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第4話「社畜式プレゼンで取引成立!異世界営業活動、初陣!」

見て頂きありがとうございます。励みになりますので、良かったらブックマーク、評価、コメントよろしくお願いします。


 翌朝。

 ミサトは村の“なんとか住めるようになったボロ家”から気合を入れて出発した。


「さて、今日は“営業”の日よ、リリィ」


『はい。ミサト。本日予定の“取引相手”は、村へ物資を売りに来る行商商会《トーレル商会》。週一でこの村に立ち寄っています』


「OK、取引交渉で“麦の直販ルート”を確保する」


 だが、ミサトの懸念はひとつ。


「現金って、今の私、1ゴールドも無いよね?」


『はい。ご安心ください。本件は“商談”ですので、初期投資ゼロで挑めます。ミサトの“交渉力”が試されます』


「ほぉう……腕が鳴るねぇ!社畜歴8年のプレゼン魂、見せてやるか」


◇◇◇


 村の広場に、馬車が一台ゴトゴトと到着した。


「トーレル商会だぞー!物資の交換を希望する者は並べー!」


 威勢の良い声が響き、村人たちが集まってくる。

 馬車から降りてきたのは、やけに愛想の良い中年の男。

 それが商会の行商、ダイスだった。


「よし!行くよ、リリィ!」

 ミサトはスーツの襟を正し、一歩前に出た。


「おや、見慣れない嬢ちゃんだな。新入りかい?」


「桜井ミサト、村の新任営業担当です。

 今日は“新規取引”のご提案に来ました」


「営業……取引?お、おう?」


『この世界における“営業職”の概念はほぼ存在しません。説明から始めましょう』


「では、始めさせて頂きます。

 ダイスさん、この村の麦、他の村と比べてどう思います?」


「そりゃあ質はいい。だが、どこも大して変わらんしなぁ」


「いえいえ、この質のいい麦、なぜか今まで貴族経由で流れてたせいで、二束三文でしか売れてなかったんですよ」


「……知ってるが、それが相場ってもんだろ?」


「いいえ!相場以上の麦品質ならば、この村限定のプレミアム麦”ってブランドを作って、直接売ればもっと利益が出ると、私は思います!」


「ほう?もっと売れると…?」


 ダイスが興味を示し始める。


「私が現場で品質管理と販促資料を作ります。トーレル商会は“ブランド麦”として都市で売り出してくれるだけでいい。この村の麦にはそれだけの価値があります。お互いにリスク無し、利益は……6:4でどうでしょうか?」


「6がうちで、4が村、ってことか?」


「ふふっ!逆です!」


 ダイスは目を丸くした。


「おいおい嬢ちゃん、そりゃ商人に対して交渉が強気すぎやしないか?」


『ミサト。交渉術•ここで“損して得取れ”を仕掛けましょう』 

「リリィ、オッケ」


「ダイスさん。もし都市で“農家直送、農家指定販売”ってブランド売りが流行ったら?」


「……うちが先駆けってことになるな」


「そうです。市場はトーレル商会が独占です。

 それ、他の商会に先にやられてもいいんですか?

 ダイスさんが契約を結んでくれなければ、私どもはこれから他に営業をかけるでしょう!」


 ダイスの顔が引き締まる。


「ふふっ!……なるほど、嬢ちゃん。お前、商売慣れしてるな?」


「元、まぁまぁブラック企業勤務の社畜歴8年キャリアですから!」

 ミサトはにっこり微笑んだ。


「よし、面白い。まずは“お試し品”で20袋分だけ買い取ってやろう」


「ありがとうございます。次に繋がるように、全力でサポートします」


 こうして、ミサトの“異世界初契約”が成立した瞬間だった。


◇◇◇


「リリィ、これで“第一歩”踏み出したね☆」


『はい。ミサト。村の麦が正式に“商品”として都市に流通します。以降は“商品価値の維持”と“次なる商品開発”が課題です』


「あははっ!とりあえず、今夜は麦茶で乾杯だ!」


 広場に戻ったミサトに、村人たちが駆け寄る。


「お姉さん!取引してくれたんだって!?」

「これで村にもお金が入るのかい!?」


「うん、みんなで作った麦が、正当な値段で売れるようになるよ☆」


 歓声が上がる。

 だが、ミサトはその中で静かに思う。


(ここからがスタートだ。ただ、、社畜人生、異世界でも絶賛続行中だな…)


 そして、その夜、、

 ボロ家の粗末な机の上で、一杯の麦茶を掲げた。


「かんぱーい」

『ミサトの異世界社畜ライフに、乾杯です』

「あははっ!そこに乾杯かいっ!」


 二人だけのささやかな祝杯が、ボロ家に静かに響いた。


 しばらくすると、ドアの外から賑やかな声が聞こえてきた。


「お姉さーん、いるかー?」

「今日はご飯持ってきたんだよー!」


 開けてみると、そこにはエルナを筆頭に、村人たちが手作りの料理や酒瓶を抱えて立っていた。


「えっ?えっ!なにこれ、どうしたの?」


「今日の取引、すっごく助かったって村のみんなで話しててさ!」


「だから、せめてお礼に“晩ごはん”だけでもってな」


 差し出されたのは、素朴だけど温かみのある料理たち。

 岩のようなパンではなく、エルナが“水を多めに使った”柔らかめのパン。

 村人の奥さんたちが作った野菜スープ。

 そして、、ちょっと薄めの麦酒。


「……ありがとう。マジで泣きそうなんだけど」

「大げさだなぁ。これくらい当たり前さ!」

「これからも“村の営業さん”よろしく頼むよ、お姉さん!」


 “ありがとう”の言葉が飛び交う中、ミサトは胸が熱くなった。


『ミサト。これが“現場の声”というやつですね。ミサトの労働意欲を最大まで高める効果があります』


「うん、ブラック企業と違って、ちゃんと“感謝”があるって……悪くないね☆」


 ボロ家の粗末な机の上で、一杯の麦酒を掲げる。


「それじゃあ、みんなかんぱーい!」


「「「かんぱーい!」」」


 エルナたちの元気な声が響き、、

 ほんの少しだけミサトのディナーは贅沢になったのだった。



            続

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