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第18話 【エルフ女王と会議室スキル】

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 樹の宮殿。その扉が、軋むような低い音を立てて開いた。

 森の匂いが一層濃くなる。甘く、どこか重苦しい芳香が胸にまとわりつく。


 湯ノ花の一行が足を踏み入れた瞬間、全員が言葉を失った。

 そこはまるで自然そのものが作り上げた大聖堂。天を突くほどの幹の内側をくり抜いた空間で、光が枝葉の隙間から差し込み、床一面の苔を神殿の絨毯のように照らしていた。


 その奥、広間の中心に、、。

 一際大きな根に腰掛けるように、女王がいた。


 緑銀の髪は泉のように流れ、薄衣の裾は木漏れ日に透けて輝く。

 ただ静かに座しているだけで、圧倒的な支配力が周囲を満たしていた。


「……っ」

 思わずミサトは息を詰める。胃のあたりがきゅうと痛む。


『はい、ミサト。帝王学的に言えば“初手は沈黙”です。今は余計な言葉はすべてマイナス点になります』

(うぅぅ……胃痛で沈黙なら自然にできる……)


 女王の瞳が、一行を見渡す。その視線だけで氷の刃に貫かれたようだった。


「娘を、連れ戻してくれたことには礼を言う」

 声は澄んで美しいが、微塵の揺らぎもない。

「だが……人間よ。ゴブリンよ。森を穢す異形の者ども。お前たちの存在はこの地に不要だ」


 ゴブ三郎が喉を鳴らした。

「グルル……やっぱそういう感じか」

「ちっ、聞いてた通りだな。耳長は結局、俺たちを虫けら扱いかよ」ゴブ次郎が牙を見せかける。


「待ってください!お母様!」

 リュシアが一歩前に出た。声は震えているが、その眼差しは揺らがない。

「彼らは見ず知らずの私を守ってくれました! 森を傷つけず、仲間を守り、誇りを持って生きる人たちです!」


「リュシア……」女王の声が低く沈む。

「お前は幼きがゆえに、幻想を抱いているのだ。この森が生き永らえる道は、外界を遮断し、純血を守ることのみ」


「お母様、違います!」

 リュシアの叫びが広間に響く。

「このままでは閉じた森は、いずれ滅びます! 外の世界と繋がり、互いを知り合わなければ……! 私は、未来を信じたい!」


 宮殿の空気が張り詰めた。母と娘、二つの思想が真正面からぶつかり合う。


 ゴブ次郎が苛立たしげに呟く。

「おいボス……これ、場が爆発するぞ」

(やばいやばいやばい! 私は胃がもう限界突破しそう!くそっ、え〜い!言ったれっ!!)


 ミサトは一歩前に出て、両手を広げた。

「は〜い! すいませんけど……ちょっとここで整理入りま〜す!」


「……?」女王がわずかに眉をひそめる。

「人間が女王に向かって何を、、!」エルフ兵が声を荒げたが、リュシアが制した。

「みんな待って。ミサトの言葉を聞いて」


 静まり返る大広間。ミサトは顔に笑顔を貼り付け、心臓を押さえながら声を張った。


「はい。え〜、この聞いて頂ける状況を作って頂き、ありがとうございます。ここまでの女王様とリュシアさんのご意見、まとめますね!」

 彼女はまるで会議室でフリップをめくるかのように、手振りを交えて話し出す。


「女王様のお立場は『森を守るために外を拒む』。つまり《安全保障重視》ですね。

 リュシアさんのご意見は『外と繋がることで未来を開く』。つまり《発展と交流重視》です」


 ぽかんとする兵士たち。カイルとゴブリンたちは「はは…また始まったな」と苦笑い。


『はい。ミサト。ナイスです。帝王学的には“対立を価値観レベルに翻訳”するのが最初の手です。この路線で進めて行きましょう』

(よし、リリィも太鼓判……!)


「で、で、ですね! この状況、両方とも目指しているゴールは、なんと!実は同じなんです!」

 ミサトは胸を張る。

「《森と民の繁栄》! ね、ここは一致してますよね?」


 沈黙。だが、誰も否定できなかった。


「守ることも大事。未来を開くことも大事。だったら、二つをどう両立させるかを考えましょう! 勝ち負けを決めても仕方ありません!」

 ミサトは思わず、会議進行の口調そのままに締めた。

「結論!ここは《引き分け》です! 次に進みましょう!」


 ゴブ次郎が「くっくっ!また引き分けかよ……」とぼやき、三郎が肩をすくめる。

 だがリュシアは必死に頷いた。

「そうですお母様! 私は、敵対するのではなく、お母様と繋ぐ道を探したいのです!」


 女王の瞳が鋭く光る。

 しばしの沈黙。やがて、静かに口を開いた。


「……人間。お前の言葉は不遜でありながら、不思議と筋が通っている」

 その声は冷たいが、微かに揺らぎを帯びていた。

「ならば問おう。お前は、この森の未来をどう導くつもりだ?」


 突き刺さる視線。

 ミサトは胃を押さえつつも、深呼吸して答えた。

「私は……元社畜OLです! でも、だからこそ、会議室で培った調整力で、誰も取り残さずに進めると思っています!」


 女王の唇がわずかに歪む。笑みとも冷笑ともつかぬ表情。

「シャ…チク…、、 面白い……ならば見せてみよ。そのシャチクの力とやらを」


 広間の奥、荘厳な根の間に淡い光が灯った。

 次の瞬間、女王の声が響く。

「試練を課そう。森と世界を繋げるに値するか、証明せよ」


 張り詰めた空気に、ゴブリンたちがざわめき、リュシアが息を呑む。

 ミサトは胃を押さえつつ、リリィに心の中で問いかけた。

(ねぇ……?リリィ……?試練とか言い始めちゃったけど、、なんかこれ、めっちゃ無理ゲーの空気じゃない?)

『はい。ミサト。大丈夫です。社畜会議に比べれば、命がけの試練など“楽勝”です』

(むきぃぃぃぃ!!全然楽勝に聞こえないよぉぉ!!)


 こうして、女王の試練が幕を開けようとしていた。



            続


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