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第15話 【エルフの森へ、社畜直談判!】

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 森の奥で鳴り響いた角笛の音は、冷たい夜気を切り裂くように長く尾を引いた。

 里の門の上から、見張りの若者が声を張り上げる。


「くっ、来るぞぉぉぉー!森から……武装したエルフの兵が来るぞぉぉっ!」


 ざわめきが一気に広がる。ゴブリンたちは慌てて武器を手にし、カイルまで腰の剣を抜きかけた。

 村の若い衆も、手に手に農具を持って駆けつける。


「ボス! ここは俺たちに任せろ!」

「帰って来るなり忙しいねぇ〜♪でも、エルフだろうが関係ねえ! 里を荒らす奴はぶっ飛ばす!」

「カイルの兄貴! 俺らもやる!」

 熱気に満ちた声。だがその熱は、刃のひと振りで血に変わる。

 ミサトは思わず叫んだ。

「こらっ!!みんなっ!やめなさ〜いぃぃぃっ!!」


 その声は意外に鋭く、皆が一瞬動きを止めた。

 ミサトは大きく息を吸い込み、震える手を腰に当てる。


「あのね〜、、戦うのは簡単よ。でも……一度始まったら、もう止まらないでしょうが! 相手はエルフの正規兵なんでしょ!? 村人が何人、ゴブたちが何人死ぬか……考えなさい!それに“角笛鳴らして来る”ってことは里を潰す気ではないんでしょ……潰す気ならいきなり攻めて来るはずだから…交渉出来る余地があるなら私に任せなさいっ!!」


 怒鳴ったわけでもない。だが切実な声に、ゴブ次郎たちが顔を見合わせる。カイルも歯を食いしばり、剣を鞘に戻した。

「……わかった。ミサトの言うとおりだな…」


 ようやく空気が静まりかけたそのとき、、

 森の影から、規律正しく並んだ兵の列が姿を現した。

 銀の鎧、緑の外套、長弓と槍。整然とした足取りは、まるで森そのものが形を取ったようだ。


「はは、……こいつは本物だな」

 カイルが小さく呟く。

 やがて先頭の兵が進み出て、澄んだ声で告げた。

「人の里に告ぐ。我らはエルフの女王陛下の命により、リュシア姫を迎えに来た。姫を返していただきたい」

 静かな声だったが、その裏に揺るぎない威圧がある。

 周囲の空気が凍りつく中、ミサトは一歩前へ出た。


『はい。ミサト。 交渉のお時間です。準備はよろしいですか??』

「わかってるわよ……! でもあの人たち、見た目からして高圧的すぎない!?」

『はい。ミサト。ええ。外見から推定するに、彼らはエルフ王直属の近衛兵でしょう。素人が手を出したら瞬殺されますね』

「ちょっ!?明るく言うのやめて! そういう具体的で物騒なワードを言わないで!余計怖くなるでしょ!」


 心臓がバクバク鳴っているのを誤魔化すように、ミサトは両手を上げて兵たちに向き直った。


「あの〜、私は湯ノ花の里を預かるミサトといいます。リュシアさんは、この里に自らの意思で滞在しているんです。だから“返す”って言い方は筋違いじゃないですか?」


 兵たちは眉一つ動かさない。

 ただ冷ややかな視線を向けてくる。


「姫が人間に言わされているのではないか? 我らはそのように疑っている」

 その一言に、背後のゴブリンたちが「何ぃぃ!?」と怒鳴りかける。

 だがミサトは手で制し、リュシアに振り返った。

「リュシアさん。……あなたの口から、言ってもらえますか?」


 しばしの沈黙。

 リュシアはゆっくりと一歩前へ進み、震える声で、しかしはっきりと告げた。


「私は……母上の庇護の中で、森に閉じ込められるだけの人生をもう送りたくありません。エルフの子供たちにも、この広い世界を見せたい。人と出会い、笑い、学び……そういう未来を、私は選びたいのです」


 彼女の目には涙が浮かんでいた。

 それでも真っ直ぐに兵たちを見据える姿に、村人たちが息を呑む。


「……」

 エルフ兵の列に、動揺のざわめきが広がった。

 だが先頭の兵はやがて首を振り、低く答える。


「そのような願い、女王陛下が許すはずはない。リュシア姫もお分かりだろう?あのお方がどのようなお方なのか?」


 ミサトは目を細めた。

(やっぱり……問題は兵士じゃない。女王様との価値観の違いってことか?)

 リリィがミサトの脳内に話しかける。

『はい。ミサト。 これは典型的な“権限の所在”の問題です。現場に文句を言っても解決しません』

(脳内覗くなって言ってんでしょ!でも、会社の中間管理職あるあるってことね……!)


 ミサトはふっと息を吐き、両手を腰に当てる。


「つまり問題はあなたたちじゃなくて、エルフの女王様が決めてるってことでいいんですね?」


 兵たちは無言でうなずいた。


 数秒の沈黙のあと。

 ミサトはパンッと手を叩いた。


「なら話は早いわ!ここで話してたって埒があきません! リュシアさんを返す代わりに、私がエルフの森に行って、女王様と直接交渉してくる!」


 その言葉に、場が凍りついた。


「はぁぁぁぁーー!?」「マジかよボス!」「出たよ?!ミサト!気でも狂ったか!?」

 ゴブリンもカイルも村人も一斉に叫ぶ。


 リュシアは目を見開き、声を震わせる。

「ミサトさん……本気、なのですか?」


「えぇ!!もちろん本気も本気ですよ!」

 ミサトは胸を張った。

「私は帝王学と交渉のプロ……いや、元社畜OLです! 理不尽な上司に頭を下げるのも、無茶な要求を押し返すのにも慣れてます! だからエルフの女王だろうがなんだろうが、話せばわかるはず!」


『はい。ミサト。今回は確率的に言えば、話せば分からない可能性の方が高いですが…一歩間違えば人間とエルフの戦争ですよ』

「こらっ!リリィ、そこは空気読んでサポートしなさいっ!」


 兵たちはざわめき、互いに顔を見合わせる。

 やがて一人が、信じられないものを見るような目で呟いた。

「……人間が女王陛下に直談判? 前代未聞だ」


 しかしミサトは、にっこりと笑った。

「あははっ!まぁ、異世界社畜の交渉力、舐めないでくださいね!」

 そのぶっ飛んだ軽口に、ゴブリンたちは呆れ、カイルは頭を抱え、リュシアは涙をこぼしながらも微笑んだ。


 こうして、、湯ノ花の里から、、

 次なる舞台《エルフの森》への道が、いよいよ開かれようとしていた。



            続


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