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第22話 【湯ノ花の未来図と商人たちの思惑】

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 朝霧の残る湯ノ花の里。

 新設された露天風呂から立ちのぼる湯気が、村の中心までふわりと漂ってきていた。

 ミサトは湯気の香りを胸いっぱいに吸い込み、手帳を広げる。


「え〜っと、、観光ルートは……温泉、まんじゅう、ゴブリンガイドツアー……あとは何入れようかなぁ〜??」

『はい。ミサト。あまり詰め込みすぎると、お客様は疲れてしまいます』

「え〜、でもさ〜、目玉は多いほうがいいじゃん? 

 “映え”を狙わないと!バズんないよ〜☆」

 リリィの声がやや呆れ気味になる。

『はい。ミサト。映えよりも、滞在時間と消費額を伸ばす計画のほうが効果的です。そもそもミサトはバズりたい人間なのですか?」

「あはは、、私、元々SNSやる人間じゃなかったわ……」

 

 そんなやり取りを背後で聞いていたカイルが、笑いながら近づいてきた。

「よぉ!相変わらず二人とも仲いいな。

 ……いや、人とキューブの会話って仲がいいって言うのか?」

「仲良くないよ。いっつも小言ばっかり言われてるし」

『はい。ミサト。小言ではありません。事実を的確に指摘しているだけです』


「ほらね〜」と肩をすくめるミサトに、カイルは木箱を手渡した。

「ほら、例の試作品持ってきたぞ。トーレル商会の菓子職人が、温泉まんじゅうの改良版を作ったんだ。中にほんのり塩気のある温泉塩を練り込んでるらしい」


 ミサトは興味津々でひと口かじる。

「うっまぁぁ……これ、いい! 悪魔のコンビネーション… 甘じょっぱいってずるい!反則だわぁ〜☆ 絶対お土産で売れる!」

『はい。ミサト。このクオリティーなら単価を少し高めに設定しても売れるでしょうね。私は味見出来ませんが……』

 リリィがすかさず数字を計算する。


 カイルは頷きながらも、少し真剣な声になる。

「ただ、商会内部にも“湯ノ花の利益は商会が握るべきだ”って声がある。俺はミサトの独立を守る派だが……圧力はどんどん強くなるはずだ…」


 ミサトは湯気の向こうに村の人々の姿を見やった。

「ふふ……絶対に渡さないよ。この村の未来は、みんなで作るんだから…特に利益に目が眩む豚野郎にはね!」

 カイルはふっと笑い、手を差し出した。

「なら、俺もその未来図の一部に入れといてくれよ!サポート出来る所はサポートしていくからよ!」


 ミサトが微笑みその手を握り返すと、リリィが静かに告げる。

『はい。湯ノ花の里、次のフェーズに進みますね』


◇◇◇

 

 その日の午後、ミサトが湯小屋の現場確認をしていると、村の入口でざわめきが起きた。


 ゴブ次郎が慌てて駆けてくる。

「ボス!見慣れねぇ馬車が三台も……! それに、なんか雰囲気が悪ぃよ!」


 入口に行くと、トーレル商会の紋章を掲げた馬車が並び、数人の男たちが荷台から降りてきていた。

 その中心には、見覚えのない中年商人が腕を組んで立っている。

「この村が“温泉観光”を始めたと聞いた。我々商会が正式に管理を引き受けることになった。以後、商会の承認なく商売を行うことは禁止する」


「はい?いきなりどーした?」ミサトは眉をひそめる。

「それ、カイルからは何も聞いてないけど?」

「カイルぅ? ああ、あの中堅か。あいつの意見など関係ない。こちらは上の決定だ」

 中年商人は鼻で笑い、傍らの部下に指示を出した。

「温泉の施設を点検し、すべてに商会の印をつけろ。所有権を明確にする」


 ゴブ次郎たちがすぐに立ちはだかる。

「おいっ!お前ら勝手なことすんじゃねぇ!」

「あぁんっ!!薄汚ねぇゴブリンどもが!軍を呼んで全員始末してやろうか?!」 

「やれるもんならやってみろよ!後悔すんぞっ!」

「ちょっ?!ちょっと!ゴブちゃんたち!!落ち着いて。暴力反対!!今、私がちゃんと話すから」


 温泉小屋の前で睨み合いが始まり、男たちの手が武器の柄にかかる。


 その時、後方からカイルが馬を駆って現れた。


「全員止まれ! ここは俺の案件だ!」

 カイルは馬から飛び降り、中年商人と鋭く視線を交わし、静かに圧をかけながら喋り出す。

「本部からの命令なら文書を見せろ。……持ってないな? ならこれは“勝手な押収”だ。商会の名を汚すな」


「なぁ〜にを〜!この若造が生意気を……」

 中年商人が一歩踏み出すと、ミサトが前に出た。

「こっちは村として正式に事業を運営してる。あんたたちのやり方は、ただの横取りだよ!」


 一触即発の空気。だがリリィの声が脳内に響く。

『はい。ミサト。彼らは力づくで奪うつもりです。物理的衝突になればこちらが不利です。ここは証拠を取るべきです』


 ミサトは小声で頷き、懐から小さな水晶板を取り出した。

「今の会話も動きも全部記録してるからね!

 商会本部に送りつけてもいいんだよ?」


 中年商人の顔色が変わる。

「ふんっ!……記録?まぁ、今回は引き上げる。

 だが、すぐに正式な通達が届くだろう」

 彼は部下を引き連れ、馬車に乗り込んだ。


 カイルはため息をつき、ミサトの肩に手を置く。

「悪りぃ……事前に止められなかった…

 これで完全に、向こうも本気で潰しに来るだろうな」

 ミサトは笑って肩をすくめた。

「あははっ!上等。潰される前に稼ぎ切ってやる」


 湯気の向こう、村人たちが黙って二人を見守っていた。

 その視線に、ミサトは胸の奥が熱くなるのを感じた。


「みんな、今日はありがと。心配かけたね、、

 大丈夫!……絶対に守るから」

 口にした瞬間、湯気の中で幾人かが静かに頷いた。

 

 リリィが低く囁く。

『はい。ミサト。あなたは今、信用を“通貨”に変えつつあります。この価値は金貨よりも強い』

 

 ミサトは口元を吊り上げた。

「じゃあさ、その通貨で国ってやつ、買ってみよっか…、、 なんてね!あははっ!」

「あははっ!信用で国を買うってか!どこまでも面白いやつだな!」


 ミサトとカイルの力強い笑い声が村に響いた。



            続


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