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第19話 【湯ノ花の里、宿屋大作戦!】

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 温泉まんじゅうの評判は、予想以上に早く広まった。

 あの日、試しにカンベル商会の露店へ卸した分は午前中のうちに完売したらしい、、

 午後には「明日も置いてくれ」と商人が押しかけ、週末には近隣の村から観光客がぽつぽつと訪れるようになっていた。


「ふえ〜……なんか、すごいことになってきたな〜」

 腰に手を当て、村の入り口を眺めながらミサトは呟く。

 その視線の先では、荷車を引いた客がわざわざ山道を登ってくる光景が広がっていた。


『はい。ミサト。データ上、この流れは“地方観光地の急成長”パターンになってきています』

「んっ?いや、リリィ、いきなりデータって言われても……」

『はい。ミサト。観光客の増加→宿泊施設不足→サービスの低下→評判落ち→過疎という黄金ルートです』

「んにゃっ?!過疎っ?? やだやだやだ! そんなブラックな未来はお断りです!」


 ミサトは頭を抱えた。

 実際、今の村には観光客を泊める場所などほとんどない。温泉はあっても、寝る場所がないのだ。

 民家に泊めるにも数が限られているし、衛生面だって保証できない。


「……やるしかないね!“宿屋マシマシ大作戦”だな!」

『はい。ミサト。その言葉を待っていました』


◇◇◇


 ミサトはすぐに村長やみんなを呼び出し、作戦会議を開いた。

 集会所にはゴブ次郎たちゴブリン勢、村の大工経験者、そしてまんじゅう製造班まで顔をそろえる。


「今日から宿を作りたいと思います。

 ターゲットは観光客、最低でも五部屋、食堂付き。

 できれば温泉も内蔵」

「温泉宿か! それは面白いなぁ!」

 村長が顎髭を撫でる、、だが表情はやや渋い。

「……問題は資金と人手じゃな…」


 ミサトはニヤリと笑った。

「資金はまんじゅうの売り上げでなんとかします。

 問題の人手は、、」


「人手は……??」


「ゴブリンたちに任せる!」

「おっしゃっ!!まかせろ!」

 ゴブ次郎が胸を張ると、後ろのゴブリンたちも、、

「「おーっ!」」と声を揃える。

『ミサト。ただし、素手で木材を触る前にゴブリンたちに手を洗わせてくださいね』

「リリィ!うるさっ!」

『はい。ミサト。いえ、衛生管理は大事ですよ。でないと“まんじゅうと同じ味がする宿”になりますよ』

「あははっ!まんじゅう味宿!?甘臭っ!そんなのイヤだよ〜!!」


 会議は笑い混じりで進み、建築計画はその日のうちに動き出した。


◇◇◇


 数日後、村は活気に包まれていた。

 木材を切る音、釘を打つ音、ゴブリンたちの掛け声。観光客の目にも、工事現場は賑やかで楽しそうに映った。

 村の若者たちも「俺たちにも手伝わせてくれ」と参加し、気づけば小さな祭りのような雰囲気に。


 しかし、急成長の裏には問題もあった。

 観光客の増加で水の使用量が跳ね上がり、井戸の水位が下がってきたのだ。

 さらに薪の消費が増えて山の木の伐採ペースが早まり、村長は眉をひそめる。


「ミサト、このままじゃ井戸が持たんぞ」


「えぇ、わかってます!今対策を考えてる所です。 

 ねぇ?リリィ、なんとかならない?」


『はい。ミサト。対策としては、井戸はもう一本掘るべきですね。薪は間伐材を活用。あと、スライム式のトイレを宿にも設置しましょう』


「オッケ。んー?スライム式のトイレ……旅の人が引くかもね…」

『はい。ミサト。大丈夫です。旅の人は案外、新しい体験を好むものです』

「あははっ!確かに。旅行行って初めて見るものって触ってみたくなっちゃうもんねぇ〜」


◇◇◇


 夕暮れ時、工事の手を止めたミサトは、建設中の宿屋の骨組みを見上げた。

 すでに一階部分は形になり、食堂スペースも広々としている。


 そこに、ふとゴブ次郎が歩み寄った。

「ボス!これ、俺たちの家にもなるんだな」

「うん。そうだよ〜。ここは村の宝になる」

「へへっー!だったら絶対に失敗できねえな!」


 その笑顔に、ミサトは胸が熱くなる。

 

(ただ商売のためじゃない。この村を、湯ノ花の里を、もっと暮らしやすく、訪れた人が笑顔で帰れる場所にしたい。そのためなら、、全力を尽くす。)


『はい。ミサト。今の心のセリフ、感動的ですが…』

「うん?ですが? リリィどうした?」


『はい。ミサト。現場の進捗は予定より一日遅れています』

「うぎゃぎゃっ!!いきなり現実を突きつけないでぇぇぇ!」


◇◇◇


 工事三日目の昼下がり。

 食堂予定地で木材を運んでいたゴブ三郎が、足を滑らせて板を派手に倒した。


「おっとっとっと! あぶなっ!」


 ガラガラガッシャーン!


「ぎゃあああ! 私が張った床材ぃぃぃ!!」

 慌てて駆け寄るミサト。その横でリリィが冷静に声をかける。

『はい。ミサト、落ち着いてください。破損率は全体の一二%です』

「数字で言われても! でも十二パーセントってまあまあセーフな部類でしょ??」」

『はい。ミサト。ではこう言いましょう。“ギリギリセーフではない”です』

「いやっっ!セーフじゃないんかいっ!!全然フォローになってない!!」


 幸い、大工経験のある村人がすぐに修繕に入り、大事には至らなかった。


 だが、これで予定がさらに半日遅れることに。


「……宿屋って作るの大変なんだな〜」

『はい。ミサト。そうですね。建設とは計画通りにいかないものです。むしろ、この程度のトラブルは順調な部類だと思われます』

「順調って言葉の意味、私とリリィで違わない?」

『はい。そうですね。私は数値で、ミサトは感情で判断しますから』

「はぁ、、もう少し感情寄りになってくれないかなぁ……」

『ふふ。はい。ミサト。努力してみます』


 そんなやり取りの中、夕焼けに染まる骨組みを見上げれば、心は前向きになる。

 絶対に完成させて、この村をもっと盛り上げる、、

 そう固く誓うミサトだった。


 宿屋完成まではあと少し。

 だがその前に、リリィが新しい商売ネタをミサトに差し出してきた。


『ミサト。提案です。温泉を使った“ゆで卵サービス”はいかがでしょう』

「うわぁ……また地味だけど堅いの来たな〜」

『はい。ミサト。観光地では定番の商品ですよ。安価で提供でき、追加収入になります』

「う〜ん……わかった!やってみるか!」


 こうして、湯ノ花の里はさらに動き出す。

 温泉まんじゅうに続く新名物、そして宿屋建設。

 村の未来は、間違いなく広がっていた。



            続

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