第23話 【迫る国の影】
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翌朝、、
湯ノ花の里は早くも大工仕事の音で目を覚ました。
「おーいっ!杭はこっちだ!」
「屋根材もっと持ってきてくれ!」
「宴会場は広くとるんだぞ!」
広場には材木や石材が積まれ、ゴブリンと村人が力を合わせてトントン、ガタガタと動き回っている。
昨日決まった【みんなの家】計画が、もう本格的に始まってしまったのだ。
「は……早すぎる。行動力が異常すぎる……私たちがエルフの村行ってる間に、もう下準備は設計図通りに仕上げていたんだろな…」
まだ寝ぼけ眼のミサトは頭を抱える。
『はい。ミサト。社畜的には“翌朝から大声フル稼働”は当然のムーブです』
「そんなブラック企業あるかぁ!……いや、あるな……顔ゼロ距離対面挨拶……いやいやいや!うちはホワイト企業でやっていきたいんだよぉぉぉぉ!!」
村の空気は賑やかで、笑い声も絶えない。
けれどその和やかさに水を差すように、昼前、港情報部の一人が駆け込んできた。
「ミサトさんっ!報告っ! 国の兵士が十数名、街道をこちらに向かって進行中とのこと!」
一瞬で広場が静まり返った。
◇◇◇
「国……って、あの“国”?」
ミサトは喉を詰まらせながら聞き返す。
「はい。正式な兵士です。旗も掲げていました。数は少ないですが、馬も装備も一級品……ただの巡回かもしれませんが…」
村人たちがざわめいた。
「や、やべぇんじゃねえか? 俺たち反乱軍に見られたりしねえか?」
「国に目をつけられたら、湯ノ花の里なんてひとたまりもないぞ!」
慌てふためく村人やゴブリンたちをカイルが窘める。「慌てるなっ!うちが何か悪い事したってのか?そうじゃねーだろ!落ち着け」
ミサトの心臓もバクバクと跳ねた。
(そりゃそうだよ……周りの村や港相手ですら胃をやられたのに、国相手とか桁違いだよ!)
『はい。ミサト。落ち着いてください。国が十数名だけを寄越すということは、“大軍を動かす理由はまだ無い”という証拠です』
「……あんた冷静すぎない?本当は来るの知ってたでしょ? こっちの胃が死ぬんだけど」
『はい。ミサト。ふふふ。サプライズってやつです。胃薬はお早めに』
「そんなサプライズいらねぇー!私、胃薬持ってないよ!ここ異世界なんですよ!コンビニもドラッグストアも無いんですよぉぉぉ!!」
『はい。ミサト。声大きい。無いなら作ってしまえばいいじゃないですか??今はエルフの秘薬をお勧めします」
「あっ!?そうだ。今のうちに飲んどこ☆」
村人の不安を前に、ミサトはエルフの入った温泉を薬化した物を飲み深呼吸した。
「よしっ、と、とにかく……まずは落ち着こう。相手はまだ攻めてきたわけじゃない。下手に警戒しすぎたら逆に怪しまれるし……」
そう言ったところで、子どもが小さく手を挙げた。
「ねえ、ミサト。兵隊さんって悪い人なの?」
その無垢な問いに、ミサトは言葉を詰まらせた。
(そうだよね……国の兵士が必ずしも悪ってわけじゃない。彼らだって命令で動いてるだけかもしれない)
ミサトは苦笑して答える。
「ははは、、悪い人かどうかは……これからのお話次第、かな?あはは…」
◇◇◇
その夜、村の広場では小さな焚き火がいくつも灯されていた。
作業を終えた大工や農夫、ゴブリンたちが、黙って火を囲んでいる。
笑い声はなく、どこか押し黙った空気が流れていた。
「……国兵が来るって、本当なのか?」
誰かがつぶやくと、火の粉が夜空へと舞った。
