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第21話 【ただいま湯ノ花の里】

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 エルフの森を抜ける小径は、薄明るい緑の光に満ちていた。

 枝葉の隙間からこぼれる陽光は金色の糸のようで、森の出口が近いことを告げている。


「ここまでお送りするのが、我らの役目です」

 エルフの護衛の一人が静かに頭を下げた。


 その横でリュシア、、いや、本名リュシア•ノクティルカ姫は、少し唇を尖らせて言った。

「もう少し一緒に行きたいけど……お母様が許してくれないからね」


「リュシア……」

ミサトはその小さな肩を抱き寄せた。


「また湯ノ花の里に遊びに来てよ!だって私たち、もう“繋がった”んだからさ☆」

「うん! 絶対行くから、湯ノ花の里に! その時は、子供たちも連れて!温泉入って、おまんじゅう食べて、ハシも使う!あとお土産も買って帰るっ!」


 リュシアの大きな緑の瞳は、真っ直ぐと未来への希望で輝いていた。

 護衛たちに見送られ、ミサトたちは森を後にする。背後から聞こえる「お気をつけて!」という声に、胸の奥が熱くなった。


◇◇◇


「帰ってきたぞーっ!」

 森を抜け、見慣れた里の輪郭が見えた途端、ゴブ次郎が大声を張り上げた。


「おおおおお!」

「ミサトだー!」

「ミサトさ〜ん、みんな〜。無事でよかったよ〜」


 元村長やエルナ、ゴブリンたちや村人たちが総出で迎えに来てくれていた。

 笑顔、拍手、子どもたちの歓声。これほど“帰ってきた”という実感をくれる瞬間はない。


「みんな〜!!ただいま!」

 ミサトは自然と手を振っていた。頬を撫でる風さえ、懐かしい。


 カイルも隣で深く息を吸い込む。

「ん〜!やっぱり、この空気が一番だな。旅の間ずっと感じていた。ここが俺の居場所だって」


「あらぁ〜……言うようになったんじゃないの〜☆」

 ミサトは揶揄うようにニヤリと笑った。

 カイルは湯ノ花の里に就職したことを改めて思い出し、胸が温かくなる。


◇◇◇


 その日の夕刻、、

「ぴぃやぁぁぁ!旅行から家に帰って来たら…まずは、これですよねぇ〜♪」

 そう言ってミサトが足を突っ込んだのは、里の温泉。

「はふぅぅぅぁ……っ! やっぱり湯ノ花の温泉!最高ぉぉぉぉ!」

 肩まで浸かり、全身から力が抜けていく。

『はい。ミサト、エルフの森と幻術の試練で張り詰めてた筋肉が全部溶け出してる音が聞こえますが、大丈夫でしょうか??』

「ぶぅぇぇぇ!えぇ、溶けてるわよ……あんたのせいで無茶したんだからね」

『はい。ミサト。いえいえ。私は帝王学における“自己犠牲”を実地で学んで頂いただけで〜す』

「あははっ!『で〜す』じゃないわよっ!学ばせ方がスパルタすぎるっつ〜の!」

『はい。ミサト。つ〜の!』「真似すんなっ!」

 二人の掛け合いに、周囲で一緒に入っていた村人たちがくすくす笑う。

「やっぱり、ミサトさんリリィのやり取りは聞いてられるわね〜」「本当、本当!」

 温泉は今日も平和を広げていた。


◇◇◇


 湯上がりには、子どもたちが集まってきた。

「ミサト〜! 見て見て!」

 小さな手に握られているのは、エルフの菓子、、

 蜂蜜と木の実を固めた、香ばしい甘味だった。


「あら?貰って来たお土産、それだったのね? わぁ、美味しそうね!」

 ミサトが笑顔で答えると、子どもたちは得意げに胸を張る。

「リュシアさんからもらったんでしょ? “みんなで食べて”って言ってた??」

「うん。みんなで食べな☆喧嘩しないで分けっこすんのよ」


 そんな光景に、ゴブ次郎が鼻をすすった。

「……姫さまもボスもやっぱりいい人だな」

「アホか?泣くほどの事か?」

 カイルが呆れたようにツッコむが、目尻はやっぱり緩んでいた。


◇◇◇


 その夜の集会。

「ミサト? そろそろ新しい家でも建てたらどうだ? 少しなら余裕あんだろ?こっちも今なら手が空いてるぞ!」

 大工の棟梁が口を開いた。


「え? 家?」

「おう! 今までは村の共有の建物を使っていただろ?昔にみんなでちょこっと直しただけの家!もう湯ノ花の里の長といえばミサトなんだから、ちゃんとした“城”が必要だと思うんだよなっ!」


「お〜!そうだそうだ!」

「俺たちが立派なの建ててやる!」

「オレたちも手伝うぜー!」

 ゴブリンも村の若者もやる気満々。


 ミサトは困ったように頭をかいた。

「……え〜っと、私は家にそんなこだわりないし、建ててくれるならみんなに任せるよ?小さくていいからね…」


 その瞬間、、

「「「本当の城を建てよう!!!」」」

 村人とゴブリンが声を揃えた。


 それを聞いた瞬間、ミサトは立ち上がる。

「はあぁぁぁ!!話し聞いてる??ダメダメ!城なんていらないって!ほ〜んと小さな家で大丈夫だから…何なら今のまんまでも問題ないのよ!あんたたち本当に建てそうだから恐ろしいのよね……」

『はい。ミサト。帝王学的にも、象徴となる建物は必須ですね。大きなお城に元社畜独り……』

「おいっ!リリィ、あんた今イジったでしょ??」

『はい。ミサト。私眠くなっちゃいました…おやすみ』

「寝るなっ!てか、リリィ!あんた寝ないだろ!!」

 みんなで大笑いするなか、大工の棟梁だけは腕捲りをして、目がバキバキにキマッテいた…。


◇◇◇


「ちょっと真面目な話しいいか?」

 カイルが机に大きな地図を広げた。

「これが今の湯ノ花の影響範囲なんだけどさ…」

 地図には、港から山岳地帯まで線が引かれている。


「北は小さな温泉同盟、南は王都との交易路、西はシルヴァン村、カッサ村、東は港……いつの間にか、湯ノ花の里がこの地方の中心勢力になっている。それにエルフの森との契約、これは誰もなし得てない…。どうすんだ…国でも獲んのか???」


 ミサトはその地図をじっと見つめ、大笑いしてしみじみとつぶやいた。

「あははっ!国獲っちゃう?? ゴメン。うそうそ。冗談!……でもさぁ、本当すごいことになってきちゃったね〜♪」

 胸の奥が熱くなるのと同時に、責任の重みもずしりと響く。

 けれどミサトは、最後には笑って肩をすくめた。


「でもさ〜私の今の心配は……城みたいな家の方が大問題よ!」

 みんなの笑い声が夜空に響いた。


 こうしてエルフの森からの帰還は、笑顔と温泉と、そして“城”?建設計画で幕を開けた。

 だが、湯ノ花の里に迫る新たな影は、まだ誰も知らなかった、、、。



            続

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