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第37話 【塩の値段は誰が決める??】

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 朝の執務室。帳簿を睨むミサトの前に、カイルが緊張した顔で報告書を差し出した。

「おい!ミサト。商業連合から通達だぞ。来月から交易税を三割引き上げるってよ!」

「はぁ〜?三割!?なんで急にっ!舐めてんの? うちの温泉饅頭も観光客も全部経由地で課税されるってこと?」

「ああ!名目は【道路維持費】らしいが、、

 実質は……湯ノ花の里の成長を止めるためだろうな…」

 リリィが淡い光を放ち、静かに口を挟む。

『はい。ミサト。これは典型的な経済封鎖前の布石ですね。ミサト、これは完全な攻撃です』


 ミサトは深呼吸した。焦りよりも、どこか高揚感が勝っている。

「ほぉ〜ん!かましてきたってことね??じゃあ、こっちも攻めるわよ。 ん〜?……塩を抑えるのなんてどう?」

「塩?」カイルが首を傾げる。

「食料保存に必須。しかも、周辺で良質な岩塩を産出してるのはシルヴァン村の近くだけ。そこに湯ノ花商会の出資で加工施設を建て、出荷を全部うちのルートで握っちゃうなんてどう?」

『はい。ミサト。それは素晴らしいです。中世ヴェネツィア商人の戦術に近いですね。当時も塩の流通を支配して権力を維持していました』

 リリィが感心する声を上げる。

「なっはっはっ!名付けてお塩トメトメ大作戦よ!」

「ははは、笑いながら大胆な事言うなぁ…。てか、なんだその作戦名…」


◇◇◇

 

 午後にはシルヴァン村の村長宅で会談が始まった。

「塩の施設? 確かに我らの岩塩は質がいい。しかし、加工設備や人手が……」

「いえいえ、こちらから頼むので、設備はうちが全額出資、人員は研修込みで派遣します。その代わり、販売はすべて湯ノ花経由。利益は折半で」

 村長は目を細めた。

「ミサトさん……商業連合の怒りを買うぞ?」

「うふふ。ご心配なく。怒らせるより、取引したほうが得だと向こうに思わせます。こちらが塩を握れば、税率を下げざるを得なくなる」

 沈黙の後、村長は頷いた。

「ふふ、あなたはいつも面白い事を考える。よしっ!やってみようか」


 三日後。加工施設の建設が始まり、岩塩は美しく整形され、湯ノ花の印が押されて出荷された。

 塩の加工施設が稼働して十日、、

 商業連合の市場に出回る塩の八割が湯ノ花経由となった頃、向こうから使者が来た。

 商業連合本部から、ミサト宛てに公式な招待状が届いた。場所は港町ガルマの商館。税率引き上げの撤回交渉、名目は《友好会談》。


◇◇◇

 

 港の匂いと喧噪の中、ミサトはカイルと共に商館の広間へ足を踏み入れた。磨かれた大理石の床、壁際に並ぶ帳簿と計算機。奥の長机には、商業連合の幹部たちが並んでいる。


「湯ノ花の里の代表、ミサト殿。……今回の件、、随分と大胆な手を打たれたものだな…」

 中央に座る壮年の幹部、ギルベルトが笑みとも警告とも取れる口調で言った。

「え〜、そうですかね?こちらも生き残りがかかってますから…妥当な手だとは思いますけどね!」

 そう言うと、ミサトは肩をすくめた。


 開口一番、ギルベルトは切り込む。

「妥当? 塩の八割を抑えるなど、やりすぎだ。我々の税率三割引き上げは正当な施策だったはず」

「はぁ?正当? では伺いますが、その税率引き上げで、どれだけの港町商人が得をしましたか?」

「うっ……道路維持のためだ」

「では、道路維持費の名目で徴収し、そのお金でどこを直しました? 報告を拝見しましたが、実際に補修されたのは連合直轄の港湾道路だけ。内陸への輸送路は手つかずですよね??これについてはお答え出来ますか??」


 会議室の空気がぴんと張り詰める。カイルがすかさず補足する。

「え〜、つまり、ギルベルトさん。内陸側は損だけを被り、恩恵を受けていない。そこで我々が塩を通じて直接供給ルートを作った。この利益は内陸と港の双方に還元される仕組みになってるはずです」


 ギルベルトの眉がぴくりと動く。

「……それはつまり、お前たちは商業連合を通さない新しい交易路を作ると言うのか…?」

「いえいえ、違いますよ」ミサトは首を振った。

「私たちは連合を無視する気はありません。ただ、今のルールだと双方が疲弊するだけだと思います。

 ですから提案します、、税率は現状維持。その代わり塩の港湾取引は連合の管理下で優先的に行う。港町は塩の安定供給が得られ、内陸は税負担が増えない」


 幹部たちが視線を交わす。利益を捨てるわけではない、むしろ塩取引の権利が増える。数字を弾けば、得になる構図だ。


 ギルベルトは腕を組み、短く笑った。

「ふふっ……強かだな。脅しと同時に飴を同時に差し出すとは」

「あははっ!脅す気なんてまったくありませんよ。

 ただ、全員が長く儲けられる形を作りたいだけです。甘い飴ならいつまでも舐めていたいですからね!」


 沈黙の後、ギルベルトは頷いた。

「分かった。税率は据え置きだ。塩の港湾取引は我々が請け負おう」

 握手を交わした瞬間、リリィが小さくつぶやく。

『はい。ミサト。完全勝利ですね。これは現代経営学でいうウィンウィン交渉、でも中世では《商人王の術》と呼ばれていました』

 ミサトは口元を緩めた。

「……なーんだか、また一歩“そっち側”に近づいた気がするね〜☆」


 そして使者が去った後、リリィが小さく言った。

『はい。ミサト。経済戦で攻勢に出たのは初めてですね。これはまさにカール大帝の《資源による支配》戦略に匹敵します』

「へぇ、私って結構“歴史上の大物”に近づいてるのかもね?まぁ、リリィのサポートのおかげだけど」

『はい。ミサト。近づいてるどころか、同じ土俵に立って来ている様に感じます』

「あははっ!同じ土俵に立ったら教科書に載っちゃうねぇ〜!リリィ?落書きすんなよ!はっはっは〜」 

『はい。ミサト。極太眉毛とくるんとなったヒゲを足しておきます』

 リリィの言葉にミサトは笑い、胸は誇らしく熱くなった。



            続


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