「本当だ。港からの情報じゃ、もう何日もせずに着くそうだ」
「ちっ……また税だのなんだの言いに来るんじゃねぇのか?昔もそうだったからな!」
「そうだ!俺たちが昔、あんなに苦しかった時も、国が助けてくれたか? 魔物が来ても、村が干ばつでも、兵士なんか一人も来なかったぞ!それに比べてミサトはこの地域を豊かにしてくれた」
ゴブ次郎が鼻を鳴らす。
「へへへっ!国なんかよりボスの方がよっぽど頼りになる。オレらに仕事くれて、腹いっぱい食わせてくれるんだ。国はオレたちを見れば“討伐対象”だからな……」
「……でもよ」
別の若者が唇を噛む。
「国は国だ。逆らったら……潰される」
静寂が落ちる。誰もその先を言えない。
ミサトは黙ってみんなを見つめていた。胸の奥で、かつての会社の会議室が重なった。
上からの理不尽な命令に不満を漏らしながら、間違ってるって分かっていても、逆らえばクビになる恐怖に口をつぐんでいた日々、、。
(……みんな、あの時の私と同じなんだ)
焚き火の明かりに照らされる村人の顔が、切なく胸に刻まれる。
◇◇◇
夜更け。眠れないミサトは布団の上でゴロゴロ転がっていた。
「はぁ……どうしよ。国の兵士とか、こんなに大事、私は経験ないんだよなぁ…。さてどうしたもんかね??リリィちゃん??」
『はい。ミサト。そうですね…“初対面”は極めて重要です。礼儀七割、実利三割で臨むのが王道です』
「あははっ!なにそれ、面接の必勝法みたいじゃん!」
『はい。ミサト。初手は笑顔、姿勢はまっすぐ、語尾は力強く。あと、語尾に“!”を意識して望むと好印象ですね』
「あははっ!リリィ受け狙ってる??履歴書持ってったほうがいい感じ!? ていうか交渉を“!”と大声で乗り切るとかブラック企業の朝礼じゃん!」
『はい。ミサト。朝礼も帝王学に通じています。なぜなら、、』
「やめろやめろやめろ〜! リリィ、絶対わざとスパルタ式に仕込んでるでしょ!」
『はい。ミサト。上司に鍛えられた経験は、部下に還元するのが社畜の宿命です』
「ぐぬぬぬ……! 誰が社畜上司よっ!私はホワイト企業を目指してんの!何なら、今の状況で私はキャパオーバーよっ!」
思わず枕をポカポカ叩きながら、ミサトは笑っていた。それでも、リリィの声がある限り、怖さも少し和らぐ。
やがて瞼が落ちていき、焚き火の赤と兵士の影がミサトの夢の中で混ざり合っていった、、。
数日後の夕方、、
見張りに立って警戒していたゴブ次郎が大声で叫んだ。
「ボスっ! 来たぞ! 国の兵隊だ!」
村の入口、、。
夕日に照らされて、銀色の鎧を着た兵士たちがゆっくりと馬を進めてきていた。
掲げられた旗には、国章の獅子の紋。
「ひぃぃぃ……来た…本物だ……映画じゃなくて現実の兵士だぁ……」
ミサトは思わず後ずさる。
『はい。ミサト。来ましたよ。しっこマン漏れてないですか?ふふふ。ここが“初対面での印象勝負”です。笑顔で、里長としての堂々としたお出迎えを。……そうですね。私からミサトへ一言……。 “かましてやれ”とでも言っておきましょうか。ふふ』
「はは、、かましてやれって、、堂々と……? え、ええと……何したらいいんだっけ??」
ガクガク震えながらも、ミサトは深呼吸をして前に出て自分の頬を両手でパチンと叩いた。
(そうだ、今さら逃げられない。やるしかないんだ……!もしかしたらお話しに来ただけかも知れないし……んな訳ないか…はぁ〜…)
国の兵士たちの影が、確実に湯ノ花の里へと近づいていた。
続




