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第36話 【三つの盤面、動き出す】

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 朝霧に包まれた湯ノ花の里。

 前夜の宴の余韻がまだ残る広場で、ミサトは湯煙を見上げていた。

 外交、経済、情報。この三つを同時に動かすなんて、会社員時代でもなかった挑戦だ。

 でも、ミサトには今リリィがいる。


『おはようございます。ミサト。今日から三つの盤面を少しずつ動かしていきましょう』

「おっはよ〜!リリィ。そうだね。まずは外交からかな〜」


 第一の盤面•外交


 朝、シルヴァン村からの使者が到着した。

 昨日の同盟締結式を経て、今後の交流スケジュールを具体化するための会談だ。

「月一での物資交換会、加えて季節ごとの合同祭りとかってのは……どうでしょうか?」

「おっ?合同祭り……いいですね〜。それなら互いの特産品も売れるしね」


 シルヴァン村の使節団の一人、まだ二十歳前後の青年が、控えめに手を挙げた。

「あの〜、もし可能でしたら……合同祭りをシルヴァン村で開きませんか?踊りや競技、料理の腕比べなどを…そうする事で、シルヴァン村にも多少の経済効果が生まれるかと…」

 場が少しざわめく。単なる娯楽に聞こえたが、ミサトは即座に計算した。

「うん!いいですね。屋台は両村から出し合って、参加料を取りましょう。優勝賞品もスポンサー制にすれば負担はゼロ。湯ノ花の里とシルヴァン村との人の流れを作れますね!」


 青年の顔がぱっと明るくなり、村長も頷く。

 外交が単なる友好から、経済を伴う催しに変わった瞬間だった。

 会談の場は穏やかながら、互いの利益を確実にする条件が交わされていく。


 リリィが囁く。

『はい。ミサト。相手の文化や特産を尊重しつつ、自分の市場を拡げる……これは歴史上のオスマン帝国の交易外交に似ています』

 ミサトは苦笑しながら頷いた。

「ははは、私、だんだん商談中にリリィの歴史講義受けるのが当たり前になってきたよ」

『はい。ミサト。それでしたらあなたはとても優秀な生徒です』

 

 第二の盤面•経済


 昼には、トーレル商会のカイルと経済会議。

「ミサト、温泉塩の出荷ルートなんだけど、既存の都市商人経由より、ミサトたちで直送した方が利益率は上がると思うんだよな…」

 カイルは地図を広げ、山道や河川ルートを示す。

「ただしなぁ、、初期投資がかさむわな…荷車の増設、護衛の雇用……その他諸々…」

「ん〜、そこは村の利益分配から前払いで工面しようかな」

 経済盤面は数字と物資で動く。ミサトは会社員時代の営業経験を思い出しながら、利益計算を即座に組み替えていく。

 会議後、カイルがそっと耳打ちする。

「なぁ、ミサト。トーレル商会の中にも、湯ノ花の里ばかり得をしてると感じてる連中が多少声を上げてる…」

 ミサトは即答した。

「ふ〜ん?こまったちゃん達ね〜…じゃあ、少し甘い汁でも吸わしてあげましょうか! この祭りの物資輸送は全部商会に任せるよ。利益の一部を輸送手数料として払う形でさ」

 カイルが目を細め笑う。

「あははっ!相変わらず大胆だなぁ〜……あの連中、きっと黙っちまうぞ!」

 利害で敵を縛るやり方に、カイルは半ば呆れ、半ば感心していた。

 リリィが補足する。

『はい。ミサト。利益の一部を初期投資に回すこと、損して得取る。そして長期的な収益を確保する……これは江戸の豪商たちが好んだ戦略ですね』

「歴史の大物って、やっぱり数字に強いんだね!」

『はい。そしてミサトもそうなりつつあります』

「え〜っ?!なりつつあるのか?ならされてんのか…?わからないけどね〜」

 

 第三の盤面•情報


 夕方、ミサトはゴブ次郎と茶菓子を食い、お茶を啜って温泉で密談していた。

「ねぇ?ゴブ次!例の噂ってまだ流れてんの??」

「あぁ。『湯ノ花の里は温泉で儲けすぎている』って言ってるみたいですわ!出所は……どうも第三勢力っぽいって話しなんですけどね…」

 ミサトは少し考え、地図の端をトントンと指で叩く。

「うん。わかった。情報網をもう少し広げよう。各村に信頼できる連絡役を置いて、噂や物資の流れを常に報告してもらうようにしようか?」

「おぉ〜!了解しやしたぁー!」

 ゴブ次郎が湯気を立てる湯船から上がり、タオルを頭にかけたまま報告する。

「そう言えばボス、今度の祭り、村の若い衆が『祭りの主役はこっちの踊り娘たちが頂くぜ!』って賭けをしてましたぜ」

 ミサトは笑いながらも、手帳に小さく書き込む。

「あははっ!つまり、湯ノ花の里の娘たちをうまく前に出せば客寄せになるってことね」

 リリィが軽く電子音を鳴らす。

『はい。ミサト。これぞ文化を利用した情報操作です』

 

 湯ノ花の里の「祭り戦略」は、こうして形を整えていった。

 そしてリリィが感心した声を出す。

『はい。ミサト。情報の掌握は戦の前哨戦です。これは戦わずして勝つ孫子の教えそのものですね』

「はいっ!出ました。孫子〜! 外交と経済を守るために、情報は欠かせないってことか」


 夜、湯煙が白く立ち上る中、ミサトは三つの盤面を頭の中で並べてみた。

 外交は信頼を、経済は富を、情報は安全をもたらす。

 それらを同時に回し、強化していくことが、村と自分の未来を切り拓く道になる。


『はい。ミサト。今日のあなたは、まさに帝王学の初手を踏み出しました』

「なっはっはっ!……だったら、次は二の手、三の手だね!どんどん大きくしちゃうよ〜☆」

 ミサトの瞳は、すでに次の一手を見据えていた。



            続


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