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第26話 【街道を行く者たち】

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 朝焼けに染まる街道を、小さな一団が歩いていた。

 ミサト、カイル、ゴブ次郎と仲間のゴブリンたち、数人の村人。荷車には最低限の食料と薬、そしてなぜか温泉饅頭の箱が積まれている。


「……なぁミサト。本当に必要だったか? この饅頭」

 カイルが荷車を引きながらため息をつく。

「えっ?必要でしょ? お腹が空いて戦えなかったら困るでしょ?めっちゃ美味いし! それに……もし避難するなら、甘い物があった方が子どもたちも安心するし。最後の手段は飛び道具としてもいけるっしょ!」

「はぁ……飛び道具ねぇ?ま、いいけどな」


 ゴブ次郎が横から胸を張って言った。

「ボス!本当ありがとう。 なんかあったら俺らが守るから安心してくれ!」

「うん、ありがと。ゴブ次郎たちが一緒なら心強いよ。サクッと助けて早く帰ろ☆」

 その言葉にゴブリンたちの顔が一斉にほころんだ。


 歩みは軽い。けれど胸の奥では、重い不安が渦を巻いている。

 相手は国の兵士。数百人規模の討伐隊だ。こちらは十数人。正面から戦えば勝てるはずがない。


 歩くミサトにリリィの冷静な声が響いた。

『はい。ミサト。討伐隊の本陣にぶつかるのは愚策です。ですが彼らの動きを知っていれば、ゴブリン達を先に逃がすことは可能です』

「うん。そうなんだけど……でも、、それを“どうやって知るか”が問題なんだよね〜」

『はい。ミサト。そこで例の“紙切れ”が鍵になります』


 ミサトは懐から、その紙を取り出した。汗と土でよれよれになっている。

 日時だけ走り書きされた簡単なもの。

 あれを渡してくれた若い兵士の顔が浮かぶ。

 怯えた瞳で、それでも必死に差し出してきた兵士、、。


「なんでこれを私に渡してきたんだろうなぁ……??」

 ミサトのつぶやきは誰にも届かず、風に流された。


◇◇◇


 昼過ぎ。森を抜ける道の分かれ目に差しかかったときだった。

 荷車を止めたカイルが、眉をひそめて低く言った。

「みんな止まれ……誰かいるな?」


 道端の木陰に、一人の人影が立っていた。鎧の隙間から覗くのは、まだ幼さの残る顔。

 それは、、あの若い兵士だった。


「あっ……!」

 ミサトの胸が跳ねる。彼もこちらに気づき、おびえたように周囲を見回したあと、小走りで近づいてきた。

「あっ!?や、やっぱり来てくれたんですね……!」

 声は震えている。けれど、その瞳は確かな決意を帯びていた。


「君は……あのときの兵士だよね?」

 ミサトが確認すると、彼はこくりと頷いた。

「僕、リュカっていいます。ゴブリン討伐の計画を知って……どうしても放っておけなくて!来てくれて本当にありがとうございます」


 ゴブ次郎が一歩前に出て叫ぶ。

「あんちゃんよ!兄貴たちの村は!? 無事なのか!?」

「まだ無事です。でも、もうすぐ軍が動きます。今夜には出発して、明日の朝にはゴブリンの村に……」


 その言葉に、一行の顔が強張る。

 時間はほとんど残されていない。


「あの…僕……道案内します。裏道を通れば先回りできる。正直、軍に逆らうのは怖いですけど……でも、罪のないゴブリンたちを殺すのを見てる方がもっと嫌なんです」


「んっ?待てよ?なんか怪しいな…」

 カイルが低く声を発した。

「ミサト、本当に信じていいのか? こいつが国の手先で、俺たちを罠にかけるつもりだったらどうする?はなから湯ノ花を潰すために送られたスパイだったら?」


 その言葉に、ゴブ次郎たちも一斉に身構えた。

「そうだ! もし兄貴たちの村に案内するふりして、逆に兵隊を呼んでたら……!」

 

 空気が一気に張り詰める。


 リュカは顔を青ざめさせながら、それでも必死に言葉を吐き出した。

「そ、そ、そんなことしません! 僕は……“正義の無い殺し”なんてしたくないんです! 軍の命令より、ゴブリンを救う方が大事だと思ったから!」


 その真っ直ぐな瞳に、ミサトは息を呑んだ。

 けれど同時に、、背後から、リリィの冷静な声が落ちてくる。

『はい。ミサト。“信頼”とは投資と同じです。損をする可能性はありますが、投資しなければ未来も得られません。彼に賭けてみますか??』

「はぁ〜、ったく……リリィは相変わらず言い回しが堅いんだよなぁ〜」

 ミサトは小さく苦笑し、リュカを見据えた。

「ふふ、いいよ。信じる。もし裏切ったら、そのときは私が責任を取る。それにリュカが教えてくれなかったら、私たち行動出来てなかったしね!だから、みんなもついてきて」


 その言葉に、仲間たちは渋々うなずく。

 リュカの瞳に光が宿り、深々と頭を下げた。


 やがてカイルが深いため息をつき、肩をすくめる。

「まったく……若造まで命がけで動いてるってのに、俺が尻込みするわけにゃいかねぇな」


 リリィの声がミサトに届く。

『はい。ミサト。これが“想定外の強力イベントキャラ加入シーン”ですね。ゲームなら確実にBGMが盛り上がるシーンです。痺れますね』

「リリィ! いちいちメタな表現するなっての!」

 とは言いつつ、ミサトの胸は熱くなっていた。


 リュカの手引きがあれば、救出は現実味を帯びる。

 紙切れは偶然の助けではなく、こうして再びつながるための布石だった。


◇◇◇


 夕暮れ、裏道を進む一行。

 森の奥、獣道のような細道をリュカが先頭で切り開いていく。

 薄暗い木々の間で、仲間たちの足音と息遣いだけが響く。


 やがてリュカが振り返り、小声で言った。

「ふぅー!この先を抜ければ、ゴブリンの村です。……よかった。間に合います」

 安堵と緊張が一気に押し寄せ、ミサトは唇を噛んだ。

「よし……絶対に助けるよ!」


 その決意とともに、夜の闇が迫ってきた。

 討伐の足音はすぐそこまで迫っている。



            続


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