第29話 【砂漠の牢に響く笑い】
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地下牢はひんやりと湿っていた。
石の壁には砂が染み込み、わずかな隙間から熱い風がうなりをあげて吹き込む。松明の火は細く震え、影が幾重にも揺れていた。
「お〜い?リュウコク?」
鎖につながれたカリオスが、石壁に背を預けて口を開いた。
「お前、牢の中で何をブツブツ考えてんだよ。策士ぶってる場合か? 処刑待ちの囚人だぞ」
リュウコクは顎に手を当て、まるで学問所で考え事をしているような顔で天井を見上げていた。
「ん〜……ザイールの城門は二重、、正面突破は厳しいか、、守備兵は見た感じ千、、手練れは100と言った所か、、だけど巡回に癖が見えたな……」
「癖? そんなもん数えてどうする。俺たちは逃げられねぇ、鉄格子だぞ、、あと少しでこの世とおさらばだぞ!」
「あははっ!策を考えるのは趣味みたいなものだからさ。暇つぶしだよ〜!この暇つぶしで命が助かることもある」
軽口を叩くリュウコクに、私兵のひとりが呻く。
「自分は……暇つぶしなんかしたくない……生き延びたいだけだ……娘が、まだ三つなんだ」
「俺もだ。親が病気で金がいいから兵士になっただけで……。死にたくない」
牢内に重い空気が沈む、、
カリオスが苛立ったように足をドンドンと鳴らした。
「おい、お前ら弱音ばかり吐くな! 死にたくねぇなら最後まで粘れ! ここで腐ってたら鳥の餌だぞ!」
その言葉に兵士たちは肩を竦める。
リュウコクは小さく笑った。
「……その檄の飛ばし方、ミサトに言わせたらパワハラってやつだよ、、カリオス。ミサトが聞いたら絶対怒るな…あははっ!」
「はぁ!? なんであの女の名前がここで出てくるんだよ??」
「だって、ミサト、仲間を追い詰めるの嫌うでしょ? “兵士の心を守るのも国王の仕事です!”ってね。後でカリオスのことチクッとくね〜。殴られるよ!あははっ」 「お、おいっ、、やめてくれよ」
兵士たちがくすりと笑った。
重苦しい空気が少しだけ和らいでいく。
そのとき、牢の鉄扉が軋む音を立てて開いた。
砂漠の漆黒の薔薇のように艶やかな姿、、女王ザハラが、金と宝石を散りばめた衣をまとい、護衛を従えて現れた。
「これはこれは、、女王自らこんな場所に、、で、どう?話し合う気になった??」
リュウコクは立ち上がり、鎖を引きずりながらも頭を下げた。
ザハラは冷ややかな瞳を向け、口角を上げる。
「はははっ!話し合う気など毛頭ない!でも面白いものだな。敵国の王が、自らの首を差し出しにやって来た牢に居るとはな!!」
「ふふっ!首を差し出したつもりはない。父の誤解を解きたかっただけだ」
「ふんっ!誤解だと?」
ザハラは一歩進み、鉄格子に指をかけると高らかに笑った。
「ははは! 父も子も関係ない!先に剣を向けたのはお前たちラインハルトだっ!血を流し、我らを侵略者と呼んだ。 今さら和解を求める? 甘い! お前たちの末路は決まっている。 三日後、広場にて民衆と各国の使者の前で処刑してやる。世界に見せるのだ。このザイールに逆らった者の末路を!しっかりと遺書でも書いて今世に別れを告げる準備でもしておけっ!!」
兵士たちが一斉に息を呑んだ。
カリオスは思わず叫ぶ。
「処刑だと!? ふざけんな!てめぇ!本気でやるつもりか!?」
だがリュウコクは逆に笑い出した。
「遺書?? ごめん! 僕はラブレターしか書かない主義なんだよね。三日後か……いいじゃない、楽しみにしてるよ☆」
