覚悟を決めろ。俺たちはもう腹を括ってる」

「そうだ。……ボス一人じゃねぇ。ここにいる全員が湯ノ花の兵だ」

 その言葉に、ミサトはぐっと息を呑んだ。


◇◇◇


 その頃、王都、、。


 玉座の間で国王は兵の動員を命じていた。

「湯ノ花を反逆の里と定める! 叛意ある民は皆殺しだ!」怒り狂う声に、臣下たちは一斉に頭を下げる。


 玉座の見える陰で、その様子を見守る二つの影。

 王子リュウコクと、牢から解き放たれた隊長カリオス。


「……予定通り、動き出したな」

 カリオスが低くつぶやく。

 リュウコクは唇の端を吊り上げた。

「あぁ。舞台は整った。ここからは僕らの番だ」


 王の怒声が石壁に反響する中、玉座の間を後にした。リュウコクとカリオスは、薄暗い回廊へ歩みを進めていた。

 松明の火が彼らの横顔を赤く染める。


「しかし……本当にいいのか? お前の親父だぞ?」

 カリオスが小声で問うと、リュウコクは肩をすくめ、楽しげに笑った。

「いいも悪いもないさ。バカ親父はもう“自分の影”すら見失ってる。怒鳴り散らし、税を搾り取り、民を敵に回す。あれは王じゃなく、ただの暴君だ」


「……ふん。暴君か。だが暴君ほど利用しやすい」

 カリオスは口の端を歪める。

「湯ノ花に戦を仕掛ければ、兵も金も削れる。勝とうが負けようが、王は自分の首を絞めることになるな」


 リュウコクは立ち止まり、カリオスを見やった。

「あははっ!だからこそ“時”なんだよ。父上に敵を与え、怒りに駆らせることで、この国の土台を揺るがせる」


「……その後は?」

「簡単さ。揺らいだところに、僕たちが新しい柱を立てればいい。湯ノ花は格好の踏み台になる」

「踏み台、、ねぇ……あの女は黙って踏まれるタマじゃなかろう」

「ふふっ!だからこそ面白い」

 リュウコクの目が怪しく光った。

「反逆者はいつだって英雄になる。なら、俺は英雄を演出してやるさ。いつだって勝者が歴史を作る!敗者はいつだって悪に成らざる負えない……。歴史の工程なんか誰も気にも止めないんだよ…。さぁ、僕が英雄になるために行こう!」


 その言葉に、カリオスは思わず吹き出した。

「ははっ!やっぱりお前、恐ろしい王子様だ。だが嫌いじゃねぇ。その絵、最後まで綺麗に描き切ってみせろよ!はははっ!」


 二人の笑い声が、石の回廊に低く響いた。


 二人の笑みが交わる。

 その裏で、嵐の足音は確かに近づいていた。



            続


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