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第19話 【仲間と責任の試練】

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 大樹の宮殿の奥深く。荘厳な玉座の間には、天を突くように枝が広がり、光の粒が舞っていた。

 玉座に座すのは、透き通るような緑銀の髪を持つエルフの女王、、。リュシアの母、アエリア。冷たい双眸そうぼうが、列に並ぶ湯ノ花の面々を射抜いている。


「言葉で繕うは易きこと。しかし、真に信じたる者を見極めるには、、試練が必要です」

 女王の声音は、森そのものが語るかのように重く響いた。


 ミサトはごくりと唾を飲み込む。背後でゴブ三郎が「うへぇ、試練ってマジかよ……」と小声を漏らすが、すぐにエルフ兵の睨みに押し黙った。


 アエリアは立ち上がり、両手を広げる。

「知恵と愛。その二つを兼ね備えし者のみ、我が森は認める!良い結果を期待しているぞ…」

 その言葉と同時に、玉座の根元から淡い霧光が立ち昇り、ミサトたちを包み込んだ。


◇◇◇


 次の瞬間、ミサトは薄暗い森に立っていた。

 仲間の姿はどこにもない。あるのは、霧に覆われた幻想の舞台、、。


『はい。ミサト。幻術空間ですね』

 耳元でリリィの声が響く。

『ここでの行動は、女王が見ている可能性が非常に高いです。ミサトの選択が、試練の答えになります』

「な、なるほどね……はぁ、異世界全開ってことね〜。ちゃんとラノベ読んで攻略しとけばよかったわ〜……うっ、、また胃が痛くなってきた……」

 すると霧の向こうから、二つの光景が浮かび上がった。

 一方には、カイル、ゴブ次郎たち仲間が縄で縛られ、魔物に喰われようとしている姿。

 もう一方には、リュシアが炎に包まれ、悲鳴をあげながら助けを求めている姿。


 そしてミサトの足元には、崩れかけた足場。立ち止まれば自分も闇に落ちてしまう、、そんな状況だ。

「えっ??な、なにこれ……どっちかを選べってこと……!?」

『はい。ミサト。典型的な“二者択一型の試練”です。仲間と責任、どちらを優先するか……ですが、、』


「どっちも助けたいに決まってるでしょっ!」

 思わず叫んだミサトに、リリィは静かに返す。

『はい。ミサト。ですが、物理的には両方は救えません。ここで問われているのは、あなたが何を犠牲にするか、です』

 胃がねじ切れるような感覚に、ミサトは額を押さえた。

 仲間を見捨てれば、信頼を失う。

 リュシアを見捨てれば、彼女の未来を奪う。

 自分を守れば、すべてを失う。


「……あぁもう、こういう二択、ブラック企業のアンケートみたいで一番嫌いなんだよなっ……!どっちにしろ得に何ないようなさっ!!」


◇◇◇


 ミサトは深呼吸し、足元の闇を見下ろした。

 そこに一歩踏み出せば、自分は消える。

 けれど、、。


「リリィ。これ、たぶん“正解は無い”んだよね」

『はい。ミサト。……その通りです。帝王学で言えば、究極の選択は“第三の道”を見出すか、“自己犠牲”で信を示すか。少し空間を調べてみたら、あの闇の中に二人の状況を止める装置があるみたいですね…。動かしに行けば…ミサトは永遠に闇の中かもしれませんが…』


「あははっ!な〜んだ!早く言ってよ!リリィ。止めるのあるんだ!なら、答えは決まってるわ☆」

 ミサトは大笑いし、震える膝を無理やり前に出した。

「仲間も、リュシアも……守りたいに決まってる。でも、それが両立できないなら……せめて私が犠牲になる。それで誰かが救われるなら、そっちのほうがマシだよ!誰かを見捨て飲むファンタは不味いってね☆それじゃ!ミサト!行っきま〜す!!」

 そう叫ぶと、ミサトは迷わず闇へと身を投げ、装置のスイッチを押した。


◇◇◇


 、、ふっと、すべての景色が白に塗りつぶされる。

 次に目を開けたとき、彼女は再び玉座の間に立っていた。

 足元はしっかりしている。仲間も、リュシアも、無事なままそこにいた。


 試練の光が消え、静寂が戻る。

 その場に立ち尽くすミサトの胸に、突然、身体が飛び込んできた。

「ミサトさんっ……!」

 リュシアだった。震える腕で必死に抱きつき、顔を胸に埋めて涙をこぼす。

「わたしのために……命を捨てるなんて……どうして……どうしてそこまで……」

 言葉は途切れ途切れだったが、想いは痛いほど伝わってくる。

 ミサトは苦笑して、少女の背をそっと叩いた。

「だって……放っとけないでしょ。仲間だもん」

 その一言に、リュシアはさらに涙を溢れさせた。


 高座に座る女王は、その光景をじっと見つめていた。

 愚かな人間と亜人ども。そう思っていたはずが、、。

 娘がこれほど心を許し、命を預けるほどの絆を築いた姿を、どうして無視できようか。

(……認めざるを得ぬか。あの人間の女、我らが森に試練を持ち込みながら、それを超えてなお娘を泣かせるとは……)

 女王の瞳に、ほんのわずかな揺らぎが宿った。


 女王アエリアはしばし沈黙し、やがてゆっくりと口を開いた。

「……自己を捨て、他を生かす覚悟。言葉にあらず、行動にて示したか」

 その瞳に、わずかながらも冷たさを削ぐ光が宿った。

「我が娘よ、そなたの選んだ友は……確かに“愛”を知る者。そして、愚かに見えて賢き知恵を持つ者だ」


「母上……!」

 リュシアが思わず声を上げる。

 女王は娘に微笑むことはしなかったが、次の言葉は柔らかさを帯びていた。

「ミサトが治る湯ノ花の里に限り、森との交流を認めよう。我らが秘する資源の一部を分け与え、互いに利をもたらす契約を結ぶことを許す」


 その宣言に、場の空気が震えた。

 ゴブ次郎が思わず「ボス……やったな!」と小声を上げ、カイルも「どんな奴もなし得なかった功績だぞ……」深々と頭を垂れる。


 ミサトはただその場にへたり込み、震える手で腹を押さえていた。

「うっ……うぎゃぁぁ!お腹いた〜いっ!もう……ストレスで胃に穴が空くわ……」

『はい。ミサト、よくやりました。帝王学的に言えば、これは“自己犠牲による権威獲得”の典型例です』

「ははは、もういいって、、前の世界でも異世界でも……なんで私ばっかり胃を痛めつけられなきゃいけないのよぉ……」


 その愚痴混じりの声に、リュシアはそっと寄り添い、手を握った。

「ミサトさん……ありがとう。あなたがいてくれて、本当に良かった」


 女王はその光景を眺め、少しの沈黙の後に照れた様にミサトに呟いた。

「その、、先ほどから其方が持っているそれ…いい匂いがしているそれは貰えるのか……?」

「えっ、温泉まんじゅうのこと?? ええ!もちろん!これはお土産ですから!どうぞどうぞ☆」


 女王の玉座の間に、微笑みの光と確かな絆の灯がともったのだった。



            続


 

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