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第30話 【砂漠のスパイ大作戦】

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 砂漠の朝は、太陽が顔を出した瞬間から光が肌を焼きつけてくる。ラクダに揺られて城下へ降り立った二人の姿は、どう見ても異様だった。

 

 ミサトはベールを深くかぶっていたが、布の色が紫と黄緑の斜めストライプ。しかも長さが合わず、裾を踏んで何度もつまずいている。

 マリーはというと、赤と黒の布を体に巻きつけた《なんちゃって砂漠海賊スタイル》頭には羽根飾りまで刺している。

 唯一まともだったのはリリィだけだ。砂色のローブに日除けの布をさらりとかけ、現地の景色に上手く溶け込んでいる。


『はい。ミサト。……二人共……変装って言葉の意味分かりますか??』

 リリィは光を瞬かせそう言った。

『はい。ミサト。ミサト、、色の組み合わせが犯罪です。紫と黄緑?それ、カラーコーディネーターに訴えられますよ』

「えっ?変?? し、仕方ないじゃん! 残ってた布、これしかなかったんだから!洋服は自信持って着るとそのうち似合ってくるの!」

「おぉ!ミサトのもいい感じだよ! 私のは海賊風で格好いいと思ったんだけどなぁ〜♪。変??」

 マリーは胸を張り、首を傾げた。

『はい。変です。あなたは海賊っていうか、宴会芸の余興にしか見えません。鼻付きパーティー眼鏡でも買って、どうぞ大いに盛り上げてください』

「ぐっ……!だんだんと私にも厳しくなってきたな…!」


 周囲の市民は、あからさまに視線を向けては笑いをこらえていた。変装とは名ばかり、むしろ悪目立ちだ。

「あはは、、ま、まぁ怪しまれないでしょ?」とミサトが言うと、リリィは即答した。

『はい。ミサト。いえ、逆に“怪しさの塊”です。もう逆に堂々としていましょう。危なくて誰も近寄らないレベルかもしれません…』


 そんな掛け合いをしながら、ニ人は市の屋台へ。

 焼きパンと香辛料の効いた豆料理を前に腰を下ろした。


「さ〜て、ここからがスパイ大作戦よ!」

 ミサトが手を叩く。「よしっ!リリィ、景気付けにあの有名なサントラ流して!」

『はい。ミサト。著作権的に不可能です』

「ええ!? じゃあ鼻歌でも!?」

『はい。ミサト。強制的に流せば、湯ノ花の里が著作権料未払いで告訴され吹っ飛ぶとお考えください」

「告訴って!どんな著作権地獄よ!」

 マリーが苦笑して「じゃ、私が口笛でピー♪ピー♪ピ〜〜♪ってやろうか?」と提案。

「やめて! それっぽいけど微妙に違うから余計訴えられる!てか!何でマリーがそのサントラ知ってんのよ!!」とミサトが突っ込む。

 マリーはニヤニヤしながら「フィーリングっ!」と言って笑った。

 

 周囲の屋台の客に混じりながら、三人は情報収集を始めた。

 商人の話では、宮殿の警備が強化され、広場には処刑台が組まれつつある。見物のために宿も満員だという。

 別の客は「囚人が連行される時は音楽隊まで鳴らすらしい」と噂した。

 リリィはさりげなく聞き取った内容を整理し、透明な小さな板に映し出す。現代の社員がよく使うチェックリストそのものだ。

「……え、なにそれ? またリリィのおもしろ便利アプリ引っ張り出したの?」とミサト。

『はい。ミサト。あなたの“残業ノート”を参考にしました。参考にならないほど残業してますけどどどど』

「ぷぅぎぃぃぃ!やめてぇぇぇ! 私の残業ノートを人前で暴露するのののの!!」


◇◇◇

 騒ぎながらも食事を終えた三人は城下を歩いた。

「ふぅん、意外と綺麗な街並みだね」

 だが一歩裏道へ入れば、井戸は濁り、トイレは穴掘り式。

「え、まさかこの国、お風呂ないのかな?」ミサトが眉をひそめる。

『はい。ミサト。公共浴場ゼロ。水不足で井戸の管理も杜撰。衛生水準は低いです。やはりオアシスはあれど砂漠の真ん中と言った感じですね』

「うん。そうだな。あと病院も小さいな、、兵士はともかく、市民は病気で倒れるんじゃないか??」マリーが呟く。

「なるほど、外見は豪華だけど基盤はボロボロ、と」ミサトは社畜らしくメモを取る。

『はい。ミサト。企業でいえば、受付は立派だけど中身はブラック、というところですね」リリィが冷静に補足する。


◇◇◇

 

