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第2話 【港に潜む影】

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 港町ガルマ、、、

 三ヶ月ぶりに訪れたその街は、夏の陽光を受けて活気にあふれていた。露店の魚は銀色に輝き、行き交う船乗りたちの掛け声が響き渡る。

 だが、湯ノ花の代表として訪れたミサトの胸には、どこか不穏なざわめきが残っていた。


「んん〜??やっぱり、、な〜んか雰囲気が変わってる……?」

 肩の上で囁くリリィの声も同意する。

『はい。ミサト。以前よりも湯ノ花の里を見る商人たちの目が険しいですね。物資の取引に裏の手が加わっている可能性が高いですね』


 そんな中、彼女は信頼できる仲間、、、

 カイルとゴブ次郎、エルナと共に港の倉庫群へと足を運んだ。

 そこには、湯ノ花が発注したはずの干し肉の樽が積まれている……はずだった。


「んっ?おい、ミサトあれ見ろよ」

 カイルが顎で示す。倉庫の裏手では、港の労働者らしき男たちがこそこそと樽を運び出していた。

 しかも、その行き先は湯ノ花の荷車ではなく、別の商会の船へと続いている。


「ちょちょちょ!!ちょっと、それ……! 私たちの物資じゃないの!?」

 思わず声を上げると、男たちは顔をしかめて動きを止めた。


「んっ?……知らねぇな。契約はキャンセルされたって聞いてるが?」

「そんな話はこっちは受けてません!」

 ミサトがきっぱり言い切る。だが、男たちは嘲笑いながら荷を船へと運び続けた。


『はい。ミサト。これは明らかに妨害です。権利のない第三者が契約物資を横流ししている。背後に大きな意図があると見て間違いないでしょう』


 その言葉に、ミサトの背筋が冷たくなる。

(まさか、バルドン商会の影? それとも、別の勢力……?どう動く?………くそっ!考えろ私!!)


「よしっ!エルナ記録して! 誰が運んでいるか、全部。顔の特徴、喋り方、記録出来るところは全部!」

「うん!もうやってるよ!」

 エルナは素早くメモを取り、港の出入りまで追いかける。

 カイルは腰の剣に手をかけ、ゴブ次郎は拳を握ったが、ミサトは首を振った。

「だめ!暴力反対。今は手を出さないで。証拠を集める方が先」


 その判断に、仲間たちは静かに従った。

 そしてミサトは強く拳を握る。

「大丈夫。私たちの未来は潰させない。、、必ず、この黒い手を炙り出してみせるから!」


 潮風に混じり、港町のざわめきがいつになく不気味に響いていた。


◇◇◇

 

 その時、背後からひそひそとした声が聞こえた。

「へへっ!見たか? 湯ノ花の連中、荷を止められたらしいぞ」

「へっ、あそこも長くは持たねぇ。港の連合に睨まれたら終わりだ」

「なぁ?お前、それ誰が裏で糸引いてるか、知らねぇのか? バ……」


 ハッとして声が途切れた。

 振り返ると、労働者風の男たちがこちらを見て慌てて散っていく。


「ねぇ、みんな……今、“バ”って言ったよね?」

 ミサトは仲間に目配せする。カイルは低くうなずいた。

「あぁ、間違いねぇ。バルドンの名を出そうとしたんだ」

 胸の奥が冷たくなる。やはり、この妨害の背後にいるのは、、、


「よしっ!まずは港の役所に行って正式に抗議する。それと、酒場や市場で噂を集めよう。港は人が多い分、口も多い。何かしら情報が出るはず」

 ミサトの提案に、仲間たちはそれぞれうなずいた。


◇◇◇


 港の役所は石造りの立派な建物で、正面玄関には列を成す商人たちが順番待ちをしていた。

 湯ノ花の代表と名乗って窓口に立ったミサトは、荷物の横流しの件を訴えた。

「契約を交わして正式に支払った物資が、第三者に運ばれているんです。確認してください!」

 だが役人は面倒くさそうに帳簿をめくり、片眉を上げた。

「ふ〜む……でも、記録には“契約解除”の印が押されてますな〜…」

「いえっ!そんなはずありません! 私たちは一度も解除を認めていません!」

 ミサトは声を荒げる。だが役人は肩をすくめるだけだった。

「まぁまぁ、そんなに熱くなりなさるな。お嬢さん?まぁ。証拠があるのなら、正式な書面を揃えてからにしてもらえるかな??こちらも忙しいので」


 淡々とした拒絶。背後から並んでいる商人たちの嘲笑が聞こえる。

「ははは、ほら見ろ、湯ノ花なんざ相手にされてない」「新参者の余所者がでしゃばるからだろ」


 ミサトは悔しさを必死に堪え、役所を後にした。

 外に出た途端、カイルが吐き捨てる。

「ありゃあ、完全に買収されてやがる……! こんなんじゃ証拠を突きつけても握り潰されるだけだぞ!」

『はい。その通りです。ですが、逆に言えば、彼らが証拠を恐れているからこそ、記録を改ざんするのです。ならばこちらが“決定的な一手”を掴めば、彼らも隠し通せなくなる。それを民衆に訴えれば勝機は見えてきます』

 リリィの言葉に、ミサトは深く頷いた。

「はは……やっぱり噂だね。人の口は塞げないもんね」


◇◇◇


 その夜、港の酒場。

 酔った船乗りたちが大声で歌をうたい、酒樽を叩いて笑い合っている。

 ミサトたちは変装し、片隅の席に陣取り、耳を澄ませていた。

「最近バルドンの連中、やけに羽振りがいいらしいぜ」

「聞いたか? バルドンのやつ港の倉庫番まで金で囲ってるってよ」

「へっ、湯ノ花の物資を横流ししてるって噂もある。あれじゃ連中、もう長くは持たねぇな」


 次々と飛び交う言葉に、エルナが小声で囁く。

「酷い会話…… ねぇ、ミサトさん、、これ全部、記録に残した方がいいよね?」

「うん。お願い。裏付けは必要だけど、断片を集めれば必ず全体が見えてくるはず」

 ミサトは真剣な眼差しで応じる。


 カイルがジョッキを握りしめ、歯ぎしりをした。

「ちきしょぉぉ!ここまで露骨にやられて、黙ってられるかよ……!」「ボスぅぅ!カイルぅぅ〜!俺も悔しいぃぃ!干し肉ぅぅぅ!!」

「ゴブ次は干し肉だけかいっ!私のお肉もあげるから静かにしなさい! でも、、理由はなんであれ、だからこそ戦わなきゃね。湯ノ花の名誉と未来を守るためにも」


 酒場のざわめきの中、ミサトは心に誓った。

 、、この妨害の黒幕を、必ず暴き出す。

 正面から戦えば潰される。だからこそ、情報と証拠を武器にして。


 潮風が窓から吹き込み、ランプの炎を揺らした。

 その揺らめきは、これから始まる嵐の前触れのように思えた。



            続


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