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第31話 【折れぬ巨躯、揺らぐ心】

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 戦場の中心で、鋼がぶつかり合う轟音が夜を震わせていた。

 片腕を失いながらも巨躯を揺るがせ、大斧を振るうゴブ太郎。対するは、討伐隊長、、冷徹な眼差しを光らせる歴戦の戦士。


 互いの刃が交差するたび、火花が弾け、周囲の兵も村人も思わず息を呑んだ。


「信じられん……片腕で、隊長とあそこまで……!」

「くそ、どっちが勝つんだ……」

 嘲りを浮かべていた兵士たちでさえ、その目は恐怖と敬意に揺れていた。


 ゴブ太郎の呼吸は荒く、肩口からは絶えず血が滴っていた。それでも瞳は揺らがない。

 彼の背には、弟たちの声援があった。


「兄ちゃん、負けんなァァァ!!」

「兄貴ィィィ!!!」

 必死に叫ぶゴブ次郎たちの声が、戦場を震わせる。


 隊長は歯を食いしばり、低く唸った。

「化け物風情が……粋がるなッ!」

 その一撃は、ゴブ太郎の胸板を狙い撃つような鋭さで振り下ろされる。


 ゴブ太郎は咄嗟に大斧を掲げ、火花が散った。

 衝撃で足元の土が抉れ、膝が沈み込む。それでも巨躯は折れない。


「オレは……この森の……ゴブリンの王だぁぁ!!」

 血飛沫を浴びながら、ゴブ太郎が獣のように吼えた。その声は、戦場に響き渡る咆哮となる。


 兵士たちは思わず後ずさった。

 その迫力は、もはや《怪物の咆哮》ではなかった。戦士としての魂を示す雄叫びだった。


◇◇◇


 一方、その戦いを見守る丘の上。

 ミサトは歯を食いしばり、拳を握り締めていた。

「……行かなきゃ。あのままじゃでっかいゴブリンさんが……!」


 彼女の隣で、リリィが冷静に告げる。

『はい。ミサト。いけません。この戦いは、戦士同士の誇りの決着です』

「でも!そんな事言ったって、、」

『はい。ミサト。ミサトが介入すれば、彼の覚悟を踏みにじることになる。それはゴブリン達の心を折る行為です』

 ミサトは言葉を失った。

 視線の先で、血を流しながらも斧を振るい続けるゴブ太郎。その姿を見ていると、胸の奥が熱く、痛くなる。

 カイルもまた苦々しく呟いた。

「俺だって、助けに行きてぇさ……だが、あれは俺たちの手を出す場所じゃねぇ。戦士の戦いだ」


 ミサトの目尻に涙が滲む。

 それでも彼女は、立ち尽くすしかなかった。


 刃と大斧が幾度も激しくぶつかり合い、金属の悲鳴が夜空に溶ける。

 火花の明滅に照らされる二つの影は、もはや「人間とゴブリン」ではなく、ただ一人の戦士と一人の戦士であった。


 隊長の剣筋は鋭さを失わない。だが額には汗が滲み、呼吸は荒い。片腕を失ったはずのゴブ太郎もまた、膝を折ることなく大斧を振り下ろし続けていた。

 互いの胸からは荒い息が噴き出し、戦場の喧噪が遠ざかっていくように思える。


 一撃、一撃、また一撃。

 重さの裏にあるのは、己の誇りを賭けた渾身の意志。


 隊長の心中に、戸惑いが芽生えていた。

「なぜだ?片腕を失ったゴブリンが、なぜ?ここまで立ち続ける……」

 だが、その疑問はやがて驚嘆へと変わる。

(ふふふっ!違う。これはもはや、化け物などではない。……俺と同じ、戦場を生き抜く者だ!なぁ?そうなんだろ!?)


 ゴブ太郎もまた、歯を食いしばりながら感じ取っていた。

(うるせぇぇって言ってんだろっ!てめぇはただの人間じゃねぇよ!仲間たちを守るために剣を振るってきたんだろ?なら、同じ……戦士だ)


 その思いが交錯した刹那、両者の瞳がかち合う。

 殺意の奥に、確かな敬意が宿っていた。

 一瞬、お互いの攻撃が止む、、、。


「ふっ、、化け物…傷が痛むか?」

「あっ?テメェはテメェの心配してろ!ボケ人間!」

「あははっ!言葉が上手だな!人間だったら我が部隊にスカウトする所だったよ…」

「ぶっはっはっ!お前がゴブリンだったらオレはお前の首をへし折ってたよ!!寝言はオレに殺されてから言えよ!!」


 両者再び踏み込み、武器がぶつかる。

 今度の衝撃は、ただの力比べではない。

 互いを認めたがゆえの、己を賭けた最後の攻防だった。

 砂塵が舞い上がり、戦場の喧噪が遠くへと押しやられる。誰もが声を失い、ただその衝突の行方を見守るしかなかった。

 戦場の轟音が、さらに大きくなる。

 隊長が剣を振り下ろすたびに、空気が裂ける。ゴブ太郎が大斧を振るうたびに、大地が揺れる。


 だが、、二人共限界は近かった。

 片腕を失った巨体は、徐々に軋み、膝を折りかける。口から血を吐きながらも、ゴブ太郎はなお立ち上がった。


「信じられんな……片腕を失い、なんで倒れん……!」隊長の額に、焦りの汗が浮かぶ。


「オレは……倒れねぇ……よ」

 ゴブ太郎の声は低く、だが確かな力を帯びていた。

「オレは……この森のゴブリンの王だからなっ!!オレが倒れたら、、誰がここのゴブリンを守るってんだっぁぁぁ!!」

 全身の血を振り絞り、最後の力を込めて大斧を振り下ろす。


 隊長の剣と、ゴブ太郎の斧が激突した瞬間、、

 轟音と共に、土煙が戦場を覆い尽くした。


 土煙の中、兵も村人も声を失った。

 剣戟の余韻だけが耳に残り、誰もが次の瞬間を待ちわびている。


「……兄貴……」

 ゴブ次郎の喉がかすかに震える。仲間のゴブリンたちでさえ一歩も動けず、ただ祈るように見守っていた。


 土煙の向こう、、二つの影はまだ立っている。

 呼吸は荒く聞こえ、血が滴り落ちる音がする。

 だが瞳だけは、かえって冴え渡っていた。


(ここで……終わる。どちらかが倒れるまで)

 二人の戦士は、己の命の残滓すら、全て武器に込めていた。


 誰もが息を呑む。勝敗は、まだ見えない。


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