 やがて三人は大広場に出た。そこには布告が掲げられていた。

《二日後、ラインハルト王 公開処刑》

 その文字を見た瞬間、ミサトは絶句する。

「……え、リュウコクが……やっぱり何かあったんだ……」

 周囲の民はざわつきながらも、どこか娯楽を見るような目つきで布告を眺めている。


「どうする?リリィ? 直接この国の王に掛け合うのが得策かな?」ミサトがリリィ問いかける。

『はい。ミサト。直訴すれば、あなたも牢です。すぐにリュウコクに会いたいならお勧めしますが…』

 リリィは冷酷なほど淡々と答えた。

「私は殴り込むの得意だけど?牢屋襲って帰るだけならいけそうだけど??」マリーが拳を握る。

「いやいや、ここで暴れたら国ごと敵に回すわ!それこそ戦争の始まりでしょ?」ミサトは頭を抱える。


 しばしの沈黙。やがてリリィが言った。

『はい。ミサト。この公開処刑は“政治的ショー”です。逆に利用しましょう』

「んっ?つまり?」

『はい。ミサト。処刑前の前座的なショーの最中に群衆の視線が一方向に集中する。その隙を突けば、リュウコク達の牢屋からの救出も不可能ではありません』

「なるほど……つまり!」ミサトが目を輝かせ、、

「プリズンブレイクって事ね!!」

『はい。ミサト。即決ですね」リリィが小さく光を瞬かせた。

「よっしゃぁぁ! 社畜魂見せてやる! ガントチャート作ってやるぅ!」

『はい。ミサト。また出ましたね、、あなたの社畜癖……」


◇◇◇

 

 三人は宿の一室に集まり、作戦会議を始める。机の上に紙を広げ、リリィがペンを走らせた。

『はい。ミサト。まず孫子です。『兵は詭道なり』。虚を見せて実を隠す」

「はいっ!久々の孫さ〜ん♪。 で、結局何やるって事??」

『はい。ミサト。今回はまずは相手を騙します』

 マリーは大笑いしながら「あははっ!だまし討ちは任せろ! 私の海賊時代の得意技だ!」と胸を張った。


『はい。ミサト。今回はオデュッセウスのトロイの木馬を応用します』

「んっ?木馬? 砂漠に馬なんていないじゃん。乗ってきたラクダを使う??」

『はい。ミサト。馬もラクダも使いません。供物箱を作り、中に必要な道具を仕込んで宮殿に持ち込む。王室への贈り物に偽装します』

「おっ?それ楽しそう!」マリーが目を輝かせた。


『はい。ミサト。そして最後にマキャヴェッリの思想です。市民に疑念を植えつけるのです」

「えーっと、それって、つまり怪文書まき散らすってこと?」

『はい。ミサト。処刑が正義ではないという空気を作れば、群衆はざわつきます」

「うんうん。よしっ!やること決まってきたね! 社畜流に印刷・配布・回覧板方式でやるか!」ミサトが拳を握る。


『はい。ミサト。最後にヴォーバン式、脱出経路の確保です』

 リリィが地図を照らす。

『ここに古井戸と地下水路が繋がっています。今は水位が下がりここが抜け道になるはず』

「出口の確保があれば、あとは突撃あるのみだな!」

 マリーが唸る。


 三人の目が自然と輝きを帯びていく。

『はい。ミサト。D-2で供物を仕込み、D-1でビラをばら撒き、D当日で一気に救出……』

 リリィが冷静に段取りを口にする。

「リリィ!完璧じゃん!」ミサトがガッツポーズをとった。

『はい。ミサト。では、各自の役割を決めましょう。ミサトは群衆を扇動、私は二人のタイミング管理、マリーは物理突破です』

「おっけー! プリズンブレイク大作戦、始動だね!」


 砂漠の夜が迫る頃、三人の心は一つに固まっていた。リュウコクを救うための戦いが、いま幕を開ける、、。



            続

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