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第23話 【迫る脅威と防衛準備】

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 湯ノ花の里の空は、朝から薄く曇っていた。

 温泉の湯気が、村の中央にある足湯広場の上をふわふわと漂い、夏の終わりを告げるような湿った風が吹き抜ける。


「……いや〜、あち〜な。朝からちょっと蒸すね〜」

『はい。ミサト。温泉のせいもありますね』

「そうだね!ここは天然サウナ村ですからね〜」


 ミサトは軽口を叩きながら、湯気の向こうから足早にやってくるシルヴァン村の使者の姿に気づいた。

 見慣れた緑色の外套を羽織り、額に汗を滲ませている。


「いらっしゃい! そんなに急いで……何かあったの?」

「……カッサ村が、ここの温泉を狙って動いているという話が入りまして…急ぎ報告に…」


 その言葉に、ミサトの笑みが引き締まった。

 リリィの無機質な声が耳元で響く。

『はい。ミサト。予想より早いですね。ですが、資源を持つ場所はいずれ必ず狙われます』


 村長を呼び、すぐに集会所で緊急会議が開かれた。

 出席者は村長、数人の古株村人、ミサト、そしてトーレル商会から駆けつけたカイルだ。


 古びた長机を囲み、全員の視線が村長へと向けられる。

「カッサ村は水不足に悩んでおると聞くが……」

 村長の声は低く、しかし重かった。

「あぁ、あそこの川筋は夏場になると細くなる。加えて……」

 カイルの言葉を遮る様にリリィが喋りだす。

『はい。ミサト。カッサ村は人口に対して耕作地が足りず、農業生産が不安定。温泉水を利用した農地開発を狙っている可能性が高いです』

 リリィが即座に補足する。


「ん〜、……つまり、向こうからすれば、ここは喉から手が出るほど欲しい土地ってわけね〜 なんとか穏便に済ませたいけど……」

 カイルが腕を組み、机の上の地図を覗き込む。

「ただ、あそこは性急なんだよな…。交渉の前に力づくでくる可能性がある」


「戦うにしても、うちは武器も戦士も足りんぞ」

「村の若いのを集めても、せいぜい十人だ」

 古株村人たちの声には焦りが混じっていた。


 ミサトは、ひとつ深く息を吸ってから、手元の紙にさらさらと線を引き始めた。


「じゃあ、まずは戦わずに済む準備から始めよっか☆

 見張り台を追加で作ります。山の入り口と北側の道沿いに二箇所。それと……温泉の蒸気を使って視界を奪う仕掛けも足していきます」


「蒸気で視界を?」

「やってみれば分かるよ。霧より濃くて、近づけなくなるよ。元の世界で観光した時に実証済みよ!」


『はい。ミサト。まさに大涌谷ですね。さらに、落とし穴と竹警報も追加配置しましょう。踏めば音が鳴る仕掛けです。人間にも動物にも有効です』

 リリィの提案に、古株の一人が顔をしかめた。


「おいおい…そんな罠で本当に止まるのか?」


「ふふ、止まらなくてもいいんです。足を鈍らせて、その間に逃げるか交渉する。時間を稼ぐことが重要なんだから…お互いに無駄に血を流す必要は無い!」

 ミサトは真剣な目で村人たちを見渡した。


 カイルが口を開く。

「それと、物資の一部を村外に避難させた方がいいな。奴らが強硬に出たときの被害を減らせる」

「……そんなことをして、村が諦めたと思われたら?」

「逆だよ。余裕があるように見える。戦う気がないと悟らせて、長期戦に引きずり込めば、相手は必ず焦る」

 カイルは地図の端を指で叩きながら言った。


 村長はしばらく黙っていたが、やがて頷いた。

「……よし、やれることをやっておこう。村の者を集める」

 その声に、場の空気が引き締まった。


 会議が終わると、カイルがミサトに歩み寄った。

「ふふ、相変わらず、戦うより先に稼ぐことを考えてそうな作戦だな」

「えぇっ!?戦うの嫌いなんだよ、私。無駄な出血は経済的損失!でも、今回は稼ぐって言うよりは無事って感じかな!」

「はは、それは商会としても賛成だ。だが……お前のやり方、敵に回すとやっかいそうだな」

「あははっ!私の味方でよかったでしょ?」

 ミサトが冗談めかして笑うと、カイルは肩を竦めた。


 午後からは、防衛準備が本格化した。

 男たちは山から木材を切り出し、女たちは竹を割って罠の材料を作る。

 ミサトはリリィの助言を受けながら、落とし穴の位置を決めていく。


『はい。ミサト。ここは斜面が緩やかなので、敵が進みやすいです。罠に最適ですね』

「OK。じゃあこっち側には竹警報を置こう」


◇◇◇

 

 夕方、第一の見張り台が完成。

 高台からは村全体と温泉の湯気が見渡せ、カイルがそこに立って辺りを見回した。


「はは……悪くないな。これなら敵が来る前に知らせられる」

「でしょ〜? あとはこの村に“諦めさせる空気”を作るだけ」

「んっ?諦めさせる空気?」

『はい。物理的防衛だけでなく、心理的圧力も重要という意味です』

 リリィの言葉に、カイルは苦笑した。

「ははは、、お前たちと話してると、戦わずに勝つって言葉が現実味を帯びるな」


◇◇◇

 

 夜になっても、村の防衛準備は続いた。

 蒸気を誘導するための木枠が温泉脇に組まれ、試験的に蒸気を放つと、わずか数秒で前方の視界が白く覆われる。

「ぬっはっはっ!これなら夜襲にも使えそうだね」

 ミサトは手を腰に当て、満足げに頷いた。


 その夜、湯ノ花の里は静かに眠りについたが、ミサトは胸の奥に小さな緊張を抱えていた。

 

 迫り来る脅威を前に、準備は整いつつある。

 あとは、相手がどう動くか、、、

 それが、この先の勝負を決めるだろう。



            続

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