第20話 【温泉は渡さない!ミサト、ビジネス交渉に挑む】
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湯ノ花の里が温泉街として活気づき始めたころ、、
村の門前に、鎧姿の男たちと、紫のマントを羽織った中年男が現れた。
「湯ノ花の里の代表は誰だっ!」
声が低く、よく通る。
彼の後ろには屈強な部下が四人。全員、こちらを値踏みするような目だ。
門前で騒ぎが起きたと聞き、ミサトが駆けつけると、すでに村長がカッサ村の使者と対峙していた。
村長は背筋を伸ばし、威厳を保とうと必死だが、汗がこめかみを伝っている。
「我々はカッサ村の者だ!そして俺は領主代理ダルネだ。貴様らが使っている温泉は我らの領地のものであるっ!」
ダルネの言葉に村長はたじろぐ。
「そ、そんなことは……まさに言葉の暴力…ここはうちの村の土地で、、」
「いやっ!領地の境界は曖昧なものだ。我らは力で守ってきた。ゆえに温泉は我らが管理する!!」
「ほら…自分でも曖昧って…言っちゃってます、、よ」
「黙れっ!力ずくで奪ってもいいんだぞっ!」
その瞬間、ミサトが割って入った。
「はいはいストップ。暴力反対〜!村長、このままじゃ不利ですよ」
「ミサト、、これは村の問題じゃ……」
「水くさいな村長、だからこそですよ。温泉はうちの大事な資源。商会に届けも出してあるし、契約権もきっちり押さえてます。
村の看板は村長のままでいいですけど、交渉は私に任せてもらえません?私の村でもあるので!!」
村長は一瞬ためらい、ダルネとミサトを見比べた。
「……わかった。だが、無茶はするなよ」
「えへへ、無茶は得意分野です」
ミサトは笑顔で答える。
リリィがすかさず突っ込む。
『はい。ミサト。それ、交渉人の口から出すセリフじゃないですよ』
「あはは!リリィ、黙って見てなさい、これは営業活動だから。やばくなったらサポートね☆」
「は〜い、交渉代表は私でーす!」
と、元気に手を上げたミサト。
エプロン姿、片手には帳簿。仕事の途中で呼ばれちゃいました感満載だ。
「んっ?なんだおまえ?……おまえが代表か?」
マント男は鼻で笑う。
「ふんっ!俺はカッサ村の領主代理ダルネだ。貴様らが掘り当てた温泉は、我々、カッサ村の領地内にある。すみやかに源泉の権利を譲渡しろ!」
「え〜っ?!えっ?!温泉はうちの村の土地ですけど?」
ミサトはさらりと返す。
「ちゃ〜んと測量も済んでるし、商会にも届け出済み。権利はうちの会社、、湯ノ花開発株式会社に帰属してますけど?」
「はぁぁ?会社?お前、、何を言って、、」
「うん、そう。会社です。温泉の利用契約も商品化も、すべて私が代表取締役として管理してます」
『ミサト。こういう時は笑顔で畳みかけましょう』
リリィの声が脳内に響く。
「はいは〜い、やってますよ〜」
ミサトはにっこり笑って、帳簿をペラペラめくりながら続けた。
「ちなみに源泉一口分の売買は、相場で200ゴールド~300ゴールド。
貸与契約だと月額20ゴールドからですね。どちらで契約なさいますか?」
ダルネの眉間がぴくりと動く。
「貴様っ!こちらは譲渡を要求しているのだ!金など払うつもりはない!」
ダルネの背後には、四人の屈強な男たちがずらりと並んでいた。
全員が槍や剣を持ち、こちらを睨みつける。
わざわざ鉄製の武具を光らせているのは、完全に威嚇だ。
『ミサト、武器での威圧効果はかなりのものです。村長の心拍数、通常の1.8倍まで上昇中』
「心拍数まで分かるの? ていうか私の方が緊張してるんだけど…圧でしっこマン漏れそう…」
ダルネは低い声で続ける。
「温泉だけではないぞっ!そこの山の木々も、石切り場も我らが欲している」
ミサトは眉を上げた。
「おっと、それは包括契約ですね。ではセット割引を適用し、、」
「ふざけるなっっっ!」と怒号が飛ぶが、ミサトは涼しい顔を装った。
「いやいや、こちらもビジネスですので。
資源の共同利用はギルド規約第七条に基づきます。
力での一方的な収奪は規約違反となり、カッサ村は商圏から締め出されるでしょうね!」
『おお。ミサト。完全に煙に巻いてますね』
「あはは…この業界、言ったもん勝ちよ」
ダルネは一歩踏み出し、槍の柄を地面に突き立てた。ゴン、と鈍い音が響く。
その瞬間、ミサトも負けじと手の側にあった温泉まんじゅうの蒸籠をドンと置く。
「うちはこういうもので勝負してるんです。力じゃなく、価値でねっ!!うちと勝負したいなら商品持ってきなっ!」
村人たちがざわつく中、ミサトは最後に畳みかける。
「私たちはお湯を売るだけじゃない。観光客、宿泊、加工食品……これからいくらでも事業は広がります。
もし契約するなら、カッサ村もその利益の一部を受け取れますよ〜どうします〜?契約されていきますか??」
ダルネの部下たちがざわつく。
ダルネは唇を歪め、低く言い放った。
「舐めやがって、、ふんっ!後悔するなよ。
力で奪われる前にな!」
ダルネはしばし沈黙した後、鋭い目を残して退いた。
「あらっ?契約は成立しませんね。
お帰りはあちらで〜す。それとも温泉でも入っていかれますぅ〜??」
ミサトは笑顔のまま門を指差した。
村長は深く息を吐く。
「やはり、おぬしでないと無理だったな……」
ミサトは肩をすくめた。
「だから言ったじゃないですか〜、営業は私に任せろって」
『はい。ミサト。先ほどのダルネの物騒なセリフ。録音しました』
「よろしい。後日、商会経由で正式に抗議するとしますか」
ミサトはひらひらと手を振った。
◇◇◇
ダルネたちが去った後、ゴブ次郎が近寄る。
「ボス、、あいつら本気で来ますぜ」
「うん、わかってるよ。だからこそ、こっちも準備する」
ミサトは真剣な表情に変わり、村の皆を集めた。
「この村はもうただの村じゃない。立派な会社だよ。
権利も資源も、知恵で守る。だから、みんな私に力を貸して」
村人たちは頷き、ゴブリンたちも拳を握る。
戦いはまだ始まったばかりだった、、。
続




