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第29話 【夜明けの討伐戦】

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 夜明け前の森は、しんと張り詰めた冷気に包まれていた。

 だがその静けさを切り裂くように、数十本の松明の炎が揺れながら進んでくる。

 鉄の鎧を着込んだ兵士たちの列、、国から派遣された討伐隊だった。


「わわわっ、、……来たよ」

 西の丘に身を潜めながら、ミサトはごくりと唾を飲み込む。

 松明の赤い光が、黒い波のようにゴブリンの村へ近づいていくのが見える。


「ボスっ!」

 ゴブ次郎が駆け寄ってくる。肩で息をしながらも、瞳は燃えていた。

「陽動はオレたちに任せろ。オレたちが正面で暴れて、兵士の目を引きつけるから。だから……頼む」


「オッケー。その間に補給所を攻めて……帰ってもらうって事ね…任せて!」

 ミサトは頷く。

 討伐隊は数で圧倒している。正面から当たれば、村もゴブリンたちもひとたまりもない。

 だからこそ、、兵糧を断ち、大混乱を起こすしか勝機はないのだ。


『はい。ミサト。まさに戦いで兵站を狙うのは王道。帝王学で言うなら《勝利は戦場ではなく倉庫で決まる》ですね』

 耳元のリリィが、さらりと告げる。


「はは、物騒な学問だよ、ほんと……。最初考えた人は天才だね…」

 ミサトは苦笑しつつ、胸の奥を震わせる緊張を誤魔化した。


 やがて、ゴブ次郎たちが森から飛び出す。

「うっひょー!!こっちだ! 人間ども!」

「へへっ!捕まえられるなら捕まえてみろ!」

 甲高い声が夜気を裂き、兵士たちの視線が一斉にそちらへ向いた。

「出たぞ!!ゴブリンだぁぁぁぁ!!」

 松明が揺れ、金属が鳴り響く。


 その隙に、ミサト•カイル•リュカの三人は、身を屈めて補給所の丘へと走り出した、、。


◇◇◇


 三人は補給所への潜入を急いだ。

 

 丘を越えると、討伐隊の後方に小さな補給所が見えてきた。

 樽や麻袋が積み上げられ、兵士数人が見張りに立っている。火薬樽らしきものまで確認できた。


「おおぉ、、ゴブリン退治に思ったより厳重だな」

 カイルが舌打ちをする。

「これじゃ真正面から突っ込めばこっちがやられちまうぞ…」

『はい。敵もただの素人ではありません。補給線を突かれるリスクは心得ているのでしょう。それに今回の作戦はもしかしたら国の重大な作戦の可能性がありますね』

 リリィが冷静に言う。


「はは、、重大って、、意味深ね…。でも、じゃあどうやって補給所を潰すの??」

 ミサトが眉を寄せたその時、リュカが前に出る。

「……あっちに抜け道があります。昔、荷馬車を隠すために掘られた道です。討伐隊の兵は知らないはず」

 小声で告げるその表情には、迷いの影があった。


 カイルの目が鋭くなる。

「おい!てめぇが何でそんなこと知ってやがる」

「い、いや……! 任務で一度ここを通ったことがあるだけです!」

 リュカは必死に弁解する。だがその動揺に、疑いは晴れない。


 カイルが剣の柄に手を掛けかけた瞬間、、ミサトが割って入った。

「やめて! 今は仲間割れしてる場合じゃない!」

「……チッ、どうしても俺はお前が信用出来ねぇ…」

 カイルは舌打ちをして剣を下ろした。だが眼光だけは鋭いままだ。


 リュカが示した獣道をたどり、三人は補給所の裏手に回り込む。

 兵士は少なく、火薬樽の列がはっきり見える。ここを爆破できれば討伐隊は大混乱に陥るはずだ。


◇◇◇


 一方その頃、ゴブ次郎たちの奮戦は続いていた。

 村の正面ではゴブ次郎が仲間たちを率いて兵士と渡り合っていた。


「うおおおっ! こっちだ、人間ども!」

 木の棍棒を振り回し、必死に立ち回る。

 だが相手は訓練された兵士。

 盾に弾かれ、槍に押し返され、次々と仲間が倒れていく。


「おいっ!倒れた仲間は後ろに回せっ!!お前たちボスを信じるんだ! 絶対に上手くやってくれる!」

 ゴブ次郎の叫びが、闇に響いた。

 それに応じるように、村の人々も動き出す。

 松明を消し、石を投げ、物陰から兵士の足を引っ張る。

 小さな抵抗が積み重なり、何とか戦線を支えていた。

 だが数の差は埋まらない。兵士たちの槍が次第に押し寄せ、ゴブ次郎の背が土壁に追い詰められていく。


「くそっ……! ボスまだか?まだ倒れるわけにいかねぇ……!」


 その時だった。

 村の奥から、巨躯の影がゆっくりと歩み出てきた。

 緑の肌に刻まれた無数の古傷、背丈は人間の兵士を優に超える。

 手にした大斧を振るうたび、兵士がまとめて吹き飛んでいく。

「うるせぇぇぇぇぇぇ!!オレのナワバリで何騒いでやがんだぁぁぁぁ!!!」

「ゴ、ゴブ太郎兄ちゃん……!」

 ゴブ次郎が目を見開いた。

 

 ゴブ太郎はゴブ次郎たちを一瞥すると、、

「ふんっ…なんだお前らか??人間と組んでオレを殺しに来たのか??」

 ゴブリンの村を仕切る真のリーダー、ゴブ太郎。

 かつての厳しさと恐怖で弟分たちを従えた存在。

 その力は健在だった。


「くだらねぇ〜な!くだらねぇ!!…人間ごときに……オレの村は渡さんッ!」

 低く響く声に、兵士たちの足がすくむ。

 その豪腕ひと振りで、数人の兵士が血を吐いて倒れた。


 しかし、、ゴブ次郎には見えていた。

 ゴブ次郎たちを見るゴブ太郎の眼差しの奥に、わずかな迷いがあることを。

 強さと同時に、弟たちを守りたいという思いが、確かに宿っていた。


◇◇◇


 その頃、補給所ではミサト•カイル•リュカが山場を迎えていた


「よしっ!……今しかない!」

 ミサトが火打石を打ち、火種を油に投げ込む。


 瞬間、火が走り、積まれた樽に燃え移った。

 轟々と炎が立ち上がり、、、


 次の瞬間、轟音とともに大爆発が夜空を裂いた。

 地面が揺れ、炎と煙が補給所を呑み込む。


「なっ、なんだ!?」「おいっ!後方がやられたぞ!」

 討伐隊に混乱が走る。

 松明が落ち、列が乱れ、指揮が崩れる。


 その衝撃に、兵士たちの注意が一斉に逸れた。

 ゴブ次郎が叫ぶ。

「よっしゃ!ボスがやってくれた!!今だ!反撃だぁっ!」


 村人とゴブリンたちが一斉に押し返す。

 そして、その最前線には怒声を上げながら斧を振り回すゴブ太郎の姿があった。


 戦いの行方は、まだ決していない。

 だが、劣勢に追い詰められていたはずの戦場に、確かな逆転の兆しが灯っていた。



            続


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