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第27話 【裏切りの影、信じる力】

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 森の小道を、ひと筋の行列が進んでいた。

 木々の合間を抜ける風は冷たく、暑い日が続くというのに夜露の気配が漂う。

 先頭に立つのは、まだ幼さの残る兵士、、リュカ。

 その後ろにミサトとカイル、ゴブ次郎らゴブリンの仲間たち、そして村からついてきた数人の人々。

 荷車には最小限の食料と薬、そしてなぜか温泉饅頭が積まれている。


 表情は皆険しい。誰もが胸の奥に同じ不安を抱えていた。

 、、果たして、この兵士を信じていいのか。


「おいっ?リュカ、本当にこの道で大丈夫なんだろうな?」

 低く唸るようにカイルが問いかける。

 少年は肩をすくめ、必死に頷いた。

「は、はい! ここを抜ければ軍よりも早く村に辿り着けるはずです!」


 、、はず、という言葉がまたみんなの不安を増幅させた。


 歩みを進めるうち、道はどんどん荒れていく。

 岩と木の根がせり出し、荷車は何度も車輪を取られて立ち往生した。

 ミサトが後ろから押し、ゴブ次郎が力任せに引っ張ってなんとか動かす。だが、そのたびに時間が削られていった。


「おいっ?!……リュカ、これ本当に近道なのか?」

 カイルが額の汗を拭いながらぼやく。

「はい! でも、こんなに道が荒れてるとは……本当すいません!もっとちゃんと調べておけば……」

 リュカは青ざめて唇を噛んだ。


 そのとき、ミサトの耳にリリィの冷静な声が響く。

『はい。ミサト。予定より進行が遅れています。加えて軍の動きが早まった可能性があります』

「えっ? じゃあ……リュカがくれた紙の日時、信用できないってこと?」

『はい。ミサト。あくまで可能性の話です。ただし、情報は常に変化するもの。固定観念に縛られてはならないのです』

「うぅ……難しいなぁ…。やっぱりどこも厳しい世界だ……」


 ミサトの愚痴混じりの声に、リリィはさらに言葉を重ねる。

『はい。ミサト。これは“帝王学”の基本でもあります。状況は常に変わる。指導者は情報の変化を見極め、迅速に判断し続けなければならないのです』

「また帝王学かぁ……。それに指導者だなんて…私なんて、まだまだ社畜レベルだよ??」

『はい。ミサト。ですがミサトはすでに人を率いている。その自覚と責任は必要です』

 背筋をぴしっと伸ばされるようなリリィの言葉に、ミサトは思わず苦笑した。


◇◇◇


 昼過ぎ、森を進んでいると、前方から甲冑の軋む音がした。

「……誰か来るぞ?!」

 カイルがすかさず手を上げ、全員を止める。


 茂みの向こうから現れたのは、槍を携えた二人の兵士。

「あっ??なんでこんなところに人が……?」と怪訝な顔をしている。

 リュカは顔色を変え、慌てて前に飛び出した。

「お、俺です! 補給の偵察を任されたリュカです!今、物資を運ぶ所です」

 声を震わせ敬礼しながらも、なんとか同僚を装う。


 兵士たちは怪しみながらも、「んっ?そうか……気をつけろよ」とだけ告げて去っていった。


 ミサトたちは息を殺しながらやり過ごす。

 兵士たちが遠ざかると、一気に安堵の息がもれた。

「ぷふぅ〜、、…助かった……」

 村人の一人が膝をつき、汗を拭う。


 だが、カイルの視線は冷え切っていた。

「今のも……“仕込み”って線はあるよな?」

「えっ?」

「仲間に見せかけて、俺たちを安心させるための演技かもしれねぇな??」

 ゴブ次郎も眉をひそめた。

「カイル……それじゃ俺たち、こいつの罠にかかってるってことか?」

「あぁ、そう考えるのが自然だろう」


 空気が重苦しくなる。リュカは必死に手を振った。

「ち、違います! 本当に僕は、、」

「黙れ!小僧っ!!」

 カイルの怒声が森に響いた。

「小僧、お前の一言で、村人やゴブリンの命が全部吹き飛ぶんだぞ!それにこれを失敗すれば湯ノ花の里だって討伐対象だっ! もし裏切ってたら、俺は絶対にお前を許さねぇ!」


 その圧に、リュカは震えながらも必死に訴える。

「僕は……ただ、助けたいだけなんです! 罪のないゴブリンたちが殺されるの、見たくないんです!」


 その瞳は涙に揺れながらも真っ直ぐだった。


 しかし仲間たちは疑念を拭えない。誰もが一歩、二歩とリュカに詰め寄る。

 ゴブ次郎たちの手は、すでに武器に伸びていた。


「ちょ〜いちょい!ちょい待って!!」

 その間に割って入ったのはミサトだった。


「みんな、落ち着いて! リュカがいなかったら、私たちさっきの偵察兵に捕まってたよ! 罠を張るなら、わざわざこんな危険を冒してここまで道案内する必要なんてないでしょ!国の軍隊なら湯ノ花の里なんて攻めればイチコロでしょ?だから、、ちょっと落ち着いて、、みんな」


 必死の叫びに、一同の動きが止まる。

 ミサトは震えるリュカの肩をぎゅっと掴んだ。

「……私は信じるよ。もし君が裏切ったとしても、そのときは私がちゃんと責任を取るから。あなたは自分の気持ちのままに前に進んで。必ず着いて行くから☆」


 カイルが目を細める。

「ミサト、お前……」

「カイル、大丈夫。私が選んだんだから!」


 そのミサトの強さに押され、カイルは大きく舌打ちした。

「チッ……好きにしろよ。ただし、裏切ったら俺がその小僧ぶった斬る!!」

「うん、その時は私も一緒にお願いね♡」

 軽く言うミサトに、カイルは呆れたように頭を振った。


 ゴブ次郎たちも渋々武器を下ろす。


 リュカは涙をにじませながら深く頭を下げた。

「ありがとうございます……! 絶対に裏切りはありませんから!必ずゴブリンたちを助けましょう!」


◇◇◇


 その後も一行は進むが、予測していた中継地に着いたときには、すでに軍の痕跡が消えていた。

 足跡や焚き火の跡から察するに、討伐隊は予定より早く出発していたのだ。


「くそっ!行った後か?やっぱり……!」

 カイルがリュカを見て何かを言いかけ歯ぎしりする。森の向こう、闇に揺れるたいまつの列がかすかに見えた。

 すでに討伐隊はゴブリンの村へと行軍している。


 、、時間はない。


 ミサトは拳を握りしめた。

「……急がなきゃ、間に合わない!」


 その声に応じるように、仲間たちが走り出す。

 闇を裂くたいまつの光と、走る一団の足音。

 救うべき村は、すぐそこに迫っていた。



            続


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