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第35話 【世界をひとつに? 湯ノ花の日常】

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 湯けむりの立ち上る湯ノ花の里に、朝の陽光が差し込む。

 子どもたちの笑い声が、通りを駆け抜けていた。


 その笑い声の中心には、エルフのリュシアがいた。銀の髪を揺らしながら、数人の小さな子エルフを連れて湯ノ花の里に遊びに来ている。エルフの子供たちは好奇心いっぱいに石畳を駆け、村の人間の子どもたちと混ざって遊んでいた。


「わぁ……ほんとに賑やかになりましたね。まるで都のようです」

 リュシアは感嘆の息をつき、湯けむりに包まれた街並みを眺める。


「でしょ〜? 最近は観光客も増えてるしね〜。ほら、温泉とか、温泉まんじゅうのお店、朝から大繁盛だよ〜」

 ミサトが胸を張る。


 すると、広場の端で控えていたゴブ太郎が、おずおずと近づいてきた。巨躯ではあるが少し痩せた体にまだ包帯が残っているが、その姿勢はどこか誇らしげだった。


「んっ?エルフ?……あんた、オレたちを見ても驚かねぇのか?」

 ゴブ太郎はリュシアをまじまじと見た。


「えっ?驚く? なぜですか?ふふふ、あなたを見て悲鳴をあげ、泣き叫んだ方がお好みでしたか??」

 リュシアは柔らかく微笑み首を傾げた。

「あなたがいたからこそ、私たちの秘薬は意味を成したのです…。むしろ私達が役に立てた事の感謝を伝えたいのです」


 ゴブ太郎は一瞬、言葉を失った。

 やがてゆっくりと頭を垂れる。

「ふふふ!いや。そのままでいい。……おかげで腕が繋がった。命拾いした……ありがとう」


 リュシアは微笑む。

「その薬は未来を繋ぐもの。あなたが仲間と生きる未来のために役立ったのなら、それが一番です」


 彼女の声に、ゴブ太郎の喉が熱くなった。

 怪物として扱われてきた自分に、ただ「未来」と言ってくれる者がいる、、。

 その事実が胸を震わせた。


◇◇◇


 子どもたちが駆け回る中、リュシアはふと空を見上げた。

「こうして人もエルフもゴブリンも、同じ場所で笑っている……。いつか、世界全体が一つになれるといいですね」


 その言葉に、近くのゴブリンたちが声をあげて笑った。

「ぐへへっ!世界が一つに? ぐははっ! そんなの考えたこともなかったなぁ〜」

「だな! オレたちは腹いっぱい食えりゃ十分だからな〜」

 ゴブリンたちも村人も笑い、子どもたちもつられて大はしゃぎする。焚き火の跡から漂う温もりに、場は和やかな笑いに包まれた。


◇◇◇


 その輪の中で、ミサトがぽんと手を叩いた。

「あははっ!ならさ! ここにいるみんなで作っちゃえばいいんじゃない? 世界が一つになる場所!」


 一瞬で場が静まり返る。

 カイルが頭を抱え、ため息をついた。

「はぁ〜、お前なぁ……そんな簡単に言うんじゃねぇよ」

『はい。ミサト。簡単に言わないでください。世界統一を軽口で語るのは、正気の沙汰ではありませんよ。ミサトには“へそで茶を沸かす”と言う言葉を進呈します』

 リリィも冷ややかに指摘する。


「えー? でもさ、誰かが簡単に言わなきゃ何も始まらないじゃん!そうやってみんな一つになっていったんでしょ??」

 ミサトは口を尖らせてみせる。


 子どもたちがきゃっきゃと笑い、ゴブ太郎が頭をかきながら「へへ……バカみてぇだな」とつぶやく。

 だが、その声色には苛立ちではなく、不思議な温かさが混じっていた。


 リュシアはその光景を見て、そっと微笑む。

「ええ……ミサト。もしかしたら、本当にここから始まるのかもしれませんね」


◇◇◇


 夕暮れ。

 湯けむりが赤く染まる街を、村人とゴブリン、エルフの子どもたちが入り混じって歩いていた。

 異なる種族が並んで笑い合う、、

 それは小さな一歩に過ぎない。

 けれども、確かにここに【ひとつの世界】が生まれ始めていた。


◇◇◇


 夜になると、広場では自然と宴会が始まっていた。

 人間もゴブリンもエルフも、焚き火を囲んで杯を交わし、湯けむりと笑い声が空に溶けていく。


「うひゃー! また宴会やってんの!? この間もやったばっかりなのに!」

 ミサトは両手を挙げて笑った。


『はい。ミサト。この間の酒代と饅頭代を合わせると、今月の経費は赤字です。ミサトのお給料は三ヶ月無しですね』

「三ヶ月!?!?ぶぅぅぎぃぃぃ!!ちょっとぉぉ! 今それ言わないで!楽しめなくなるから!しかも今回は奢るって言ってないしぃぃぃっ!」

 ミサトがジタバタすると、子どもたちが真似をして転げ回り、場がさらに賑やかになる。


 ゴブ太郎は焼いた魚を無邪気な笑顔の子エルフに手渡しながら、ぽつりと漏らした。

「……悪くねぇな、こういうのも」

「ほんとだよね」ミサトが横に座り、杯を掲げる。

「ほら、ゴブ太郎も乾杯! 湯ノ花式ホワイトライフにようこそ!」

 ゴブ太郎は少し照れくさそうに笑い、木の杯を掲げた。


◇◇◇


 宴のあと、ミサトは湯に浸かりながら大きく息を吐いた。

「はぁぁ〜……極楽極楽。宴会のあとに温泉、これ以上の贅沢ってある?しかもほぼ毎日☆」

『はい。ミサト。強いて言うなら、宴会の前にも温泉に入れば二倍の効能があります』

「じゃあ一日二回宴会しなきゃいけないじゃん! お財布死んじゃうよ!」

『はい。ミサト。貴女のすでにお財布は瀕死です』

「ぎゃゃゃゃゃーー!!リリィ助けて」

『はい。ミサト。忘れる事です。忘れる事で救われる事実があります。記憶を消しますか??』

「こっわっ!何、記憶とか消せんの??こ〜っわっ!!」

『はい。ミサト。嘘です』

「嘘なんかいっっ!!」

 

 ミサトとリリィのやり取りに、隣の湯船でゴブリンたちがどっと笑い、子エルフがきゃっきゃと跳ねる。

 湯けむりの中、笑い声が夜空へと溶けていった。


 その温もりは、嵐の前の静けさを覆い隠すかのように、やわらかく続いていた。



            続


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