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第33話 【影の来訪者】

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 カッサ村の使者を送り出した翌日、湯ノ花の里には静かな緊張が漂っていた。

 表向きはいつも通り、、湯屋の煙突からは白い湯気が立ちのぼり、商人たちの呼び声が響く。

 だが、ミサトの耳には別の音が届いていた。

 人々がひそひそと交わす会話。


「昨日、変な連中が町外れを歩いてたらしいぞ」

「旅人のふりをしてるが、あれは兵士の足取りだ」


 リリィが耳元で告げる。

『はい。ミサト、昨夜の見回り隊から報告です。町外れで不審者を発見。村人に害はありませんが、こちらを監視している可能性が高いとのこと』

「リリィ、それって……カッサ村の残党かな?」

『はい。ミサト。それも否定はできませんが、足跡の方向からすると西、、カッサ村とは逆側から来ています』


 西側。そこは湯ノ花の里の交易路がまだ伸び切っていないエリアで、情報も少ない。

 ミサトは直感的に悟った。

 、、、第三勢力だ。


◇◇◇


 昼過ぎ、カイルが商会からやって来た。

「ただいま戻りました〜よっと。で……面倒な話を持ってきましたよ〜っと!」

 ミサトは急いで会議室にカイルを案内する。

「なぁ〜に…面倒な話って?例の不審者?」

「そう。もう知ってたのか?商会の仲間が西の村で耳にした噂じゃ、都市ラグレアの一派が“新興温泉村の実地調査”を始めたらしい。恐らく、こっちに目をつけたんだろう…」


 都市ラグレア。

 人口数万の大都市で、商業ギルドと領主家が複雑に絡む政治の巣窟だ。

 そこから派遣された者が、湯ノ花の里に興味を持つ、、、

 つまり、ただの観光ではなく、経済や政治的価値を見ての動きだ。


 ゴブ次郎が腕を組み、唸った。

「ねぇ、ボス。そんな奴らに嗅ぎ回られたら……またカッサ村みたいなゴタゴタの二の舞になるんじゃ」

「んふふ、だからこそ、先手を打って足を止める」

 ミサトの声は静かだったが、その奥に鋼の芯があった。

「今回は、相手が名乗る前にこちらから相手を知る。そして……迎え撃つ準備をする」


◇◇◇


 リリィが机の上に小型の地図を映し出す。

『はい。ミサト。この地図に、不審者の行動パターンと足取りを記録しました。西から入り、村の外周を半周して、また西へ戻っています』

 カイルが地図を覗き込み、頷いた。

「完全な偵察だな…。しかも、かなり訓練された連中だろ。どうすんだ?」

『はい。そこで提案ですが、ミサト、、“こちらも偵察を送り、相手の正体と目的を掴む”作戦を推奨します』

「ん〜、でもさ〜、ただ尾けるだけじゃダメでしょ。足跡を辿るのは相手も想定してるはずだし…こっちはもっと別の……そう、情報の引き出し方をしないとね〜」


 ミサトの目が細くなる。

 頭の中に、かつての会社員時代の交渉現場が蘇った。

 相手の情報を引き出すには、正面からではなく、日常の会話や雑談に潜ませるのが一番だ。

 ましてや今は、異世界。酒場や市場は情報の金鉱脈だ。


◇◇◇


 夕方、、

 ミサトはゴブ次郎と数名を連れ、西の街道沿いの小さな宿場町へ向かった。

 表向きは温泉の販路拡大のための出張、、

 裏の目的は、例の不審者と接触することだ。


 宿場町の酒場は薄暗く、木の床は酒で染み込み、空気には香辛料と獣肉の匂いが漂っていた。


 ミサトはカウンター席に腰を下ろし、耳を澄ます。

 数分も経たないうちに、奥のテーブルで妙に周囲を気にしながら飲む二人組が目に入った。

 装備は軽装だが、腰の剣の位置、背筋の伸び方……ただの旅人ではない。


 ミサトは自然な笑顔を作り、酒を二杯注文。

「すいませ〜ん。お二人は旅の方ですか? 良かったら一緒にどうですか?」と言いながら二杯の酒をテーブルに置く。

 男たちは一瞬視線を交わし、やがて片方が笑って頷いた。

「ええ、まあ。我々は西から来た者なんです」

「え〜!西ですか?? じゃあラグレアの方なのかな〜?」

 ミサトがわざと軽く尋ねると、男はわずかに眉を動かした。

 その反応だけで、出身がほぼ確定する。


 会話はあえて世間話に終始した。

 天気、道中の噂、物価の変動、、、

 だが、その中で男たちは何度も「温泉」という単語を出した。

 それは興味を隠そうともしない、むしろミサトを探るための発言だった。


 リリィがミサトの脳内で囁く。

『はい。ミサト。相手は確実にあなたの反応を観察しています。ですが、こちらも十分な情報を引き出しました。ラグレア商業ギルドの探索班、恐らくは正式な先遣隊です』


◇◇◇


 宿場町を離れた帰り道、ゴブ次郎が口を開いた。

「ボス!わざわざ向こうから聞き出すなんて、やっぱりすげえな〜!」

「褒めてくれてありがとう!あぁ言う時は普通に話すのが一番バレにくいのよ。相手は警戒してても、お酒の席の雑談中ならポロっと漏らすからね」

『はい。ミサト。その通りです。帝王学における情報戦の第一歩は、“相手に質問させる”こと。こちらから聞くより、ずっと安全で正確です』


 ミサトは夜空を見上げた。

 ラグレア、、

 この第三勢力が何を求めて動いているのか、まだ全容は掴めない。

 だが一つだけ確信していた、、、

 今回の相手は、カッサ村よりもはるかに手強い。


 そして、その戦いはすでに始まっている。



            続


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