第8話 【暗殺未遂と仲間の絆】
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港町ガルマの夜は、昼間の喧騒とは別の顔を見せる。
昼は商人たちが行き交い、荷馬車が道を埋め尽くすが、夜になれば人影は減り、代わりに暗がりに潜む影が増える。港の風は魚と酒と海藻の匂いを運び、夜道に響くのは酔客の笑い声と犬の遠吠えだけだった。
、、その暗がりの中に、怪しい影は潜んでいた。
◇◇◇
「今日の調査は大収穫だったわね〜」
宿に戻る途中、ミサトは小声で呟いた。
ヨランが持ち帰った情報、そして帳簿の写し。確かにバルドン商会が港の倉庫を操っている証拠だった。
エルナは真剣な顔で頷く。
「でも……彼らも黙ってはいないはずですよね…。もう私たちが動いていることは、、たぶん知られてる」
カイルが剣の柄に手を置いた。
「来るなら来いってな。俺たちは引かねぇ」
ミサトは口角を上げてみせる。
だが次の瞬間、背筋を走る冷たい予感。
リリィの声が脳裏に響いた。
『はい。ミサト。背後に複数の気配を感知しました。敵意ありです。危険です』
咄嗟に振り返る。闇の中から三つの影が飛び出した。光を反射する短剣。狙いはただ一人、ミサト。
「ミサトさんッ!」
エルナが飛び出し、ミサトを突き飛ばす。
刹那、短剣が空を裂き、彼女の肩口をかすめた。
鮮血が飛ぶ。
「エルナ!!!」
叫びながら、ミサトは地面に転がり込む。
カイルが即座に剣を抜き、影の一人を弾き飛ばす。
「チッ、やっぱり来やがったか!ゴブ次郎やるぞっ!!」
ゴブ次郎も棍棒を振り回し、もう一人を押し返した。
「おうっ!カイル!この野郎! 我らがボス、ミサトさんを狙うなんて許さねぇ!」
残る一人はすばやく退き、闇に溶ける。
「ちっ!仕留め損なったか……」と低く呟き、煙玉を投げて姿を晦ました。
濃い煙が港の夜風に流れる。
剣を構えたカイルは煙を裂くが、敵の影はそこにはもうなかった。
煙が広がる中、カイルは神経を研ぎ澄まし、剣が気配を一閃する。
金属音が火花を散らし、刺客の短剣が弾かれた。
「この腕前……お前ら、、ただのゴロツキじゃねぇな!」
カイルが踏み込み、刺客を押し返す。
一方、ゴブ次郎は大きく棍棒を振り下ろした。
石畳に叩きつける衝撃で砂利が跳ね、刺客の足元を揺らす。
「この野郎ぉぉぉぉっ!!逃がさねぇぞ!」
低い唸りとともに棍棒が風を切り、もう一人の脇腹をかすめた。刺客は呻き声を漏らしながらも、影のように身を翻す。
エルナは肩の傷を庇いながら、腰の袋から石灰粉を取り出し、思い切り投げつけた。白い粉が宙に散り、刺客たちが目と喉を押さえて咳き込む。
「今よっ!カイルさん!ゴブ次郎さんっ!!」
「「おうっっっ!!!」」
その隙を逃さず、カイルが鋭く踏み込み、剣を振るった。刃は刺客のマントを切り裂き、石畳に深々と突き立った。
「今だ、ゴブ次郎!」「はいよっ!合点承知!」
ゴブ次郎の棍棒がうなりを上げて振り抜かれる。だが寸前で刺客がまた煙玉を放ち、視界を奪って退いた。
ミサトは咳き込みながらも叫ぶ。
「全員無事!? なら、追わなくていい! 生き残るのが最優先!死んでもダメ、殺してもダメだよっ!!」
煙が晴れる頃には、刺客の姿は影も形もなかった。
◇◇◇
エルナの肩から血が滴り落ちていた。
「ミサトさん。ご、ごめん……私、少し油断した……」
「なんでエルナが謝るの!?エルナが謝ることない!」
ミサトは必死に布を裂いて止血する。
「ありがとうね…エルナが庇ってくれなきゃ、私がやられてたんだから!」
その必死さに、エルナは震える声で微笑んだ。
「ふふふ……あ〜、、怖かったぁぁぁ!助けられて、良かった〜」
カイルが歯を食いしばる。
「くそっ、奴らは最初からミサトを殺す気だった。証拠を握ったこと、もう完全にあいつらにバレてやがる!」
ゴブ次郎が低く唸る。
「こんな奴らに負けてたまるか……オレたちは仲間を守る!」
ミサトは唇を強く噛んだ。
怖い。心臓がまだ荒々しく打ち、冷たい汗が首筋を伝う。命を狙われた、、その事実が、体の奥に重く残っていた。
その時、リリィが静かに囁いた。
『はい。ミサト。あなたはいま、知らず知らずのうちに《帝王学の真髄》を体現しています』
「え……?」
『はい。ミサト。支配者に必要なのは力でも財でもなく、“人の心をつなぐ力”。あなたが逃げずに戦ってるから、皆が命をかけてあなたを守るのです』
ミサトの脳裏に浮かぶのは、かつてどこかで学んで覚えていた偉人の言葉。
【人は兵ではなく、心で戦うのだ】
ミサトは涙をこらえ、仲間を見渡した。
カイルの険しい顔。
ゴブ次郎の怒りに燃える瞳。
血を流しながらも微笑むエルナ。
ミサトの胸の奥が熱くなる。
「……ありがとう、みんな。本当に、ありがとう」
ミサトは深く息を吸い込み、声を張り上げた。
「でも、私は絶対に止まらないよ! 殺されかけても、バルドンに怯えても、ここで退いたら……湯ノ花の未来はなくなる!だから、みんな!まだ私に力を貸して!!」
カイルが頷いた。
「その通りだ。俺たちはもう後戻りできねぇ。命を懸けてでも進む」
ゴブ次郎が拳を握る。
「オレもだ! 今度はオレが体張ってボスを守る!」
エルナも唇を震わせながら微笑む。
「……私も、最後まで一緒に行かせて。里の子供たちの笑顔を守るために。それにミサトさんに最初に会ったのは私なんだから!」
、、そうだ。
これはもう一人の戦いじゃない。
皆の命を懸けた「共同の戦い」なんだ。
ミサトは涙を拭い、決然と前を見据えた。
「行こう、みんな。バルドンに証拠を突きつける。そのために、どんな罠でも切り抜けてみせる!」
リリィの声が力強く響いた。
『はい。ミサト。ミサトならできる。あなたと仲間の絆こそが、最大の武器です』
夜空に月が覗き、光が港を照らす。
その光は、仲間の絆を誓い合った彼らの顔を静かに照らしていた。
戦いは激しさを増す。
だが、、心は、かつてないほど一つだった。
続