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第38話 【国からの手紙、そしてお茶会の誘い】

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 湯ノ花の里は、この数週間でかつてないほどの活気に包まれていた。

 広場には露店が立ち並び、子供たちが駆け回り、ゴブリンたちの「いらっしゃいマセー!」の声が響く。

 楽市楽座の宣言から、人も物も金も一気に流れ込み、まるで小さな都市のような賑わいを見せていた。


「がっはっはっ!いや〜……すごいね!リリィ。まさかこんなに盛り上がるとは」

『はい。ミサト。笑い方が下品な社長です。もう“村長”じゃなく“社長”の器です。女帝王も見えて来ましたね』

「いやいや、女帝王って…、私は社畜から解放されたいのに!なんかずっと働いてる感じするよ…」

「はい。ミサト。そうですね…。この世界に来てからお休みは数えるほどですね。ブラック社畜の次はブラック社長です。出世は順調ですね。連続出勤日数記録出しますか?』

「はは、、いらん!あと順調の使い方おかしいよね!? っていうか、AIのリリィがブラック企業メンタル移ってどうするの!?」


 、、今日も湯ノ花の里は平和だった。

 ……はずだった。


 広場に、見慣れた顔が足早にやってくる。カイルだ。

 彼の表情は冗談一つ許さぬ硬さに満ちていた。

 手には、重々しい封蝋が押された手紙。


「ミサト……国からだぞ……」

 その言葉に、周囲の空気が一気に凍りついた。

 開封された手紙には、簡潔で冷たい文言が並んでいた。

 すぐに王都に出頭せよ。

 理由は書かれていない。ただ、それだけ。


「……無視すれば討伐、行けば罠ですよ…」

 エルナが険しい顔で呟く。

「ミサト、、これはあまりに危険すぎる!」

 元村長や村人も声を荒げる。

 ゴブリンたちも口々に「やめろ!」「危ない!」と叫んだ。


 しかし、ミサトは静かに手を上げた。

「ん〜!私、一人で行ってくるよ」


「ミサトさんっ……!」

「大丈夫☆リリィもいるし。みんなは里をもっと盛り上げておいて。お客さんを笑顔で迎えてもらった方が、きっと国への一番の牽制になるからさ☆」


 その言葉に全員が口を噤んだ。

 だが次の瞬間、二つの影が並び出る。


「……5日だ」

 真剣な声のゴブ太郎だった。その隣にゴブ次郎も立つ。

「5日経って帰ってこなかったら……オレたちは国を攻めるぞ。それが一人で行かせる条件だ!」


 その宣言に、周囲の仲間たちも真剣に頷く。

 ミサトは苦笑し、肩をすくめた。

「あははっ、暴力はんた〜い。でも……OK、5日ね☆」


◇◇◇


 出発の道中、冬の空気が頬に冷たく、馬車の車輪がガタゴトと石畳を叩く。

 不安を抱えつつも、ミサトとリリィの会話はいつも通り。


「ねぇ?リリィ、私、無事に帰ってこれると思う?」

『はい。ミサト。無事に帰ってこれない未来もありますが、希望的観測で“帰れる”とだけ言っておきましょう』

「うわ〜、、ネガティブやめてよ!今だけはAIらしくなく、占い師みたいに前向きなこと言って!」

『はい。ミサト。分かりました。えー、ゴホン。このカードが出たってことは〜、、……ミサトさん、絶対帰ってきます。だって私、まだあなたのツッコミを聞き足りませんから』

「……もう! そうやってすぐノッテくれる所とか可愛いんだから!」


 いつもの二人のやり取りで、重くなりかけた心を少しずつほぐしていく。


◇◇◇


 そんなやり取りをしながらミサトは王都に着いた。

 石畳は冷たく、冬の光は灰色の雲に覆われていた。

 通りを歩くミサトの背後には視線が突き刺さる。

 田舎者を見るような、あるいは獲物を測るような目。


 そんな中、ひとりの青年が歩み寄った。

 栗色の髪、整った顔立ち、上品な仕草。

 彼は柔らかく微笑み、恭しく頭を下げる。


「あれ〜?お久しぶりです。ミサトさん。 覚えてるかな??リュカです!……もし、お時間あればこれからお茶でもどうですか?」


 唐突な誘いにミサトは固まる。

 リリィが即座に警告を出す。

『はい。ミサト。怪しい!絶対怪しい!前回と違いなんか怪しい。 イケメンナンパ警報発令中です!』

「ちょ、ちょっとリリィ、興奮してる??声大きいって!」

『はい。ミサト。ロマンスの匂いがして来ます。しかも、でも、鎧を脱いだ顔がイケメン補正で好感度が以上に高いでしゅ』

「うわ〜、AIまでイケメンに甘い!しかも語尾がしゅで支離滅裂になるAIってっ!!」


 青年、、リュカは柔らかく笑った。

「はは、なんかビックリさせちゃったかな?? けれど、ミサトさんのような方とお茶を酌み交わす機会はそうない。安心してほしい、危害を加えるつもりはない。どうかな?時間ある??」

 その声音は、敵意を微塵も感じさせなかった。

 だからこそ、逆に怪しい。

『はい。時間あります』

「リリィ!!お前が答えるんかいっ!!」


◇◇◇


 小さな茶館。

 湯気立つカップを前に、会話が始まった。


「ミサトさんの村はどうやって人と魔物をまとめているんですか? 普通なら戦闘になって血を流して終わるだろうに…」

「えっ? え〜っと……宴会と笑顔とお菓子かな?後はホワイトな環境の提供かな〜??私にもよくわかんないなぁ…湯ノ花に居てゴブちゃんたちは喜んでんのかなぁ??」

「……ほう。それはまた……面白い答えですね…」


 リュカは口元を緩め、わざとらしく視線を絡めてくる。

「珍しいんですよ。ミサトさんのような女性が村を動かすなんて。……その笑顔があれば、兵も民も喜んで動くんでしょうね☆」


「えっ!? あ、ありがとうございます!?(え、え、なにこの台詞……褒めた??貶した??いやどっち!?なんかエロっ!)」

『はい。ミサト。ナンパ警報強化中です。撤退を推奨します!このままだとミサトの防壁が突破され恋に落ちます』

「うるさいってばリリィ!そんなすぐに恋に落ちないわよっ!」


 リュカはさらに踏み込む。

「ふふふ。“面白い機械”だね…“何でも知ってる様”だ。 もし困ったことがあれば、僕が少しでも力になれる。……ミサトさんの夢、もっと聞かせてほしいな」

 その声は甘く、しかし瞳の奥は冷静に光を宿していた。

 探っている。間違いなく。

 ミサトは背筋に薄い汗を感じながらも、笑顔を崩さず答えた。


「……夢は、ブラックに泣いてる人をホワイトにかな? ん〜、、後は“全種族で世界を一つ”に、かな?」

「ふふっ。面白い答えだね!全種族で世界を一つにか……世界統一より大きな夢だね!」


 リュカはグラスを傾け、にやりと笑った。

 その笑みが試しているのか、からかっているのか、ミサトにはまだ判別できなかった。


◇◇◇


 こうして、王都の片隅の小さな茶会が幕を開けた。

 そのテーブル越しに、策士の青年と迷い猫の社畜が向き合う。

 次なる駆け引きの火蓋は、静かに切られたのだった。



            続


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