第18話 【温泉まんじゅうと契約交渉】
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翌朝、、、
まだ湯気の立つ温泉のほとりに、ミサトとゴブリンたちの姿があった。
「よーし! ゴブ次郎!今日から温泉まんじゅう作るわよ!」
「まんじゅう……ってなんだ?」
ゴブ次郎が首をかしげる。
「簡単に言うと、甘くてふわっとしてて、お茶と相性抜群の幸せの塊かな?」
『はい。ミサト。別名、糖質の塊とも言います』
「あっ!そういう夢のないこと言わない!」
昨日の湯上がりの興奮もあって、ゴブリンたちはやる気満々だった。
ただし問題は、、材料だった。
小麦粉はまだあるが、あんこに使う小豆は村にはなかった。
「ボス〜どうする?」ゴブ三が尋ねると、ミサトはキューブを見つめた。
「ねぇ?リリィ、近くで小豆が取れる場所を探して!」
『はい。ミサト。南に三キロ、川沿いの畑跡に自生している可能性あり』
「可能性って……??」
『はい。ミサト。探すのは現地です』
「ぐぬぬっ!やはり足を使わないとダメなのね……
便利なんだか、便利じゃないんだか……よしっ!行こう!」
その日の午前中、ミサトとゴブ次郎、ゴブ三郎が山道を抜けて川沿いに行き、運良く小豆を発見。
帰り道、ゴブ次郎が背負った袋の中から豆の匂いが漂ってくると、、
ゴブ次郎は「これが甘くなるのかぁ……」と何度も不思議そうに呟いていた。
◇◇◇
昼過ぎ、村に戻ると臨時の調理場が準備され、粉と水と温泉の蒸気でふかしたまんじゅう作りが始まった。
「ほら、ゴブ五郎、ちゃんと手を洗って!」
「えっ?!ちゃんと洗ったよ!少しぐらいの汚れは隠し味になるんじゃない?」
「なるか〜っ!そんな“ゴブリン秘伝の隠し味”はいらないよっ!!」
『はい。ミサト。衛生管理は顧客満足度に直結します』
「うん……リリィ、それもっと、分かるまで強〜く言ってあげて!」
試作一号が完成し、村人たちが恐る恐る口にすると、、
「うっうっ、うまぁぁぁっ! なんだこれ!」と歓声があがった。
ふわふわの皮に温泉特有のほんのりした香りが混ざり、優しい甘みが口いっぱいに広がる。
「おしっ!成功!明日ダーレンのところに持って行って商売だな☆」
◇◇◇
翌日。
ミサトは完成した温泉まんじゅうを籠に詰め、カンベル商会のダーレンの元に向かった。
「やぁ!この前の温泉工事の貸しを返しに来てくれたのかな?それか温泉事業を私にくれるとか??」
ダーレンは冗談を言って笑って迎え入れたが、ミサトが籠を開けた瞬間、その笑みが真剣な色に変わる。
「ほぉ?……これは?」
「温泉まんじゅう。ここらじゃ誰も作ってないはずよ」
「ふむ……」ダーレンは一つ摘み、口に放り込む。
咀嚼数秒後、、
「うん!契約しよう!」
「決断はやっ!でも話が早くて助かるよ!」
『はい。ミサト。ただし条件の確認を怠らないでください』
ミサトは深呼吸して、販売価格、納入本数、利益配分、そして村の名前入り包装について細かく話し合った。
「包装に村の名前?」ダーレンが眉を上げる。
「そう、うちの村“湯ノ花”ブランドで売るの。知名度アップよ」
『はい。ミサト。ブランド戦略の一環ですね』
ダーレンは数秒考えた末、頷いた。
「よしっ、問題ない。契約成立だ!」
◇◇◇
帰り道、ミサトは籠を抱えながら笑った。
「あははっ!みんなやったね、これで村の収入が安定するよ!」
『はい。ミサト。次は生産体制の確保ですね。人員配置と品質管理が課題になります』
「はいはい!わかっとりますって〜」
「へへっ、ボス。俺、試食係やりたい!」とゴブ次郎。
「毎日やったらモリモリ太るわよ!」
「えっ?ボスゴブリンになっちゃう!じゃあ隔日で!」
「あははっ!太るだけでなれるんかいっ!」
ミサトとゴブリンたちの笑い声が、村への道に響いていった。
温泉まんじゅうの試作とカンベル商会との交渉を終え、いよいよ販売開始の日がやってきた。
ミサトは朝早くから、蒸し器に火を入れ、ゴブリンたちとせっせとまんじゅうを蒸し始める。
「おお、これこれ、こないだの温泉まんじゅうの香りだぁ!」
ゴブ次郎が鼻をひくつかせながら言った。
「ゴブたち、ちゃんと手を洗ってから作ってるか?」
ミサトが厳しくチェックする。
「へい、ボス。完璧です!」ゴブ五郎が胸を張る。
村の広場には、近隣の村人や商会の関係者が集まり始めていた。
ミサトは少し緊張しながらも、リリィに囁く。
「お客さん、喜んでくれるかな?」
『はい。ミサト。データ的には成功率80パーセント以上ですね』
「80パ〜!?うん、頼もしいな!」
だが開店直後、予想外のトラブルが発生する。
蒸し器の火力が弱まり、まんじゅうの蒸し時間が長くなってしまったのだ。
「くそ、火力が足んねぇー!これは……まずいぞ!」
慌てて薪をくべるゴブ三郎。
待ちきれないお客さんの中には、落胆して帰る人もちらほら。
そこへ、ダーレンが部下を連れて駆けつけた。
「ははは、大変そうですね!火加減調整、私たちがやりますよ!」」とダーレンと部下たちは手際よく薪をくべ直し、蒸し器はたちまち勢いを取り戻した。
「助かった!」ミサトが感謝すると、ダーレンは軽く笑った。
「はははっ、今ここでつまずかれると“私たちも赤字”ですからね。まだまだ始まったばっかりですよ!」
やがて蒸し上がったまんじゅうが配られ、第一号の客が口に含む。
「うん!これはうまい!」と目を輝かせ、続々と「もう一個!」の声が上がる。
村全体が活気づき、ミサトは手応えを感じた。
「よし、この調子でがんばろう!」
『はい。ミサト。データ通りの成功です』
温泉まんじゅうは、こうして“湯ノ花の里’の名物として一歩を踏み出したのだった。
続