第24話 【降伏か?取引か?】
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湯ノ花の里の広場に、重い空気が漂っていた。
朝から村人たちがざわついているのは、単なる噂話ではない。
昨日、カッサ村から届いた正式な使者の言葉が、全員の耳に残っていたからだ。
「湯ノ花の里は、カッサ村の管理下に入れ。さもなくば、力ずくで従わせる」
言葉だけを聞けば単なる脅しだが、問題はそれが現実味を帯びていることだった。
カッサ村は規模も兵力も湯ノ花の里より大きく、戦になればまず勝ち目は薄い。
◇◇◇
村長の家では、急遽開かれた会議が始まっていた。
長机を囲むのは、ミサト、村長、ゴブ次郎、カンザス商会のダーレン、そしてトーレル商会の中堅でミサトの仲間でもあるカイルだ。奥にはリリィが、空中に地図を投影している。
『はい。ミサト。カッサ村の位置はここです』
リリィが赤い光点を示す。
『距離は直線で半日ほど。ただし山道を通るため、実際の行軍は一日以上かかります』
「一日で来られる距離ってことは、もうカッサ村では準備は始まってるかもしれないね」
ミサトが腕を組むと、カイルが真剣な顔で口を開いた。
「商会の耳にも噂は届いてる。カッサ村は最近、水不足で困っているらしい。さらに、農地も広げすぎて、兵力を割く余裕がないという話もある」
「ん〜、……つまり、こっちに手を出すほど余裕はない?」
ミサトの問いにカイルは頷きかけて、しかし首を横に振った。
「いや、それが逆だ。余裕がないからこそ、近場で資源や技術を奪おうとしてる可能性が高い。湯ノ花の里の温泉水は飲用には向かないが、蒸気や湯を使った農業•暖房技術は魅力的だ…」
「水不足で技術奪取か……やっぱり狙いは温泉か」
ダーレンが低く唸る。
ミサトは少し考え、机を軽く叩いた。
「なら、戦う前に条件付きで取引してみるのはどうかな? 水の代わりになる物資や農業支援を渡して、手を引いてもらうってのはどう?」
村長は眉をひそめた。
「物資を渡せば、こちらの負担も大きいぞ。
それに、一度飲ませたらまたクセになって要求されるんじゃないか?」
「そっかぁ〜?よしっ!契約内容を厳しくする。継続的な提供じゃなく、あくまで《今回限り》。 代わりに、温泉利用や農作の共同研究に協力してもらう」
ミサトの提案に、カイルが興味深そうに笑った。
「いいねぇ!商会としても、それなら仲介できる。むしろ交渉成立すれば、湯ノ花の里は交易拠点として一気に名が広まるだろうな」
ゴブ次郎が手を上げた。
「ボス、、その交渉が失敗した場合は?」
「ふっふっふっ!……その時は、迎撃の準備。見張り台と罠をもっと増やす。それに、補給路を抑える策も考える」
「補給路とは?」
村長が首をかしげると、リリィが説明を引き継いだ。
『はい。カッサ村からこちらへ向かうには、この山道が唯一のルート。物資はここを通るため、夜間に妨害すれば本隊は長く滞在できません』
会議の場に、一瞬だけ重い沈黙が落ちた。
それは、戦いを避けたいという願いと、それでも備えねばならないという現実がせめぎ合った沈黙だった。
◇◇◇
会議の翌日、ミサトはゴブ次郎、カイルとともに村の見張り台を巡回していた。
空は曇りがちで、遠くの山並みは霧に覆われている。
「どう?何か変わった様子はない?」
ミサトが目を細める。
「えぇ、ボス。特に大きな動きは無いみたいだけど。いや、、でも……さっき見張りが斥候らしき影を見つけて追ってるって連絡が入ったな…そこ行ってみやすか?」ゴブ次郎が小声で伝えた。
三人は急ぎ足で見張りが指定した尾根へ向かう。
そこで見たのは、細身の男たちが木陰からこちらを伺っている姿だった。
「敵の斥候かな……?」ミサトが呟く。
「誰でもかまわねぇ!怪しい!逃すな! 捕まえるぞっ!」カイルが叫ぶ。
三人は素早く包囲網を形成し、斥候たちは狼狽えながらも必死で逃げ出した。
その中の一人が罠にかかり、足を取られて転倒する。
「おっ?チャンス!おらっ!動くなっ!」ミサトが駆け寄り、その男の顔を覗き込む。
「名前は!?ここがどこだかわかってる?」
男は汗を拭いながらも抵抗の色を見せた。
「ふんっ!……カッサ村の斥候だ。お前らに何をされても構わん。だが、我々は強硬派。あの取引には従わんぞ!」
ゴブ次郎がこん棒を突きつけ、冷たく言い放つ。
「お前から情報を聞き出す。ちゃんと話してくれれば無傷で自分の村に戻してやる!抵抗するなら…分かるよな!」
男はうなだれながら、捕虜として連行された。
◇◇◇
その夜、村の集会所で情報共有が行われた。
ミサトは捕虜の証言をリリィとともに解析し、村長に報告した。
「強硬派は確実に動いている。カッサ村本隊も間もなく動き出すだろうね」
「大丈夫、準備は進めてある」カイルが答える。
「今晩も見張りを強化し、罠の点検も行う。
この村を奪わせるつもりは一つもない!」
ゴブ次郎も拳を握り、、
「カッサ村にこの村を取られたら、、
また俺たちは山に逆戻りだ……」
ミサトは窓の外を見つめながら、決意を新たにした。
「湯ノ花の里を守るために、私は何だってするよ。
やっとホワイトな企業に勤めることができたんだから…!ゴブ次郎だってこの村だって、、やれることは全部やって守るよ!」
こうして、湯ノ花の里の防衛戦は静かに始まった。
それは交渉と駆け引きの間に横たわる、薄氷のような日々の始まりでもあった。
続