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第41話 【天守閣お披露目と、楽市楽座大賑わい】

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 朝霧が晴れる頃、湯ノ花の里の広場には人だかりができていた。

 その中心にそびえ立つのは、一夜にして築かれた巨大な天守閣。

 白壁が陽光を浴びて輝き、松明の煤の匂いを残した石垣が重々しく積み上げられている。まるで異世界の中の異世界にポンと落ちてきたかのような威容だった。


「すっ、すごい……! 本当に城になってる!」

「あぁ、これが湯ノ花の里か! 一夜で築かれた奇跡の城だって噂は本当だったんだな!」

 見物に訪れた商人や旅人たちが、口々に感嘆の声を上げる。露店も並び、温泉まんじゅう、串焼き、酒まで揃い、朝からお祭りムード。


◇◇◇


「グハハっ!ほら見ろ! この石垣、全部オレが積んだんだぜ!」

 胸を張って叫ぶのは、ゴブ太郎。肩に大斧を担ぎながら、観光客にドヤ顔を決めている。

「兄ちゃん!嘘つけ! 天守の梁はオレが担いだんだ!」

 負けじとゴブ次郎が叫ぶ。

「へぇ〜、そうなんですか!」と旅人たちは信じて拍手。


「ちょっと! ゴブちゃんたち!石垣も梁も大工さんと村人がやったでしょ!今回ゴブちゃんたちは運んだだけでしょ!」

 エルナが腕を腰に当て、ツッコミを入れる。

 だが観光客たちは「ゴブリンも働いてるんだ!」「素晴らしい!」と逆に感心し、ますます拍手喝采。


「……いや、これ事実と違うんですけどぉ!」

 エルナが慌てふためき、ゴブ兄弟はニカッと笑ってピースサイン。


◇◇◇


「さぁさぁ、集まれ集まれぇ〜!」

 元村長が壇上に立ち、胸を張る。

「この城は我ら湯ノ花の誇り! この地を訪れし者は皆、我らの家族だ! どうか楽しんでいってくだされぇぇ!」


 しかし観客たちは誰一人聞いていない。

 全員が屋台の列に走り、温泉まんじゅうと焼き鳥と温泉卵など、湯ノ花の名産を奪い合っていた。


「ふ、ふぉっ! お、おかしいのぉ……演説より団子なのか……」

 元村長の肩がしゅんと落ちる。

 横でカイルがにやりと笑う。

「いやぁ、絶景、絶景!これは“経済”の勝利だな!ミサトの“楽市楽座”とか言う政策が早速実を結んでるなぁ〜!」


「えっ、これって私の政策の成果なの?」

 人混みの後ろからひょっこり顔を出すミサト。

『はい。ミサト。市場の自由化と通行税の撤廃により、流通が活発化。結果、観光客と商人が爆増。完全に政策効果です』

 リリィが真面目に解説する。

「へぇ〜……。いやでも、私にはただのお祭り騒ぎにしか見えないんだけど?ブラックフライデー的な…」

『はい。ミサト。経済政策とは、祭りに見せかけて財布を開かせることです。お得だと書いたくなるのは人の性と言うものですね』

「な〜んか、名言っぽいけど騙し取ってない? 大丈夫??」


 そんな掛け合いをしていると、通りすがりの子どもたちがミサトに手を振る。

「あっ!姫さまだ〜!」「違うよ!お殿様だよ〜!」

 ミサトは「あはは……姫も殿も違うよ…」と苦笑しながら手を振り返した。


「殿ぉぉぉ!殿ぉぉぉ!!」

 突如、ゴブリンたちが整列し、ドスンと膝をついた。

「えっ!? えっ!? いやいやいや! 殿って私じゃないでしょ!?」

「いや、もう殿だ! この城の主は殿以外にいねぇ!」「湯ノ花の姫様! 殿様!」「わぁぁ〜! お城のお姫様だ〜!」


 村人や観光客までもが口々に囃し立てる。

 完全に祭りの主役にされ、ミサトの顔は真っ赤になった。


 横でカイルが笑い頷く。

「あははっ!うん……。これは完全にブランド化成功したなっ!ふむふむ!殿が看板となれば、この里は揺るがぬ拠点に……」

「やめてぇぇぇぇ!カイルまで、殿とか言うなぁぁ!私そんな器じゃないからぁぁ!」


◇◇◇

 

 その日、城下の賑わいにもう一つの彩りが加わった。森からやってきたのは、長い耳を持つ一団エルフの商隊だった。


「おぉ……! 本当に人間とゴブリンが一緒に暮らしてるのか」

「ほら見ろ! リュシア姫の言う事は本当だった!」

 彼らは驚きと興味で目を輝かせ、温泉まんじゅうや焼き魚を次々と買い込む。

 子どもたちは木工細工を並べ、エルフの弓職人がそれを褒めると誇らしげに胸を張った。


「いや〜、なんか文化交流って感じでいいねぇ!」

『はい。ミサト。外交政策的には、これを“ソフトパワー”と呼びます』

「ふふっ。なんか急に国際関係論っぽいね。でも……要するにお菓子と温泉で仲良くなるって事でしょ?」

『はい。ミサト。翻訳すれば、“胃袋と風呂で世界平和”です』

「名言きたーっ!……いや、その翻訳怪しいけど☆」


◇◇◇

 

 夕暮れ時、エルフの若者たちが琴を奏で、村人とゴブリンが一緒に踊る。

 ミサトはその光景を見つめ、ふっと笑った。

「……こんな異世界なら、悪くないな〜」

『はい。ミサト。でも、すぐに国からの圧力が来ます。フラグ立て完了です』

「おいぃぃ! せっかくホッコリしたのにフラグ回収早すぎるでしょ! もうちょっと夢見させてよ〜!」

『はい。ミサト。夢と現実のギャップこそ物語です』

「うわ〜……また名言っぽく締めやがったな〜!」


 祭りの灯が揺れる中、ミサトとリリィの掛け合いは止まらない。

 賑やかな笑い声が、湯ノ花の夕日に溶けていった。


◇◇◇

 

 祭りの喧騒が静まり、松明に明かりがともる頃。


 新しい天守の広間に、ミサトはひとりポツンと座っていた。

 周囲は広すぎる板間。歩いても歩いても壁に届かないほどの空間に、彼女はため息をついた。


「……いやいや……広すぎて落ち着かねーよ……ゴリラの飼育場かよ…!」

『はい。ミサト。これは“社畜ワンルームからのインフレ環境ギャップ症候群”です。お薬出しますか??」

「そんな病気ないからっ! 薬って何よ??あるなら出しなさいよ!」

『はい。ミサト。検索します……。この病気に効く薬は……端っこで“寝る”ですかね…』

「………おいこらっ!ボケ!!薬って言うか、対処の仕方じゃろがい!しかもこの部屋の真ん中で寝れるかぁぁぁ!寂しいだろがぁぁぁ!」

 声がやけに反響して、自分に返ってくる。

 天守の広間に響くミサトのツッコミと笑い声が、湯ノ花の夜をやさしく包み込んでいった。



            続

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