第22話 【まさかの城計画、本格始動!?】
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翌朝。
湯ノ花の里はいつもより早く活気づいていた。
「おーいっ!材木なら山からすぐに運べるぞ!」
「石材はどうする? いい岩場をこの前見つけたぞ!そこから持ってくるか?」
「屋根瓦も焼こうぜ! 俺の窯を使っていいからな!」
村人やゴブリンたちが、まるで祭りの準備のように大声を張り上げていた。
「え、ちょっと待て、待てぇ〜いっ! なにみんなのそのテンション??」
ミサトは目をこすりながら広場へ出た。
すると中央には大きな板が立てられていて、その上には、、
「……湯ノ花の里。里長お城の設計図!?」
描かれていたのは、塔が四本もそびえ立つ堂々たる天守閣。玄関ホールには噴水、奥には庭園まで付いている。
「ぷぅぎゃゃゃぁぁぁ!! 本当に描いちゃったんだ!しかも一日で??」
「おうっ!リリィに手伝って貰って久方ぶりに徹夜しちまったぜ! ミサト。昨日『任せる』って言ったよな? なら俺たちに任せてもらうぜ!」
棟梁は胸を張り、誇らしげに言った。
「いや、いやいやいや! これ、明らかに“城”じゃん! 私、ただの一人暮らしなんだけど!?今の家だって持て余してんですけど…!」
「な〜に言ってんだ! 湯ノ花の里の長だろ!? シンボルが必要なんだよ!」
「うぅ……この会話、、昨日からのデジャヴ感ある……」
『はい。ミサト。いいじゃないですか。お城。私お城に住むのが夢だったんですよ。だから張り切って設計図描いちゃいました』
カイルが肩をすくめて笑って言った。
「あははっ!諦めろ、ミサト。みんな完全にノリノリだ」
「こらっ!リリィ!カイル! なぜ止めない!」
「いや……俺もちょっとワクワクしてきた!城なんて男のロマンだろっ!白馬の王子が迎えに来るかもよ??はははっ!」
「あははっ!白馬の王子なんかいらないよ!私は休日に家でゴロゴロして、アイス食って昼寝しても怒らない人がいいんです」
◇◇◇
「ミサトさ〜ん! 庭は畑にします? それとも果樹園?」
「ボス! 地下に秘密通路とか掘っときます?」
『はい。ミサト。舞踏会を開ける広間は必須かと』
村人からゴブリンからリリィまでもが次々に提案を飛ばしてくる。
『はい。ミサト。帝王学的には、“広間で民衆と踊る指導者”は理想像のひとつです』
「それはあんたの理想でしょ!私は踊らないわよ!」
そのやり取りに、子どもたちがキャッキャと笑った。
◇◇◇
昼過ぎ、、
あまりに話が盛り上がりすぎたので、結局【家づくり会議】が正式に開かれることになった。
村の広場に長机が並べられ、棟梁がでかい声で宣言する。
「よし! 議題は一つ! “ミサトのお城をどう建てるか”だ!」
「だから城はいらないって言ってるでしょ!?八畳一間で充分です」
しかし誰も耳を貸さない。
「俺は温泉を引き込むべきだと思うな! 風呂付き居間!」
「いやいや、図書室が必要だ! 知識は力だぞ!」
「宴会場だろ! 俺たちが遊びに行けるし!」
「こらっ!勝手に私の家を公共施設にするなぁぁぁ!」
会議はわちゃわちゃと収拾がつかないほど盛り上がっていく。
◇◇◇
会議も終わり夕方、、、
さすがに疲れたミサトは、子どもたちの声に誘われて小川のほとりへ。
そこではゴブ次郎が子どもたちに木工を教えていた。
「ボス、見ろよ。オレたちの騒ぎを聞いて、子どもたちが小さい家を作ったんだってよ♪」
並んでいたのは、小枝や粘土で作られた可愛い“ミニハウス”。
屋根は木の皮、窓は花びら。どれも素朴で温かみがあった。
「ふふふ。……私こっちの方がいいなぁ〜☆」
ミサトはつい呟いてしまった。
子どもたちは笑顔で言う。
「ミサトのおうちも、あったかいおうちにしてね!」
「大きいのじゃなくていいから、みんなで遊びに行けるおうちがいい!」
その声を聞いて、ミサトははっとした。
(そうだよね……“豪華なお城”じゃなくて、“みんなが気軽に入れる家”でいいんだよね)
◇◇◇
夜。再び会議。
ミサトは立ち上がって宣言した。
「お願いだから、普通の家にして! でも条件がひとつある!」
皆が息を呑む。
「私だけのためじゃなくて、みんなで集まれる家にしてほしいの。宴会でも、会議でも、遊びでも、何でもいい。みんなが入れる場所。それがいい!」
一瞬の沈黙のあと、、
「おおぉぉぉぉ! それなら任せろ!」
「“城”じゃなくて、“みんなの家”だな!」
「宴会場付きの普通の家ってことか!」
「……あれ? 結局宴会場はつくの?」
ミサトは額を押さえた。
けれど、みんなの笑顔に胸が温かくなる。
『はい。ミサト。帝王学的にも、指導者が“民と共に過ごす家”を選んだことは大きな意味があります』
「もう……リリィったら…なんでも帝王学にするのね…本当にそれが帝王学なのかすら分からなくなってきたわ…ははは」
そう言いながらも、頬は自然と緩んでいた。
こうして“城建設騒動”は、最終的に【みんなの家】計画へと変わった。
湯ノ花の里は今日も、笑いと温もりに包まれていく。
◇◇◇
夜更け、会議を終えたミサトが自室に戻ると、頭の中にリリィの声が響いた。
『はい。ミサト。会議お疲れさまでした〜。で、率直に聞きますが……ミサトは国を相手に戦える自信、あります?』
「はあぁ!?急に何言ってんの?? あるわけないでしょ! てか、いきなり核心突きすぎだから!」
『はい。ミサト。ふふふ、では“無理です。降伏します”と宣言しておきましょうか?今のうちに』
「やめんかっ! こっちはこんなだけど一応里を任されてる里長なのよ!? 仲間にそんなこと言えないでしょ!」
『はい。ミサト。ふむふむ。つまり“無理ゲー”を笑顔でやりきる、それが社畜の極意と申すのですね?』
「おっ??なんだ?申すとかいきなり言い出して?しかも誰が社畜だっ!自分で言うならまだしも他人に言われると嫌だな… ……でもさ、まあ、何とかやりきるしかないんだけどさ!」
口を尖らせつつも、ミサトの胸にほんの少し勇気が灯る。
『はい。ミサト。大丈夫です。これから何が起きても……ミサトには仲間がいます。あと、私もいます』
「……お、珍しくまともなこと言ったじゃん」
『はい。ミサト。……でも、仲間が失敗をしてしまった時は、土下座外交プランBを発動して下さいね。あとミサトが失敗した時も土下座です』
「やっぱりオチがそれかぁぁぁ!まぁ…土下座で済むなら余裕なんだんだけどね…私、そんなプライド高くないし〜!!へへっ!」
『はい。ミサト。もう寝てください。うるさいです』
「はぁぁぁ〜!?アホかっ!お前が話しかけたんだろが!寝る!おやすみ」
『はい。ミサト。おやすみなさい』
いつものミサトとリリィの掛け合いが夜空に溶けていった。だが遠くの地で、湯ノ花を狙う新たな影が動き出していることを、この時のミサトたちはリリィを除いてまだ誰も知らなかった。
続