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第4話 【裏切りと帝王学の第一原則】

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 港町ガルマからの帰路は、妙に静かだった。

 昼間、帳簿改ざんの証拠を掴んだ一行は、荷車に揺られながらも言葉少なに考えを巡らせていた。

 港の商会を牛耳るバルドン商会の影は、あまりに濃く、あまりに広い。情報網を断つどころか、かえって巻き込まれかねない。


 だが、湯ノ花の里に戻れば、、仲間が待っている。

 それだけを心の支えに、ミサトは唇を噛みしめた。


◇◇◇


 帰還して間もなく、エルナが慌ただしく駆け込んで来た。

「ミサトさん! ちょっと来てください!」

「なぁ〜に?帰って来たばっかりだよ〜!ちょっとゆっくりさせてよぉー!」

「いいから、広場にすぐ来てください!!」

 案内された広場には、村人たちが集まってざわめいていた。中心に立つのは、炭焼き職人のヨラン。年の頃は二十代後半、腕は立つが口が軽く、どこか胡散臭さを拭えない男だ。


 彼は膝をつき、顔を歪めながら叫んでいた。

「す、すまねぇ! 俺が……俺が、港でバルドン商会に通じてたんだ!」

 村人たちがどよめく。

「なんだって!?」「まさかヨランが……」


 ヨランは土下座する勢いで頭を下げた。

「ちょっとした小遣い稼ぎのつもりだったんだ! 向こうの連中に言われるまま、湯ノ花の荷の情報を流して……そしたら気づいたら引き返せなくなってて……!こんなことになるなんて……本当にすまねぇ!!」


 広場に重苦しい空気が垂れ込める。

「裏切り者をどうする?」「放逐するしかないだろ」

 、、そんな声が飛び交った。


 ミサトは温泉まんじゅうを食べながら前に出た。

「ヨラン。あなた、何度裏切ったの〜??」

「……三度だ。港の倉庫の位置と、荷の内容を伝えた」

「ふ〜ん?そのせいで、うちの荷が勝手に横流しされたり、“契約解除”にされてたんだね〜……」

 ヨランはうなだれる。

「わかってる……追放されたってどうせ信用されねぇ!……死んで詫びる!!」


 ざわめきはさらに強まる。

「罰を!」「里から追い出せ!」「この裏切り者!」

 

 カイルが一歩進み出て、低く言った。

「ミサト、俺が手を下すか?」

 だが、ミサトはカイルを見て、キョトンとした顔で言った。

「えっ?なんで?一回ミスったら人生終わりなの?どんな人間だって転ぶよ?私は転んだ事より、ヨランがどう起き上がるか見てみたいな☆ねっ? ヨラン〜!あなたはまだ生きてる。やり直せるよ☆」


 広場は静まり返った。

「えっ……?」

「やり直すだと?」


 ミサトは声を張った。

「確かにヨランは湯ノ花の里を裏切った。でも、私たちが求めてるのは“人を減らすこと”じゃないんだよな〜。“共に里を大きくすること”だよ。罰を与えて終わりにしたら、何も残らない。けど、何も無しだと里のみんなにも顔が立たない…。だから、、ヨラン、あなたには償ってもらう」


 ヨランは顔を上げた。涙に濡れた目が揺れる。

「償う……?」

「そう。港の中に明るい仲間がいるなら、逆に私たちの目にもなる。ヨラン、あなたにしかできない役目がある。もう一度、港へ行って。今度は“里のために”動いてほしい」


 村人たちの中から抗議の声が上がる。

「危険すぎる!」「また裏切ったらどうする!」


 ミサトは振り返った。

「あっはっはっ!そのときは、私が責任を取るよ。だけどね、、人って、失敗しても立ち上がれる生き物だと私は思うの。ここで人を信じなくて、何が“里”だって言えるのかって?」


 沈黙のあと、カイルが短く笑った。

「はは、まったく、お人好しかと思えば……大した腹だな」

 エルナも苦笑する。

「ええ。だけど……だからこそ、みんなついてきたんですけどね」

 ゴブ次郎が拳を振り上げる。

「オレは賛成だ! ヨラン、今度はちゃんと仲間として働け!」


 次々に賛同の声が広場に満ちていった。


 ヨランは嗚咽混じりに頭を下げる。

「……ありがてぇ……!ありがてぇ!! 今度こそ裏切らねぇ! 命に代えても里のために働く!」

「ははは…ヨラン!会社なんかに命懸けちゃダメよ!ほどほどでいいんだから!なんかあったらすぐ逃げなさい」


◇◇◇


 夜。静まり返った宿の一室。

 ミサトは机に突っ伏していた。

「ぷひぃ〜〜……はぁ、疲れた……。なんで私、あんな大見得切っちゃったんだろなぁ……」

 リリィの声が優しく響く。

『はい。ミサト。あなたが今回下した判断、それこそが“帝王学の第一原則”です』

「え? これも帝王学なの? しかも、第一原則とか難しい言葉出してきたね」

『はい。ミサト。“人を知り、人を使う”。それが古来より伝わる統治者の基本です。処罰は誰にでもできます。しかし、人の弱さと強さを見極め、その力を未来へと転じること、、それは為政者の最初の資質なのです』


 ミサトは目を丸くした。

「えっ、私そんな大層なことしたの!? ただの思いつきで“信じたい”って言っただけだよ!それに今回の件でヨランの今までの頑張りが全部無くなっちゃうなんて悲しいじゃん…」

『はい。ミサト。……まさにそれが、あなたの強さです。歴史の中で同じことを実践した指導者がいます。“敵を赦すことで、最大の忠臣を得る”と説いた偉人たちです』


「……赦すことで、忠臣を得る……か…」

 ミサトは小さく呟いた。


 窓の外では、里の灯火が星空の下で揺れていた。

 仲間を赦し、仲間を信じる。

 それがどんなに不安定でも、、

 きっと、この里の未来を形作る。


 ミサトは小さく笑った。

「ふふふ。よし、明日からまた頑張ろう。ヨランも、きっとやれるはずだよね!」

 リリィの声が静かに重なった。

『はい。ミサト。あなたは決して一人ではありません。湯ノ花の里そのものが、あなたと共に歩んでいるのですから』


 、、こうして、湯ノ花の里は裏切りを乗り越え、さらに強い絆で結ばれていく。

 それはやがて、港町ガルマとの大いなる戦いへと繋がっていくのだった。



            続


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