ザハラの眉がぴくりと動いた。
「貴様、、この状況分かっているのか? 分かってその発言なら……狂っているぞ、、」
「違うよ。人生はいつでも笑っていたほうが得だろう? 君もそう思わない? “起きもしない悩み”に時間を費やすほど人生は長くないからね……」
女王は鼻で笑い、背を翻した。
「ふんっ!……せいぜいその軽口を、断頭台の上まで持っていけ」
ザハラが去ると、再び牢は静寂に包まれた。
◇◇◇
沈黙を破ったのは、私兵のひとりだった。
「……三日後に処刑、だと……。もう駄目だ、俺は死ぬんだ」
別の兵士も呻く。
「砂漠に晒されて、鳥についばまれるのか……嫌だ、嫌だ……」
カリオスは苛立ち紛れに怒鳴った。
「うるせぇ! まだ決まっちゃいねぇ! ここで泣き言ばかり言ってると、国帰った時に笑われるぞ!」
「そうそう」リュウコクが軽く頷く。
「僕はね、こういうとき絶対諦めない。どんな窮地でも必ず糸口を見つける。僕も僕を信じる。それだけさ」
兵士たちが顔を上げた。
リュウコクは目を細め、鉄格子の向こうをじっと見つめる。
「それに……必ずチャンスは来るよ」
「本当にくんのかよ?そのチャンスちゃん…」
カリオスが眉をひそめる。
「カリオス。見てみな、、看守の歩き方。左足を引きずってる。毎晩、同じ時間にここを通る。松明の持ち手が逆だ……あれは利き腕じゃない」
リュウコクの観察に、兵士たちはざわめく。
「……お前、もう脱出計画の考え纏まり始めたのか
「ふふん♪まぁね。考えるのはタダだからね」
リュウコクはにやりと笑った。
◇◇◇
その夜。
砂丘の向こう、闇に紛れてニ頭のラクダが月を背負い、ザイールの港へと近づいていた。
ミサト、リリィ、そしてマリー。彼女たちを乗せたラクダが、砂漠の王国へ忍び寄っていた。
夜風がミサトたちをそっと撫でる。
ラクダの上、ミサトは砂漠の星空を見上げながら息を吐いた。
「星きれ〜。 でも、、うぅ……やっぱり異世界で砂漠に来ることになるとは思わなかったよ。お日様出たら暑そう……日焼け止め持ってくればよかった」
『はい。ミサト。貴女は神のおかげで化粧とマツエクが取れない顔になってますよ。ですが紫外線対策を怠ると将来のシミに直結します』
「ちょ、リリィ!やっぱそうだったの??どうりで寝起きから仕上がってるなって思ってたんだよ!てか、そこに気使うならチートよこせっての!! あっ、リリィ。それ知ってるなら!そんなシミとか現実的なこと言わないで!」
横でマリーが大笑いした。
「ははっ!お前らはやっぱりおもしれぇな!ラインハルト最大の危機に日焼けの心配かよ!」
「えぇ〜、だって大事じゃん! 女の敵は紫外線!マリーも気をつけた方がいいよ、、
『はい。ミサト。マリーもミサトも肌ケアを怠れば十年後、後悔する可能性が、、』
「やめろぉぉ!! 十年後とか聞きたくねぇ!!十年後の私はどうなっちゃってんだか?はぁ、、明日のザイールで何もなきゃいいけどなぁ〜……」
ミサトが頭を抱えると、マリーがにやにやと肘で小突いた。
「でもまぁ安心しろよ。ミサトには“夫”のリュウコクがいるからな!」
「マリーまでやめろぉぉぉ!夫婦じゃねぇぇぇ!!そもそもあいつが捕まんなきゃ今頃、私は湯ノ花の布団でスピーって寝てたのに! あっ!決めた。殴ろう!うん。殴ろう!!」
砂丘に三人の笑い声が響き、ミサトたちを乗せたラクダは静かに欠伸をしながら砂漠の王国へと進んでいった。
続




